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【small design】ヒルサイドテラス|槇文彦

大学3年生の後期の設計課題は、東京都渋谷区の代官山の旧山手通り沿いの実際にある敷地に共同住宅を建てるというものだった


代官山と言えば、渋谷の高層ビル群とは違い低層の建物が並び、路地や坂道があり、洗練されたお店が隠れ家的に点在している、人が歩いていて楽しい街である
私も以前は通勤途中の駅だったこともありよく寄り道をしていた

代官山は今となっては落ち着きのある街並みであるが、そのような街並みの源にあるのは旧山手通り沿いの『ヒルサイドテラス』の役割が大きいだろう

『ヒルサイドテラス』は建築家の槇文彦氏によって1969年から1998年まで30年をかけて計画的に整備されてきた

旧山手通り沿いに、高さをケヤキ並木程度の10メートル以下に抑えながら、道路からセットバックして建てられている
住居やSOHO、ショップなど様々な用途が混在している建物は道沿いの賑わいを引き込むように建築内部までパブリックなスペースが繋がっている
まるで代官山の路地感を取り入れた建築は街に溶け込み、長い年月をかけて街のランドスケープ的な存在になった

ヒルサイドテラスが街に馴染んでいるように感じるのは、そのスケールが非常に人間的で小さなものだからだろう
巨大な建築を一気につくってしまうのではなく、小さな建築を繋いでいくようにつくられた街並みだからこそ、その地に溶け込んでいるのだろう

さて、冒頭の大学時代の設計課題の敷地はちょうどヒルサイドテラスの北側に繋がる敷地である

大学時代当時は古いビルのようなものがあってほとんど使われていなかったように記憶している

なかなか思うような設計が出来なかったこともありどんな設計をしたかは覚えていないのだが、当時非常勤講師でクライン・ダイサム・アーキテクトのクライン氏が来られていた
クライン氏はイタリア人女性建築家で日本で斬新な建築を数多く手がけている
最近では銀座4丁目交差点の『GINZA PLACE』を手がけたことでも有名である

設計課題については燦燦たる結果で終わったのだが、大学を卒業して数年後、この設計課題の敷地に新たな商業施設が誕生していた

それが代官山T-SITE蔦屋書店であった
こちらもヒルサイドテラスの意志を継ぐように低層の建築である
四角いボックスを並べてブリッジで繋ぐシンプルな構成でありながら余白を路地的に扱い、敷地の中に人々を入れ込む流れである

蔦屋とスターバックスのコラボで新品の本を読みながらコーヒーが読めるという画期的なコンセプトは従来の本屋の常識を覆す革命的な試みであったが今となっては全国で展開されるようになっている

外観は蔦屋のトレードマークの『T』をモチーフにした外壁が、楽しげな雰囲気を作り出している

私もお気に入りで一日居ても飽きないくらいのスポットである


そして、よくよくこの建築の設計者を調べてみると、大学時代に非常勤講師であったクライン・ダイサム・アーキテクトであった‼︎

課題当時この計画が始まっていたかは定かではないが、何かアイデアを練っていたのは間違いないだろう…

ともあれ、地価の高い東京では利益を求めて高層化、高密度化が求められる中で、建物をヒューマンスケールに抑えて人々が路地を巡るように楽しめる街並みは、大都市東京では珍しい地域である
こういった街並み形成に建築家が関わっていることを知ってもらえたら幸いである

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