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この「このミステリーがすごい!」海外編歴代1位作品がすごい!

 

 これまで、通算33作品を数える「このミステリーがすごい!」の海外編歴代1位作品。

 自分が海外翻訳ミステリーを読み進めるに当たっては、とりあえず全部読んでみようと思い、毎年、5〜6作品ずつ読んできたのですが、先日、ついにコンプリートしてしまいました!

 コンプリートを記念して、この海外編歴代1位作品について、考えたことを”note”していきたいと思います。

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【海外編歴代1位作品一覧】

1989 夢果つる街(トレヴェニアン)
1990 羊たちの沈黙(トマス・ハリス)
1991 薔薇の名前(ウンベルト・エーコ)
1992 策謀と欲望(P・D・ジェイムズ)
1993 骨と沈黙(レジナルド・ヒル)
1994 ストーン・シティ(ミッチェル・スミス)
1995 シンプル・プラン(スコット・スミス)
1996 女彫刻家(ミネット・ウォルターズ)
1997 死の蔵書(ジョン・ダニング)
1998 フロスト日和(R・D・ウィングフィールド)
1999 フリッカー、あるいは映画の魔(セオドア・ローザック)
2000 極大射程(スティーヴン・ハンター)
2001 ポップ1280(ジム・トンプスン)
2002 神は銃弾(ボストン・テラン)
2003 飛蝗の農場(ジェレミー・ドロンフィールド)
2004 半身(サラ・ウォーターズ)
2005 荊の城(サラ・ウォーターズ)
2006 クライム・マシン(ジャック・リッチー)
2007 あなたに不利な証拠として(ローリー・リン・ドラモンド)
2008 ウォッチメイカー(ジェフリー・ディーヴァー)
2009 チャイルド44(トム・ロブ・スミス)
2010 犬の力(ドン・ウィンズロウ)
2011 愛おしい骨(キャロル・オコンネル)
2012 二流小説家(デイヴィッド・ゴードン)
2013 解錠師(スティーヴ・ハミルトン)
2014 11/22/63(スティーヴン・キング)
2015 その女アレックス(ピエール・ルメートル)
2016 スキン・コレクター(ジェフリー・ディーヴァー)
2017 熊と踊れ(アンデシュ・ルースルンド、ステファン・トゥンベリ)
2018 フロスト始末(R・D・ウィングフィールド)
2019 カササギ殺人事件(アンソニー・ホロヴィッツ)
2020 メインテーマは殺人(アンソニー・ホロヴィッツ)
2021 その裁きは死(アンソニー・ホロヴィッツ)


 なかなか読み応えがありそうだと思いませんか?
 作品数ももちろんですが、多くの作品が500頁越え、または上下巻の大作だったりします。
 33作品のうち、短編集は2006年の「クライム・マシン(ジャック・リッチー)」と、2007年の「あなたに不利な証拠として(ローリー・リン・ドラモンド)」だけしかないので、基本は長編作品ばかりなのです。

 全部を読もうと思えば、ちょっと覚悟が必要ですが、まあ、気になる作品を読んでいく程度がいいのかもしれませんね。


=ランキング方法による特徴=

 「このミステリーがすごい!」のランキングは、編集者が選んだ ”読書のプロ” たちが、その年の ”BEST6” を選び、それを点数化してランキング化しています。
 その読書のプロが "BEST1" としていなくとも、多くのプロたちが取り上げた作品がランキングしやすい傾向があります。
 ということは、傾向が極端すぎる問題作!みたいにトガった感じの作品は、総合1位には選ばれにくいということかもしれません。
 ただ、1位に選ばれているということは、その分、みんなにとって面白いという水準をクリアしてる作品とも言えると思うのです。


個人的な”ベスト5”の紹介

 まず、33作品の中で、私が個人的に面白かった5作品を紹介します。
 どれも夢中になって読んだ大好きな作品で、エンタメ系の海外ミステリーを読みたい方には、まず、この5作品でハズレはないと思います。


1990「羊たちの沈黙(トマス・ハリス)」

 自分の中で、歴代1位作品の中で1冊選ぶのであれば、おそらく、この作品を選ぶと思います。それだけ、面白かったんですよね。
(関係note)
トーマス・ハリスの沈黙
久しぶりに観てみた映画の話【羊たちの沈黙】


