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君が笑えば、世界は君と共に笑う。

第三章 記憶、躍進

目を覚ますと、時計の針は夜中の2時を指していた。

こんな深夜に起きることはないのに、と疑問を抱きながらおぼつかない足取りで水を一杯飲みにいく。

ハッと記憶が蘇る。

そうか、夢を見ていたんだ。

僕が女性に話しかけられましてや本を貰うなんて想像できない話だ。

そう思いふと部屋に戻ると、やはり机の上にはあの本が置いてあった。

「夢じゃ…なかったのか?」

そう言って机に向かいパラパラと本のページをめくっていく。

とあるアメリカの哲学者の本。幸せとは何なのか。

ページをめくるたびにいろいろな考えが脳裏に浮かぶ。

目はとっくに覚めてしまっていた。

とりあえず一つの単元というか、章まで読み終えると、ベランダに出て夜風に当たった。

夜空には満天の星空が浮かんでいる。

この広い宇宙の中、ただ一つ命の宿った星。

この星空を見ているとあまりにも自分の存在がちっぽけに思えた。

「おじさん、僕たちって細胞みたいだね」

唐突に小学生の時の記憶が蘇る。

おじさんは微笑みながら言った。

「ああ、そうかもしれないね。僕たちは地球という巨大な生き物の細胞にすぎないのかもね。面白いね、宇宙って」

ああ、頭が痛くなってきた。少し夜風に当たりすぎたのだろうか。

ベッドに戻り眼を閉じる。

朝、カーテンからこぼれる光に起こされた。

今日は土曜日だ。何をしようかな。

そう考えながら階段を降りる。

リビングの机にはポツンと置かれたサンドイッチと置き手紙が一つ置いてあった。

仕事に行ってくるね。出張だから帰るのは月曜日の朝ごろになりそう。いいこにしててね。

そう書かれたメッセージに僕は少し腹を立てた。

いいこって、もう高校生なんだぞ…

そう思いながらもサンドイッチを頬張る。

おおかた、朝の支度も終わったので、どこに行こうかと行き先を決める。

毎週休日一回は、どこかにいくと決めているのだ。

スマホを片手にキーワードを打ち込んで検索していく。

「 哲学者 本 聖地 」と、行間を打ち込み検索した。

ぶつぶつとネットに書いてある文章を読み上げていく。

「ある女性の人生観…今は亡き想いとは…か。岐阜県か…案外近いな、行ってみようかな」

僕は愛知県に住んでいたので、県を一つや二つまたいでの旅行はよくあることだった。

早速準備に取りかかる。母は月曜まで帰ってこない。ちょっと遅れてもいいかな。

リュックサックに荷物を入れ背負う。

いざ、家をでた。

駅までは徒歩で約10分、晴れ晴れとした空を仰ぎながら歩いていく。

駅に着き、電車に乗る。

普段見えていた名古屋の都会の景色は一変、自然あふれる見渡す限り緑の山々が見えてきた。

目的地は飛騨だ。そこにある女性の書いた本や資料の置いてある資料館みたいなところがあるらしい。

期待に胸を躍らせ、昼食の駅弁をむさぼる。

いざ駅に着くと同じところに降りる人は全くと言っていいほどいなかった。

カーンコーンと駅のチャイム音だけが鳴り響く、人の気配があまりしないその駅は、どこか少し僕と同じものを感じたような気がした。

スマホの地図を片手に、目的地へと歩き出した。




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