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負けてくれませんか


(2024年 7/7(七夕) 〜 旧暦の七夕まで)

一年に一度。この時期に公開しています。

───────.



─○と●─ 
この世界はよく、二手に分けられる


※ ○が●に土下座をしている。

○「お願いします!」
●「… (仁王立ち)」
○「どうか!どうか!お願いします!」
●「… (じっと○を見る)」
○「…負けてくれませんか」
●「… (○を見る)」
○「勝たせてください!」

※ ○・顔をあげて

○「…私に。負けてくれませんか。」

※ ●・溜め息を付いて

●「分かった。分かったから。もうやめて。」
○「宜しいのでしょうか。」
●「良いって」
○「それではお言葉に甘えて。土下座を解除させて頂きます。」
●「すっと立てよ」

※声を揃えて

○「よろしくお願いいたします。」
●「よろしくお願いいたします。」

※すると二人・向かい合って何やら、ファイティングポーズのようなものを取る。 一瞬、静寂。

●「負けたー (崩れ落ちる) 」
○「よっしゃー!」
●「負けました。私の負けです。」
○「まぁ、こんなもんだろう。」
●「参りましたぁ!」

※さっきと立場(態度)が真逆の二人

※そうかと思うと、背筋を正して。また静寂。

○「ありがとうございましたー!!」

※ ○・●に縋りついてお礼を言う。

○「いつも、本当にありがとうございます!」
●「やめろよ… 勝(まさる)、」

※ ○・ほっとした顔で

○「勝ってあだ名で呼んでくれるの、きみだけだよ。…一さん(はじめさん)。」

●「そうか?まぁ確かに。おまえの名前、独特だよな。」
○「そうかな?」
●「そうだよ。だって “勝利” と書いて、“かつとし ” だろ。」
○「よくある名前かと思うけど。」
●「よくある名前ってなぁ。勝利(かつとし)が下の名前かなと思ったら、それが名字だろう。」
○「そんなに珍しい?」
●「“勝利 九” (かつとしきゅう)…。数字の九と書いて “イチジク (一字、九 )”……本名・勝利 九(かつとし いちじく)、珍しすぎるだろ。」
○「親が付けた名前だから、仕方がないじゃないか。親戚はみんな、九(きゅう)ちゃんって呼ぶよ。」
●「 それは親戚だからだろ、」
○「そうだけど。皆、気軽に 九ちゃんって呼んでくれたらいいのに」
●「何だ  (“勝”ってあだ名、)気に入らねえのか?」
○「そんなことないよ。でも…」
●「何だよ」
○「う~ん。… いいよなぁ。一さんは格好良くって。一(いち)って書いて“ 一(はじめ)”。『一々(にのまえ はじめ)』。生まれながらのスターって感じ。」
●「何がスターだよ。一に一を重ねて、一々(いちいち)。 結局、にのまえ(二の前)じゃなくて、数字の二じゃねえか。」
○「持ちギャグもあっていいなぁ、」
●「持ちギャグじゃねぇ! いいか、俺はな、おまえと違って多分ずっと、この先も変わることなく、勝つことなんて知らない暮らしを送るんだ。」
○「ネガティブだなぁ、」
●「ポジティブと言え。一 (はじめ)って名前はな。数字の一(いち)って書くだろ?『何事も初めの “一歩 ” は、上手くはいかない。』だから俺の名前は、一(はじめ)と書いて、本当は-(マイナス)……(物思いに耽る)…そういう事さ。」
○「一さん…」
●「なに…」
○「その話、何度も聞いた。」
●「じゃあ、もう一回 聴け。何度でも聴け。俺の名前はな、」
○「(遮る)もういいよ。なんか、上手いこと言いすぎていて、釈然としないな。格好いいけど。」
●「そんな事、言われても。親が付けた名前だしなぁ。」