2000「極大射程(スティーヴン・ハンター)」

 スティーヴン・ハンターが創造した天才的なスナイパー、ボブ・リー・スワガーの活躍するシリーズの第1作目です。
 謀略有り、スリリングなスナイパー同士の長距離戦有り、そしてリーガルな展開も有り、と、エンタメとして最も完成されている作品だと思います。
 後に続いていくシリーズを含めて楽しい一冊なのです。


2008「ウォッチメイカー(ジェフリー・ディーヴァー)」

 以前も紹介したジエフリー・ディーヴァーの ”リンカーン・ライム” シリーズの第七作目になります。
 このシリーズには、いつも強敵が出てくるのですが、中でも最強の敵が、この ”ウォッチメイカー” と言われています。
 ぜひ、名探偵 VS 怪人のし烈な闘いを楽しんでもらいたいのです!
(関係note)
帯の”どんでん返し”は不要な作家


2010「犬の力(ドン・ウィンズロウ)」

 麻薬カルテルを巡るDEA捜査官の闘いを描いた、むちゃくちゃパワフルな作品!
 読み始めは「ゴッドファーザー」なんですが、途中から「スカーフェイス」に変わり、最後は「仁義なき戦い」となるのです。
 後にシリーズ化され、「ザ・カルテル」、「ザ・ボーダー」とカルテルの抗争は続き、おびただしい死体が積みあがることになるのですが、ぜひ、この熱さを感じてもらいたいのです。


2014「11/22/63(スティーヴン・キング)」

 自分の中では、スティーヴン・キングの最高傑作ではないかと思っているこの作品。
 アイディアはもちろんですが、分量、構成、そしてキングの筆力と、ケネディ暗殺事件を中心にしながら、重厚なドラマが展開されます。
 分厚いのは疲れますが、この長さがなければ実現しなかった作品なのです。



意外と多い作家デビュー作品

 歴代作品を眺めてみると、意外と、作家デビュー作品が多かったりするのですが、やっぱり、初めて聞く作家さんということで、その分、インパクトが強くなるんでしょうね。

1991 薔薇の名前(ウンベルト・エーコ)
1994 ストーン・シティ(ミッチェル・スミス
1995 シンプル・プラン(スコット・スミス
1999 フリッカー、あるいは映画の魔(セオドア・ローザック
2002 神は銃弾(ボストン・テラン)
2003 飛蝗の農場(ジェレミー・ドロンフィールド)
2007 あなたに不利な証拠として(ローリー・リン・ドラモンド
2009 チャイルド44(トム・ロブ・スミス)
2012 二流小説家(デイヴィッド・ゴードン)

 太字の作家さんは、この作品以降、1・2冊は翻訳されていますが、その後は名前を聞かなかったりする作家さんです。
 まあ、一発屋みたいに思えるかもですが、その分、デビュー作に書きたかったものが存分に詰め込まれているんだと思うんですよね。


1995「シンプル・プラン(スコット・スミス)」

 タイトル通りシンプルなストーリーなので、すぐに没入できる作品です。
 どんどん話が進んでいくので、あれよあれよという間に読み終わってしまします。


2007「あなたに不利な証拠として(ローリー・リン・ドラモンド)」

 読み応えとしては今ひとつかもしれませんが、歴代作品の中では珍しい連作短編集なので、手に取りやすい一作です。
 ただ、その後、この作者の作品は目にしてないのです。



安定のシリーズ作品

 33作品の中には、シリーズ作品も数多く含まれています。
 1997年の「死の蔵書(ジョン・ダニング)」や、2009年の「チャイルド44(トム・ロブ・スミス)」、「犬の力(ドン・ウィンズロウ)」のように、その後、三部作やシリーズ化される例もありますが、もともと人気があって、ランキングされていたシリーズの一作が、ついに総合1位に選ばれた!みたいな例もあります。

 1992年の「策謀と欲望(P・D・ジェイムズ)」はダルグリッシュ警視シリーズ⑧、1993年の「骨と沈黙(レジナルド・ヒル)」はダルジール警視シリーズ⑪になります。
 また、1998年の「フロスト日和(R・D・ウィングフィールド)」と、2008年の「ウォッチメイカー(ジェフリー・ディーヴァー)」もシリーズ中の作品なのですが、後年、同シリーズの別作品が再び総合1位になっています。
 総合1位を2作品も出すシリーズというのは、きっと間違いなく面白いシリーズだと思うんです。


1998「フロスト日和(R・D・ウィングフィールド)」

 R・D・ウィングフィールドの創造した、下品きわまる名物警部フロストを主人公にしたシリーズで、全部で6長編しかないんですが、それが全てランキングしてるというすごいシリーズなのです。

①「クリスマスのフロスト」第4位
「フロスト日和」第1位
③「夜のフロスト」第2位
④「フロスト気質」第2位
⑤「冬のフロスト」第3位
「フロスト始末」第1位

 ほんと、すごくないですか!?
 これだけ評価の高いシリーズもないと思うんですが.....

