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持続可能な家畜の飼育は可能か?気候変動、森林伐採、生物多様性の損失に対するWin-Winの解決策 Can we raise livestock sustainably? A win-win solution for climate change, deforestation and biodiversity loss


※こちらは、THE CONVERSATION に掲載されたビビアン・アルゲレス・ゴンザレス氏(マギル大学)著記事の日本語訳です。ぜひ原文もご覧ください。

私たちは、ハンバーガーやステーキを食べることは環境に負の影響があることを知っています。私たちの食システムは、温室効果ガス排出量の4分の1を占め、北米、アジア、ヨーロッパ、オセアニアでは、農業排出量の少なくとも3分の2を畜産が占めています。

家畜は、森林破壊、生物多様性の損失、食用穀物の競合、劣悪な動物福祉環境の一因として非難されています。

解決策として提案されるのは、食生活をより植物性のものに切り替えることです。これは良いことかもしれませんが、畜産が何百万人もの人々の生活を支えている以上、完璧とは言えません。牛、ヤギ、羊を鶏や豚に置き換えることもよく提案されますが、それは一つの大惨事を別の大惨事と交換する近視眼的なアプローチともいえます。

しかし、代替農業システムはこの問題を解決することができます。家畜が環境に与える影響に対処するだけでなく、農家に新しい仕事の創出、新しいスキルの開発、コストの削減、収入の向上など、社会的・経済的な利益をもたらすことができるのです。

筆者は、メキシコの畜産部門における持続可能性の変遷を調査してきたマギル大学(カナダ)の獣医師兼博士号候補者として、心強い代替案はシルボパストラリズムにあると気づきました。

家畜を解決策の一部にする

シルボパストラル・システムとは、自然の森林生態系を模倣した農業技術であるアグロフォレストリー(樹木を植栽し、樹間で家畜や農作物を飼育・栽培する農林農法)に家畜を加えたものです。自然界に存在する、あるいは栽培された樹木、低木、草を輪換放牧して管理する手法です。

実際には、牧草地を小さなパドック(放牧場)に分け、数日おきに家畜をパドックから次のパドックに移動させます。こうすることで、放牧されたパドックは数日後には休息期間となり、植生が再生され、糞尿はより均等に分配され、土壌に栄養を与えることができるのです。さらに、動物たちは草に頼ることなく、低木や木の葉、落ちた果実などで食餌を補うことができます。

最もシンプルで安価な形態は、既存の自然林を利用した森林放牧です。農家が日陰と豊富な飼料がある広大な土地に動物を放牧します。

より管理集約型のシルボパストラル・システム形態として、果実や木材などの商業利用を目的とした樹木の高密度栽培と、より高品質で性能の良い高タンパク低木や熱帯草類の組み合わせがあります。このようなシステムは高い収量を実現しますが、実装するには、より大きな技術的知識と初期投資が必要です。

この2つの中間には、様々な地域、生態系、予算に適応できる非常に多様な育林・牧畜の方法が存在します。

古くからあるシステムがもたらす環境効果

科学者たちは、何十年にもわたって世界中で使われているシルボパストラル・システムを研究し、蓄積された研究の中から有望な結果を得ています。

第1に、新しい木を植えること(そして既存の木を維持すること)は、炭素を貯蔵することで気候変動への取組みに貢献します。また、複数の生物種に生息地を提供することで、生物多様性を高めることができます。生物多様性が高まれば、鳥や昆虫が増え、ダニなどの害虫の発生を抑えることができるため、家畜にもメリットがあります。

第2に、樹木は動物が必要な日陰を提供し、樹冠の下で涼しい気候をもたらし、熱ストレスを軽減してくれるため、動物の暮らしやすい環境を強化します。また、動物たちは生態に合わせて、探検し、草を食べ、周りを見ることができます。

輪換放牧は土地の回復を可能にするだけでなく、家畜に影響を与える寄生虫のライフサイクルを中断させることで、生産性と家畜の健康を向上させることができるのです。

収穫量と利益の増加

研究によると、通常、農業や森林のために別々に管理されている土地の生産性は、シルボパスチャーの実践によって最大55%向上させることができることがわかりました。

また、シルボパストラル・システムは、従来の一作物放牧システムに比べて、牛の体重と乳量を増加させることが報告されています。

高価な化学肥料や農薬を使わなくても飼料が入手しやすく栄養価も高いため、さらなる節約につながるとされています。

さらに、シルボパストラル・システムがもたらす多様性はキャッシュフローを改善し、不利な市場環境や天候に左右される農家の脆弱性を軽減するのに役立つとされています。これは、木材、果物、飼料、動物、畜産物の販売といった直接的な効果と、土壌への水の浸透を高めて洪水のリスクを軽減したり、干ばつ時に家畜の餌になるなど、樹木がもたらす有益な効果による間接的な効果があります。

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牧草を中心とした食事

高エネルギーの飼料、化学肥料、農薬の使用を減らすことは、持続可能なシステムを保証するための鍵であり、経済的にも合理的だといえます。人間に食はべられない草や低木、作物残渣を動物に与えることは、より安く、より効率的に資源を利用することになります。

牛の消化器官は草を主食とする飼料に適応しており、腸内微生物の助けを借りて消化されにくい草のセルロースを高品質のタンパク質に変換することができることを忘れずにいましょう。牛にとっては、人間が食べる可能性のある穀物を奪い、世界の食料安全保障を脅かす必要はないのです。

実際、牛の食事に穀物が多く含まれていると、深刻な消化器系疾患を引き起こす可能性があり、肥育場での牛の死亡の最大33%とされています。世界中の4億ヘクタールの農地が、人間の食料となる作物生産と競合する形で家畜の飼料を生産しており、家畜の飼料に対する代替アプローチは確かに優先されるべきものである。

規模の拡大:課題と機会

もし、シルボパストラル・システムが畜産の経済的、社会的、環境的な課題に対してトリプルウィン(Win-Win-Win)の解決策を提供するのであれば、なぜもっと広く普及しないのでしょうか。

アグロフォレストリーは、おそらく農業そのものと同じくらい古い歴史を持ちます。しかし、資本主義市場と高収益を追求する政策により、農業は専門化かつ工業化へと再編され、いわゆる見えない社会・環境コストが犠牲になってきました。

科学は、シルボパストラル・システムの多くの利点を証明しました。今、私たちは、世界中のさまざまな地域の状況において、その(農林農法の)採用を阻んでいる問題についての研究を進める必要があります。また、移行を促進するための政策や市場の革新に関する研究も必要です。そして、特に裕福な国々では、健全な食肉消費量の削減に向けた社会の意志が必要です。

状況は前進しています。すでに10億ヘクタール近い農地が樹木被覆率10%を超え、さらに16億ヘクタールの土地がアグロフォレストリーの方法で管理される可能性を持っているのです。

食糧システムの変革に積極的に取り組み、持続可能な代替案を求め、推進するのを躊躇している時間はありません。



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