─○と●─
この世界はよく、二手に分けられる


○「あ、星…。 」
●「どこ? 」
○「消えた。 流れ星… 」
●「何だよ (悔しそう)」
○「いつも見えないよね。」

※夜空を見る二人。

○「ねぇ、一さん。星って何のために存在するのかな。」
●「なんだ、いきなり。おまえそういう事、あの子の前で平気で言うの?」
○「違うよ。何となく…(格好をつけて)、 君の瞳が…あのオリオン座よりも “蒼く ”美しいからさ。」
●「うおぇ。やめとけって、おまえ。後ろから突き落とされるぞ。」
○「怖いこと言わないでよ。」
●「どこにオリオン座があるんだよ。」
○「じゃあこれは?(また不必要に格好をつけて) 君のその唇は…さそり座よりも、すごく紅い!」
●「唇、噛みしめて血でも出たのか?」
○「違うよ!」
●「下手か!」
○「だってぇ~(うなだれる)  あ、じゃあほっぺたにする?君のその頬は…」
●「もういいよ。」

※ ○・思いきり格好をつけて、くるっと一回ターンとかしちゃう

○「あの さそり座よりも濃く紅い!」
●「風邪か!」
○「違うよ!」
●「おたふく風邪か!」
○「違うよ!もぉ~ 一さん、そういう所よくないよ。」
●「おまえが下手すぎるんだよ。」
○「じゃあお手本見せてよ。」
●「いいか。よく聞け。だいたいの女の子っていうのはな。クリエイティブな感じの奴に惚れるんだよ。ところがおまえは、どうだ? (○のこめかみをぐりぐりして) ちぃっともクリエイティブでも何でもないだろ!」
○「やめてよ。こめかみに穴が開いちゃうじゃないか。」
●「でもまぁ。おまえのその普遍的な問いに答えるとするなら。…星は。輝くためにあるんじゃねぇの。(決め顔)」
○「カッコイイー!!」
●「これくらい やれ。」
○「勉強になります!!(メモ、メモ )」

※ ●・その様子を見て

●「…よくやるよ、本当。いい加減、諦めたらどう?」
○「・・・(だんまり)」
●「なに、片想いしているのが楽しいとか?」
○「違うよ!」

※ ○・少女漫画に出てくる、主人公に片想いをする優男風に。(あくまで風に)

○「くるしいに…決まっているじゃないか!」
●「動きがうるせぇな。じゃあ なに?」
○「…彼女は。(ぽつりと) 僕に、上手くはいかないこともあるって、教えてくれるんだ。」

※ ○・空を見上げる

●「…詩人だな 」
○「え 」
●「今の、あの子が聞いたら きゅんと来るんじゃねえ」
○「今の !? どれ?どれ、これ?(優男?) 」
●「違うよ。」
○「僕さっき何ていった !? 」
●「覚えとけよ 」
○「僕。どうしてもあの子の事が、放っておけないんだ。」
●「 恋かっ!」
○「 恋…(自分で言って恥ずかしくなる。もじもじ) 」
●「見ているこっちが、こそばゆいわ。」
○「だって!あの子。…いつも “あいつ”に、ひどい扱いを受けているんだ。」
●「ひどいってどんな?」
○「一年に一回しか会えない。何を考えているんだ。あいつ!僕なら毎日、…24時間。一分一秒 片時も離れず、傍にいるのに。」
●「気持ち悪りぃ。仕方がねえだろ。 “おり…”」
○「あぁーー!!(言葉を遮って、突然の奇声)」
●「なに!?」
○「いや、その… 」
●「なんだよ、」
○「…何でもない。あ、星。」
●「どこ!? 」
○「 嘘。」
●「おいぃ !! そういう嘘やめろよな。俺だって、星見たいんだよ !!  (おこる)」
○「ごめん 、(素直に謝る)」
●「元はと言えば “あの二人 ” が悪りぃんだろ。仕事をさぼったりするから。」
○「え、なにか知っているの!?」
●「知らねえのかよ! (逆に驚き )」
○「おしえて (食い気味)」
●「…元はと言えば、あの子の父ちゃんが、あいつと見合いをさせたんだよ。」
○「見合い!? 」
●「それで一緒になって、」
○「ええぇ!? 待って…既婚? 結婚しているの、なんで!? 」
●「いちいち、うるせぇな。一緒になったはいいけど、働かなくなったわけ。あいつも、あの子も。」○「なんで?」
●「知らねえよ。」
○「本当かなぁ、」
●「本人に聞けよ。まぁ噂だけど。それでこれはまずいと思った、あの子の父ちゃんが二人を別れさせた。」
○「随分と強引だなぁ…よっしゃ!(ガッツポーズ )」●「喜ぶな。ところがそれでも働かねえから、交換条件を出したんだとよ。」
○「交換条件? 」
●「お互い真面目に働く代わりに、一年に一回。会うことを許された。それが七夕伝説の始まり。」
○「伝説?」
●「 “織姫と彦星 ”」
○「ああぁぁーー!!(突然の奇声)」
●「なんだよ。さっきから、」
○「それ、みんなも知っている話?」
●「みんなかどうかは、分からねえ。」
○「そうなんだ… 」
●「でもおまえが “織姫 ” に惚れていることは、俺のまわりみんな、知ってんぜ。」
○「ああぁああー!!(図星の奇声 )」
●「うるせぇ!」
○「ねぇ 誰かに、」
●「言ってない。」