 物語はどれも似たような構成で、あまり変わり映えはしないんです。
 名物警部フロストは、下品なジョークを交えつつ、時には適当、時には直感で事件を解決していくんですが、これが面白かったりするんですよね。
 フロストのことも、はじめは、こんな警部は嫌だな~と感じるのですが、読み終えてみると、いつの間にかフロストを好きになってたりするのです。


2016「スキン・コレクター(ジェフリー・ディーヴァー)」

 ディーヴァーのリンカーン・ライムシリーズもランキングの常連さんで、たくさんの作品がランキングされています。

①「ボーン・コレクター」第2位
②「コフィン・ダンサー」第10位
⑤「魔術師」第2位
⑥「12番目のカード」第6位
「ウォッチメイカー」第1位
⑧「ソウル・コレクター」第5位
⑨「バーニング・ワイヤー」第8位
「スキン・コレクター」第1位

 これまた、凄いシリーズなのです。



最後に難関作品

 総合1位に選ばれていても、決して読みやすい作品ばかりではありません。

 中には読むのに体力を必要とする手強い作品もあったりします。
 ある意味、異質な作品ではあるのですが、他にはない作品でもあるので、最後に紹介したいと思います。
 ただ、歴代1位作品を読もうとする際に、最初に手に取るのは避けた方がいいかもなので念のため....


2003 飛蝗の農場(ジェレミー・ドロンフィールド)

 農場をいとなむキャロルの前に謎めいた男が現れたことから始まる物語。幻惑的な冒頭から忘れがたい結末まで、悪夢と戦慄が読者を震撼させる。驚嘆のデビュー長編。

 途中、様々なエピソードが挿入されるのですが、それらを読んでいくうちに、読む側はもやもやっとさせられます。そして、物語は思ってもみなかった方向に進んでいくのです。
 これって、いったい何なんだって感じで、複雑な話なのにグイグイ読めるのは訳者さんのおかげなのかもしれません。
 それでもクライマックスでは、もうわけわかんなくなるし、オチもあれなんですが、勢いで読ませてくれる作品なのです。


1991「薔薇の名前(ウンベルト・エーコ)」

 中世イタリアの修道院で起きた連続殺人事件。事件の秘密は知の宝庫ともいうべき迷宮の図書館にあるらしい。記号論学者エーコがその博学で肉づけした長編歴史ミステリ。

 世界で大ベストセラーとなったとしても、作者が記号論者なだけに、迷宮に誘い込まれたような読み味で、舞台がイメージできないので、序盤は途方に暮れることもありました。
 ただ、独特の流れに乗っていくと、後半はページが止まらなくなるように面白くなっていくのです。


1999「フリッカー、あるいは映画の魔(セオドア・ローザック)」

 ふとしたきっかけで映画にのめり込み、UCLAの映画学科教授にまでなったジョナサン。だが研究を進めるうちに、銀幕の上からは知り得なかった邪悪にして壮大なる意図を知ることに…。
 映画への偏愛が招いた数奇な運命の物語。

 もともと歴史学者の作者が描いたのは映画世界にどっぷり浸かった物語です。
 最初は普通のミステリーっぽかったのですが、最後の方は、ポカーンとなるぐらいよくわからない場所まで連れっていってくれます。
 虚と実の混じりあう世界は、歴代作品の中でも唯一無二の世界観なのです。


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 つらつらと紹介してきましたが、それでも、半分の冊数にも届いていません。ホントは、まだまだ紹介したい本もあるのですが、それは、またの機会にしたいと思います。

 個人的な好みは違うので、こういうランキングにしばられる必要はないんですが、新しい本との出会いとなるのは間違いないと思うんですよね。
 そういう意味で、この記事自体も、皆さんの出会いのきっかけになればと思います。