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映画『ユー・ガット・メール』の未来予測力【20年以上前のノーラ・エフロンの洞察力の凄さ】

若い方は、ご存じないかもしれませんが、20年以上前の映画に『ユー・ガット・メール』(You've Got Mail)という作品があります。
主演は、メグ・ライアンとトム・ハンクス。いわゆるロマンティック・コメディです。

監督は、ジャーナリスト出身のノーラ・エフロン。メグ・ライアンとトム・ハンクスの共演は、『めぐり逢えたら』(Sleepless in Seattle)以来という話題性もあり、当時のヒット映画でした。

たまたま、この映画を観返す機会があったのですが、なぜか20数年の月日が経っている印象がない。なぜなのかなと思ったのですが、それは本作の未来予測が結構あたっているという点が大きいのかなと感じました。

変わる予測と変わらない予測の精度

小さな書店「街角の小さな本屋さん」を母から引き継いだ主人公キャスリーン(メグ・ライアン)ですが、近所に大型書店「フォックス・ブックス」が進出。その経営者一族のひとりがジョー(トム・ハンクス)。二人は、当然のように敵対します。ところが、二人は、その以前から、インターネットのコミュニティでメールを交換する仲だったのでした・・・という話の流れです。

公開は1998年(アメリカ)。Windows95発売からわずかの時期。インターネットって何?という世間の認識でしかなかった頃、AOLのメール通知音、You've Got Mailをタイトルにしたノーラ・エフロンのセンスに感嘆したものです。

本作は、新旧が一つのテーマとなっているのですが、この振り分けは、未来人となった今の私にはかなりの精度となっていることに驚きます。変わる予測だけでなく、変わらない予測も当たっていると思うからです。

当たった「変わる予測」

変わった予測という点では、大型書店に象徴される巨大資本による小規模小売店の駆逐がズバリ的中でした。書店に限らず、小売店は大型店に集約。日本でもスーパーマーケットは、イオン系とヨーカドー系に統合され、コンビニは、セブンイレブンを除けばナショナルチェーンは商社経営に。巨大資本と小売は不可分となりました。

また、当時珍しかったライフスタイルとしての、スターバックスなどのコーヒー店は、見事に定着。
それどころか、↓で紹介されているように、

1杯のコーヒーに2ドル95セント払って、自分に決断力があるってことを確かめるんだ。“デカフェのカプチーノをトールで”って

こんな細かいところにも予測が当たっている。今でも私はスタバが嫌いで、流暢に注文できるのがカッコイイという文化に慣れません(+_+)

またインターネットコミュニティで男女が出会うという設定も結構あたっているなと感じます。

「変わらない」予測がスゴイ

本作はでは、変わらない予測というのもあって、それが改めてスゴイなという思いがします。それが入力装置としてのキーボードです。

キャスリーンの恋人は、タイプライターオタク。PCを頑として使わない化石男として描くのですが、このタイプライターへのこだわりは、当然として監督のノーラ・エフロンのこだわりだろうと理解するのが自然です。

このあと、社会は、PCが普及し、タブレット端末が登場し、スマートフォンに移っていく過程で、パソコンはなくなるという予測も結構ありました。

しかし、パソコンはしぶとく残っています。理由は、私は入力装置の問題が大きいのだろうと思っています。

ノーラ・エフロンは、PCがタイプライターが進化したものでもあるという認識だったのではと今となっては、思えてなりません。

人類は、タイプライター、つまりキーボードに代わる入力装置を簡単には発明できないと思ったのではと考えています。これこそが、この映画で描いた予測力の最もスゴイところだと思います。

だから未来予測は面白い?

未来予測という点に着目すると、一つの傾向があって、それはその当時、勢いのあるものをどの程度見極める力があるかという点も大きいなと思います。

例えば、サッカーJリーグが誕生したころ、プロ野球は終わったと公言する人が結構いましたし、逆にJリーグが失速し、経営難になるチームが増えると、週1回程度の興行しかできないサッカーは終わりだという人もいました。

こうした現実は、未来予測について、いい加減なことをいう人が多いということを学び、随分と勉強になったものです。

その点で、本作の峻別力は抜群。ノーラ・エフロンのジャーナリストとしての慧眼は素晴らしい。

未来予測ができる人はごく限られているのは、事実でしょう。案外当たっているのは、古いものにこだわる人でもあるようです。

なぜなら、新しいものが好きな人は、その勢いを過大評価してしまうから、予測があたっていないことが多い。そりゃ、5Gとかでできることが増えれば、それに目が奪われることでしょう。光を追えば、影は見えなくなる。

新しいことにコミットしても予測は当たらない。だから未来予測は面白い。私は、そう思っています。


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