※ ○・安堵

●「言ってないけど、みんな知ってんぜ (念押し)」
○「ああぁああー!!(図星の奇声 )」
●「うるせぇよ!」
○「みんなって!?」
●「おまえの両親も 」
○「なんで!?」
●「おまえのその態度で。」
○「ああぁああー!!(羞恥心の奇声 ) なんでだよぉー!!(のたうち回る)  まさか、(疑う)」
●「言ってない。おまえの両親と、うちの親仲いいじゃん 」
○「そっか…ああぁー。恥ずかしいよぉ~! (じたばた激しく、新鮮な魚のごとく )」
●「その姿を見ている方が恥ずかしいわ!」

※ ○・がばっと起き上がり●に縋りつくと

○「ねぇ。だれにも、言わないでぇ。だれにも。」
●「言わねえよ… (空に向かって高らかに ) おまえが本気で織姫ちゃんのことが大好きだなんてさぁー!!」
○「やめてよぉ~!(再び ごろごろのたうち回る)」



─○や●─
この世界はよく、二手に分けられる


※そこへまた、流れ星

※ ○・寝転がっていて、それに気付く。空をさして

○「 あ、星… 。」
●「 どこ?」
○「消えた。流れ星…」
●「何だよ (悔しそう)」

※夜空を見る二人。

●「しかしまぁ、皮肉なものだよなぁ…。白星のおまえが、彦星には敵わないなんて。」
○「まだ負けたわけじゃないもんね!(むくっと起き上がる )」
●「負けず嫌いが。」
○「ねぇ、一さん。」
●「うん?」
○「相撲の番付表ってあるじゃん?」
●「またその話か。」
○「一さんだって、さっき格好つけて 一とマイナスの話をしていたじゃないか。」
●「いま、格好つけてって言ったな。」
○「ごめん。」
●「それで?」
○「相撲ってさ、勝ったら 白星って言うじゃん? 負けたら黒星。あれってさ。なんで “○と● ” (しろまるとくろまる) で表現するのかな。実際に白い星(☆)と、黒い星(★)で書けばいいのに。楽しくなるよ。番付表。」

※ ○・地面にらくがきを始める

●「おまえ相撲好きなの?」
○「うーん…いや別に 」
●「じゃあいいじゃん。別になんだって 」
○「うーん…番付表が きらきらするのになぁ…。」

※ ○・地面に○や●、■や□などを描いて話していた その時、

●「あっ!!(大声) 」
○「なに !? 」
●「今の!!」
○「なに !? 」
●「見た !? 」
○「見てない、」
●「なんだよ、おまえ…今、空が動いたぞ 」
○「空が?」
●「すーっと動いて、消えてった。」
○「星じゃない?」
●「ほし?」
○「流れ星。」
●「流れ星… あれが、おまえが言っていた流れ星かぁ! (感動) 」
○「よかったね。凄いじゃん。ようやく観られて。」
●「なんか…なんかすげえな。何でも出来そうな気がする。」

※ ○・●の隣で空を見上げる

○「そうなんだよ。星を観る度に、もう少しがんばろうって。あと少し。あと少しって思うんだ。」

●「なんかさぁ、俺。」
○「うん?」
●「次の試合、勝つ気がする。」
○「うん…うん !? え、なんで?」
●「星を観たから。」
○「星、関係なくない?」
●「そうだけど、なんか勝ちそうな気がする。」
○「え、」
●「何ならちょっと、負けられないとさえ思えてきた。」
○「え、」
●「負けられない…。」
○「ちょ、ちょ、ちょっと待って。落ち着こう。」

