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宇宙を感じさせた『三体』の世界

 The Three-Body Problem


 先日、NASAが公開した、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による画像は、ほんとスゴかったですね~。
 ハッブル宇宙望遠鏡以上の解像度ということで、なんか、ひたすら圧巻でした。

「イータカリーナ星雲」
「ステファンの5つ子銀河」

 この「ステファンの5つ子銀河」の画像とか見ると、もうスケールが大きすぎて、どうなっちゃってんの~と思いつつ….   
     5つの銀河が近接してるなんて、どんな感じで影響し合っているのかなんて考えると、3つの天体が影響し合う "三体問題" を含んだSF小説、『三体』を思い浮かべちゃうんですよね。


 中国のSF作家 劉慈欣りゅうじきんの『三体』シリーズは、私にとって、数年に渡って楽しませてくれたSFシリーズでした。
 2019年の第1作『三体』から、2020年の『三体Ⅱ:黒暗森林』に続いて2021年は『三体Ⅲ:死神永生』と、年1巻のペースで刊行されたシリーズは、次巻の刊行が待ち遠しいという、久しぶりの感覚を味わわせてくれた本でした。


 中国では2008年にリリースされるとすぐに評判となり、2014年には英訳版も出版され、翌2015年にはアジア作品としては初の米 ”ヒューゴー賞” を受賞した作品です。
 オバマ大統領を始めとした、いろんなリーダーも読んでるSF小説として、日本でもかなり話題となりましたが、つい先日、違う作家が描いたという『三体X』もリリースされたりして、まだまだ国内での話題が尽きないシリーズです。

 ちょっと、今さら感はあるのですが、時事的なこともあって、今回は、この『三体』について "note" していこうと思います。


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=== ここからネタバレを含みます ===

 そもそも、自分が読了した際に記事にしなかったのは、このシリーズの面白さを伝えるためには、1巻目の『三体』をネタバレすることが避けられなかったからなんです。

 ところが、シリーズ刊行終了から1年が過ぎて、新たに『三体X』がリリースされることにもなったので、以下のリンクのように、第1巻のダイジェストコミックなんかも公開されていて、そろそろいいのかなって思ったのです。

 もともと、第1巻はシリーズの中で長い長いプロローグみたいな位置づけなんですよね。
 なので、今回は第1巻のネタバレとなりますが、この『三体』シリーズの構造について触れていきます。(リンクのマンガ版ダイジェストもお読みください。)


 この『三体』シリーズは、人間以上の科学力を持つ異星人との戦いを描いた物語です。(文字にするとベタですね💦)

 過酷な「三体世界」に住む ”三体文明” の移住の為に、地球が侵略を受けるという話なんですが、第1巻の『三体』では、人類が ”三体文明” の存在を知るまでが描かれ、第2巻の『三体Ⅱ:黒暗森林』と第3巻の『三体Ⅲ:死神永生』で、人類と ”三体文明” の攻防が描かれる構成になっています。

【”三体文明”の主力大艦隊がやってくるのは450年後】

 カウントダウン付きの異星人侵略ものというと、自分の世代としてはSFアニメ「宇宙戦艦ヤマト」を想起せずにはいられません!
 『三体Ⅱ:黒暗森林』では巨大な宇宙艦隊も出てきたりするので、さらに「超時空要塞マクロス」や「銀河英雄伝説」なんかの匂いも感じて、作者の 劉慈欣りゅうじきんは、日本のSFから地続きの作家さんなんじゃないかと思っちゃうぐらいです。

 第2巻以降の、「人類と ”三体文明” の攻防」については、これまでのSF小説とは一味も二味も違っていて、とても面白いんです!

 人間以上の科学力を持つ ”三体文明” は、特殊な監視装置やAIのようなものをすでに地球に送り込んでいて、450年後までに地球の科学が自分たちの科学を凌駕しないよう、物理学者らを暗殺するなど、科学の進歩を妨害してる設定なのです。
 第2巻では、そんな一枚上手の ”三体文明” に対して、人類は(進歩を阻害されている)科学力だけでなく、知力による戦いを挑むわけなのです。
 人類と ”三体文明” の違いを基に立てられた作戦に、私たち世代としては「プ、プロトカルチャー!!」と叫ばずにはいられない展開なのです。(リン・ミンメイは出てきませんが…)

 そして、最終巻では、想像の限界を遙かに超えて、見たこともない世界に連れて行ってもらえるハードな展開を見せるので、最後まで読むと、思わず「うぉー!」ってなっちゃうこと間違いなしなのです。

 決して、短い物語ではありませんが、『三体X』がリリースされた機会に、夏休みの課題図書として取り組んでみるのも楽しい読書だと思うのです。


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 冒頭にも書きましたが、今回の記事を書くきっかけとなった時事的なことが3つあって

 一つ目は新作『三体X』のリリース
 二つ目は冒頭のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の画像公開
 そして、三つ目が、先日、中国環球電視網(CGTN)等で公表された「中国天眼」による地球外文明の信号を発見のニュースです。

 「中国天眼」というのは、直径500メートルの世界最大の球面電波望遠鏡 ”FAST” の通称です。

 この、巨大電波望遠鏡で収集されたデータの中に、地球外文明からの候補となる信号を発見したとの発表があったんですよね。

 まあ、これまでも、いろんな信号らしきものは世界中でキャッチされてるんで、”地球外文明とする根拠は薄い”と思うんですが、このニュースを見て、やっぱり『三体』を思い浮かべずにはいられなかったんです。

 というのが、『三体』で ”三体文明” が地球を侵略しようとするきっかけとなったのは、人類に絶望した科学者が、地球外文明に信号を送ることから始まってるんですよね。

 「中国天眼」のニュースの真偽は別として、小説世界の後をついて来てるような感覚がしてですね~、なんとも言えない感じです。
 イギリスの物理学者、故スティーブン・ホーキング博士が、地球外生命体とのコンタクトは「全人類にとって良いことではないかもしれない」ということを理由に「中国天眼」の建設に反対していたって話もあるんで、なんか、そのまま『三体』世界へどうぞ〜!って感じなんですよね。

 同じ中国に「中国天眼」と『三体』が同居してるって、なんか面白いと思いませんか?
 うんうん。まあ、私としてはですね、なんか『三体』世界を通じて宇宙を考えるニュースだったんです。

    地球外の文明ってどうなんでしょうね…


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 さて、スケールの大きな『三体』シリーズなんですが、シリーズに手が出しづらいと感じる方には、昨年リリースされた 劉慈欣りゅうじきんの日本版短編集『』が入り口として最適です。


『円 劉慈欣短篇集』

(収録作品一覧)
「鯨歌」
「地火(じか)」
「郷村教師」
「繊維」
「メッセンジャー」
「カオスの蝶」
「詩雲」
「栄光と夢」
「円円(ユエンユエン)のシャボン玉」
「二〇一八年四月一日」
「月の光」
「人生」
「円」

 以上、全13篇が収録されていますが、中でも表題作となっている「」は、『三体』の一部にもなっている短編なのです。

「円」

 円周率の中に不老不死の秘密がある… 10万桁まで円周率を求めよという秦の始皇帝の命を受け、荊軻けいかは300万の兵を借りて前代未聞の人列計算機を起動した!

 現代中国SFアンソロジー『折りたたみ北京』にも収録されていた作品です。これがSFかどうかは置いておいて、中国四千年の大陸的なスケールを感じることのできる傑作だと思いますので、ぜひ!なのです。




(SF関係note)

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