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【architecture】住吉の長屋②|安藤忠雄

安藤忠雄の育った生家も偶然ではあるが、『住吉の長屋』と同じ、間口2間、奥行8間であった

私も間口2間の家の生まれであるが2間というのは約3.6メートルであり、かなり狭い
部屋をとるだけであれば問題ないがここを通過する通路を確保しようとするとかなり無理がある

実際の『住吉の長屋』は3.3メートルでさらに30センチ狭い

安藤氏もここの住人となる施主もこの狭さや長屋の暮らしについては熟知していた
当然暮らしにくいことも


安藤忠雄氏は三軒長屋の真ん中を切り抜きコンクリートの箱を置いたわけであるが、この箱が物議を醸したのだ

その設計は奥行を三等分し真ん中のひとつを中庭として外部に開放してしまうというものである

(写真はこちらのHPより引用)

玄関を入ると居間があり、中庭の先に台所と食堂、一番奥に便所と洗面、浴室がある

中庭にある階段を上がって2階には寝室があり、中庭に架けられたブリッジを渡るともうひとつ部屋があるというつくりである

写真の引用
「ANDO」TASCHEN
「安藤忠雄の建築1」TOTO出版


ん…?おいおいとなる


中庭を通らなきゃ移動できない?


ここが、『住吉の長屋』が物議を醸した理由である

中庭によって部屋と部屋を移動する際にいちいち外に出なければならないのである

雨が降った夜中にトイレに行こうとすると、一度傘をさして外の階段を降りなければならない
そんな住宅なのである

この住宅が出来た当時、メディアに紹介されると「建築家の横暴だ」と散々叩かれたそうだ

確かに無茶苦茶である

しかしこの住宅は建築家が自ら育った長屋での経験を考え抜いた末にたどり着いた設計であった
またこの住宅に住むことになる施主も長屋での暮らしを痛いほど知っていた
当然施主の了解のもと建てられた住宅である


一般的な長屋は日が差し込まず風も抜けないため住環境としては良くない

そこで安藤氏は思い切って(思い切りすぎているが)奥行を三等分した真ん中を中庭としてしまったのである

これにより日中日差しを取り込む事ができ、風も抜けるようになる

晴れた日には朝目覚めて一度外の空気を感じて支度をする生活は気持ちが良さそうだ
休みの日には中庭でランチをするのも良い
中庭があることで一気に長屋の暮らしは明るくなる

一方で中庭には雨や風といった厳しい自然も入ってくる
冬場にトイレに行くたびに外に出る暮らしは正直しんどいどころではない

安藤氏はこの住宅について著書でこのように話している

問題はこの場所で生活を営むのに本当に大切なものは何なのか、
一体住まうとはどういうことなのかという思想の問題だった。
それに対し、私は自然の一部としてある生活こそが住まいの本質なのだという答えを出した。


「建築家 安藤忠雄」新潮社 より


時は高度経済成長期であった
世の中は利便性を求めて沢山のモノが次々に生まれる時代にあった
無秩序に進む郊外の開発、森林破壊、公害問題…
社会が経済的な利益によってのみ判断されていた

『住吉の長屋』に欠けていた建築の決定的な要素とは”便利さ”である

便利であることは良いことである
それは間違いないが、便利であることで失われるものもある

この建築を通して建築家が優先したのは安易な”便利さ”ではなく”自然と共に暮らす”ことであった

この建築が一般解にならないこと、世間に受け入れられる建築ではないことは、建築家も施主も承知している

建築家はこの建築を通して、便利さを追い求めるだけの建築に対するアンチテーゼを込めていたのだ

社会に物を言う建築だ

人様の建築で自己表現するのはお門違いと思われるかもしれないが、この住宅は施主の声を聞かずにつくられたものではない
むしろ施主の生活を考え抜いてつくられた建築なのである

1976年に完成した『住吉の長屋』は今年で45年が経つが今でも変わらずに施主は暮らしている
これだけ安藤忠雄氏の代名詞となってしまった故の意地のようなものもあるかもしれないが、エアコンも断熱材もないこのコンクリートの箱で半世紀近く住み続けるのは並大抵のことではない

建築の評価以上に住人を表彰すべきだろう



別にだからといって、不便な住宅をつくりましょう!ということが私は言いたいのではない

繰り返すが便利さを追求することは悪いことではない

でも本当に大切なものを失っていないか…
という事は言いたい
便利さゆえに人と人の繋がりが失われてしまったら本末転倒である

また建築には小さくとも社会に問題提起する力があることをこの建築は教えてくれている

ひとつひとつの建築は社会と繋がっていることは『住吉の長屋』であっても『表参道ヒルズ』のような巨大な商業施設でも同じである


実はこの『住吉の長屋』であるが、安藤忠雄氏の設計で『住吉の長屋2』が数年前につくられている

住吉ではないが大阪の街中に出来ているのだ
明日は『住吉の長屋2』について触れてみたい

(つづく)


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