※ ○・●を一旦、座らせる。

○「僕たちってさ。…何?」
●「ともだち。」
○「うん。ありがとう。嬉しいんだけどさ。なんて言うのかな。そういう事じゃなくて。(考えあぐねる) 」
●「何だよ。いきなり恋人同士じゃあるまいし… 」

※ ●・あらぬ方へ勘違い

●「おまえ、まさか!え。そういう事!?」
○「ん?なにが?」
●「フェイクかよぉ~」
○「うん?」
●「だとしたら織姫ちゃんが可哀想じゃねえか。まんざらでもなさそうなのによぉ。」
○「えええ!?待って、待って、どういうこと!? 何か勘違いしてない? でも待って、 “まんざらでもない”ってどういう事!?」
●「(肩に手を置き ) まぁ、せいぜい謳歌しろ。」
○「 …うん」

※静寂

●「さ!次の試合まだかなぁ~(ウォームアップ) 」
○「違う、違う、違う、違う。」
●「何だよ、試合前だぞ! (ピリピリしだす)」
○「急にピリピリしないでよ。なにスポ根 !? 待って。あのさぁ。」
●「なんだよ 」

※ ○・思わず大声で

○「きみは “ 黒星。負け組” じゃないか!」
●「・・・」
○「(ハッとして)ごめん!」
●「ずっとそんなふうに思っていたんだ。」
○「違う!」
●「正直に言えよ 」
○「・・・」
●「やっぱり…」
○「ちがう…きみが負けてくれなきゃ、僕は勝てない……僕は、ただ “勝たされている” だけの価値だから。」

※ ●・ 一瞬、訝しがる

○「お願いします!(いきなり土下座 ) 」
●「なんだよ、いきなり」
○「どうか!どうか!お願いします!…負けてくれませんか 」
●「なに、言っているんだ。それはおまえの儀式だろ。」
○「儀式?」
●「試合前の、ルーティン。緊張を解きほぐすための、」
○「違うよ。僕は本気だよ 」
●「はっ?」
○「いつも本気でやっている」
●「はぁ !? てめぇ、」
○「僕の本気が伝わらないというのなら、もっと本気で頭をさげるから!お願いします!」

※ ○・頭を地面に擦り付ける

●「ふざけるな!!」
○「勝たせてください!」

※ ○・顔をあげて

○「 …私に。私に負けてくれませんか。」
●「そこまでして勝ちてぇのか!」
○「そこまでして勝ちたいよ!だって…僕は、きみに “勝たされている” だけの価値だから。」
●「意味分かんねぇ… 」

○「この世界はよく、二手に分けられる。
 白星と黒星。 勝ちと負け。 僕ときみだ。

 きみはいつも負けるけど、本当はみんな、きみが僕より、余裕のある人だから。僕 (勝)に “負けてくれていて ”  “勝ちを譲っている ” と思っている。」

●「そんなわけねえだろ。わざとやっているとでも言うのかよ !? 」
※●・語気が荒くなる

○「違う、そういうことじゃない。口にはしないだけだよ。 (おもむろに立ち上がって、) …自分のいる立ち位置は、多くの負けた人たちが、行きたくても行けなくて。辿り着きたくても、辿り着けなかった場所だということを。
   みんな、一さんの存在を知っている。」
●「・・・意味わかんねぇ…。」
◯「嘘つき」
●「…。」

○「僕に “おめでとう” と言う人は確かにいっぱいいるよ。だけど、水面下では “ 勝って当たり前 ” だと思われている。“いつも”勝って当然という顔をされるんだ。」
●「そんなことねぇだろ。」
○「そんなことあるんだな。みんな僕に注目するけど、本当はきみを慕って、尊敬している。僕をこわがって、遠ざけておそれて。一さんを慕う人の方が多いんだよ。」
●「そんなこと、ある訳ねぇだろ。」

※●・語気が荒くなる
※◯・だがそれを押し返す様に語気を一瞬強くする。

○「ある !! 僕にはある。だからたくさんの仲間に囲まれて、いつも楽しそうじゃないか! …僕なんかとは違って。」
●「 仲間?ただの仲良しこよし… 傷のなめ合いって 素直に言えよ!」
○「そんなところで本当の、ネガティブにならないでよ!! 捻くれ者!」
●「 …捻くれているのは、どっちだよ。」
○「・・・」
●「・・・」
○「だれも本気で戦って負ける人を責めたりしないじゃないか。それに。勝った僕より、いい顔をしている。」

※ ●・意表を突かれる

○「僕は、勝っても嬉しくない。どれだけ勝っても足りない。満足しないんだ。ダメな所ばかりに目がいってしまう。」
●「・・・」

○「きみが負けられないとなると、僕 (勝)の立場が…なくなってしまう…僕は、きみ以外、ともだちはいない。僕の九(いちじく)という名前も、アラビア数字の最後尾。一位なんかじゃないから親は、そういう名前を付けたんだ。勝つこと以外とりえもない。

  一位なんて獲ったところで、…何もない…誰もいない…孤独だ。いつも蝕まれそうなんだ…何かに。」

●「しっかりしろよ。」

○「きっと、『みんなが自分の事のように喜んでくれる一位』というのは、一さんのように、負けたことのある人が勝ち取った一位だ…。僕は、負ける悔しさを知らない、“情けない白星 ” だ。」

●「おまえちょっと、休め。」

※ ○・さらに被害妄想が続く

○「 『あいつ余程の事をきみ(負)にしたんだ』って、後ろ指を差されるに違いない。…ただでさえお飾りの僕が、さらに価値のないものになってしまう。…勝利の価値がなくなってしまう。
   ぼくは…きみには敵わない。きみを負けという立場にしているのは ぼくなのに、」

●「ちょっと、だまれよ。」

○「きみはいつも明るくて。楽しくて。ぼくみたいな奴と仲良くしてくれて。ともだちって呼んでくれて。勝ってあだ名まで付けてくれて。そんなきみが… 」
●「ふざけるな!」
○「え 」
●「(溜め息)てめぇ…結局は自分のことばかりじゃねえか!」
○「ごめん、ごめん…でも!」

●「勝ちたくて 勝ちたくて、仕方がねぇ奴が山ほどいるんだよ!なにが『負けてくれませんか』だ!ふざけるな! 毎回毎回、言われるこっちの身にもなってみろ!どんな思いで聞いていたと思う?
 本気で戦う人間を、叩きたい奴は叩けばいいさ。挑戦すらしていない奴に、何を言われたって、ビクともしねえ。だけどおまえは、何なんだ!
   なんで俺は、おまえじゃねえんだ! いつもいつも自信がなくてビクビクしやがって。知らねえところで、こっちが考えもしないやり方で、クソほど真面目に、血が滲むような努力ばっかりしやがって。
   結果ばっかり残しやがって!! …なんで俺は負けるんだ!おまえに羨ましがられたって、勝てなきゃ意味ねぇんだよ!仲間がいたって、思い出話が出来たって。それだけじゃあ虚しいだけで、意味ねぇんだよ!! 今、戦って挑戦してんだよ!おれも、おまえも!!」

○「ごめん。ごめん、一さん。」

※ ●・悔し泣き

●「なんで俺は、おまえじゃねえんだ… 」
○「ごめん…ごめんよ。」
●「なんでおまえは…腹が立つくらい眩しいんだよ、」
○「ごめん。」
●「…おまえ、泣いたことねえだろ。」
○「え?」
●「悔し泣き…したことねえだろ… 」
○「……ない。」
●「・・・。」
○「みんなが分かることが、僕には分からない。…情けない。悔しい…。だけど、僕の悔しいと、一さんの悔しいは違う。」
●「一緒でたまるか。」
○「ごめん…」
●「くそっ、ないものねだりが。」
○「ごめん」
●「しっかりしろよ。頼むから。」
○「うん…」
●「…叫んだりして、悪かった。」
○「ううん、僕の方こそごめん。本当にごめん。いつも自信がなくて。」

※その時、また星が輝く

○「あ、」
●「なんだ?」
○「 … 」
●「星か?」
○「うん。流れ星」
●「俺には見えねえ、勝ち星というわけか。」
○「・・・」

※夜空を見る二人。

○「さっきは、見えたんでしょ?」
●「あぁ、多分。」
○「また見えるよ」
●「慰めはよせ」
○「慰めじゃない。きっと見える。同じ流れ星、きっと見える。」
●「…そうだといいけどよ。」


─○や●─
この世界はよく、二手に分けられる


●「なぁ。もしかしたらさ。もしかしたらだけど。」
○「なに?」
●「おまえに見える景色があるように、俺にも俺にしか見えない景色っていうのが、あるのかもな。」
○「どういう事?」
●「勝つからこそ見える景色が。負けるからこそ見える景色が。俺には俺の。おまえにはおまえの。見える景色がある。もしかしたらその両方を見られるやつもいるんじゃねえの。」
○「そんな人いるのかなぁ。」
●「さあな。もし、いるとしても本人が見ようとするかどうかじゃねえの。
 同じ所にいて、同じことをしていても、感じ方や捉え方は、違うだろ? それと同じさ。所詮、俺とおまえのちがいなんて。その”所詮“程度のちがいで、こうも違うのかよと思うこともあるけどさ。」

※◯・多分釈然としていない。

○「そうだといいけど。」
●「なぁ、九(きゅう)…九ちゃん。」

※ ○・一を見て驚く

●「そこから見える景色は、孤独か?」
○「 一さん…」
●「みんな遠慮してんだよ、おまえに。
    圧倒的な実力の差って、直視できないんだぜ。」
◯「…うん」
●「俺なんか、一位でもないのに 一(はじめ)だぜ。」
○「 … 」
●「笑えよ」
○「笑えないよ」
●「本当に。孤独だけか?」
○「 … 」
●「おまえに見える景色は。」
○「分からない。」
●「よく観ろ。」

※ ○・空を見上げる

○「僕に見える景色はね。 (じっと夜空に目を凝らす )……とっても うつくしいよ。この世界に、これほどまでに、美しい世界があるのかというくらいに。」
●「そうか。よかった。」
○「え?」 
●「羨ましいぜ。おまえが。」
○「・・・」
●「俺に見える景色はな。すごくやさしいんだぜ。」
○「やさしい?」
●「おまけに、あったかい。
 あったかいついでに、教えてやる。おまえは勝たされた “勝ち” じゃない。挑む事すら疲れてやめてしまう者がいる中で、勝ってきた。誰が何と言おうと勝ってきた。この勝負の世界で、俺はやっぱり…おまえが羨ましい。」
○「 一さん…」
●「ないものねだりだな。」
○「うん…(涙ぐむ)」
●「だからもう、白星がみっともねぇ事するな。負けてくれませんかなんて、二度と言うな。」
○「うん…一さん……」
●「うん?」
○「そろそろ泣いてもいいですか?」
●「悔し泣きか?」
○「違うよぉ…嬉し泣きだよ~(●に抱きつく)」
●「やめろ、放せよ」
○「格好いいよぉ~、一さん…」
●「離れろって (照れくさい)」
○「やっぱり格好いい 」
●「(悔し涙を拭って にやり )」

※すると ○・何かに気付く

○「あ、試合… 」
●「始まるな」

※向かい合って、ファイティングポーズのようなものを取る。 一瞬、静寂

※声を揃えて

○「よろしくお願いいたします。」
●「よろしくお願いいたします。」

●「いちばん大事なのは、」
○「勝つこと、」
●「負けることじゃねぇ。」

※声を揃えて、爽やかに

○●「「挑み続けることだ!」」

○●「「さぁ、勝負だ!」」



─○や●─
この世界はよく、二手に分けられる


勝った人も。負けた人も。

同じ光の出力で輝いている。

違うのは、輝く “ 色 ”のちがいだけ。


勝った人にも、負けた人にも、

その頭上には、実は見えない冠がのっていて、

それはそれはとても眩しく輝いている。

見えないから誰にも知られていないけど。

  ○や●、実は彼らも、その存在を知らない。

それを知っている人がいたとすれば、その人は世界を俯瞰し、試合に挑まず勝負をしてこなかった人。もしくは勝ったこともあって、負けたこともある人だ。 

  見えない冠の存在を、

みんながあまり口にしないのには、

それなりの理由がある。

それは勝負の『結果』は、“ 終着点 ” ではない。

『通過点』だからだ。


え、わたし?

わたしはだれか?

ずっと出て来ていたじゃない。

 ─○や●─ 

そう。わたしは『や』の “ 休戦日 ”



戯曲『負けてくれませんか』

完。





栄冠は君に輝く




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