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アメリカの「厳しい本場の状況」


アメリカ・ニューヨークのタイムズスクエアで行われる新年のカウントダウン・イベント。毎年、新年の幕開けを告げる催しとしてニュースになっていますが、ことしは新型コロナの影響で初めて「バーチャル開催」となるそうです。

どんな内容になるのか、詳細はまだ発表されていないそうですが、この催しの114年にわたる歴史の中で初めての事態となりました。

日本では「Go To トラベル」で10月から東京発着の旅行を加える方針が25日(金)に決まりました。この他にもイベントの需要を呼び起こす「Go To イベント」(チケット代金の割引など)、商店街を支援する「Go To 商店街」(集客イベントの補助など)も10月中旬の開始に向けて動き出すことになりました。

日本では「かなり生活が戻ってきた」印象を受けるので世界のことをすっかり忘れかけていましたが、海外ではまだまだ緊張状態が続いているところがあるわけです。

NYは3月22日から3か月近く「ロックダウン」状態にありました。生活上必須の(食料品店など)事業を除き、店舗の営業は「禁止」だったのです。報道によると、ロックダウン解除後もコロナの影響は続き、ブロードウェイにある40ものミュージカル劇場がことしいっぱい休演することが決まっています。レストランも屋内での営業は「受け入れ可能な客数の25%分に限って」9月30日からようやく許可されるということです。

私が訪ねてみたいジャズ・クラブもネット配信でしのいでいるようです。「ビレッジ・バンガード」や「バードランド」といったクラブが配信予定をHPに掲載していて、客を入れてのライブはできていないことが分かります。

そんな状況の中で1枚のCDを購入しました。ジョー・ファーンズワース
(ds)の「タイム・トゥ・スイング」です。

これを購入した最大の理由はメンバーの顔触れです。当代一流のドラマーであるファーンズワース、ピアノのレジェンドと化しているケニー・バロン、躍動的なベーシスト、ピーター・ワシントン。そして、あのウィントン・マルサリス(tp)が珍しくサイドマンとして参加しているではありませんか!これは手を出さないわけにはいきません。

ただ、それだけはなく、レーベルが「スモーク・セッションズ・レコーズ」だったということもあるのです。「スモーク」は1999年からNYのアッパー・ウエスト・サイドでオープンしているジャズ・クラブです。意欲的なミュージシャンが演奏していることで知られており、2014年にはジャズ専門レーベルを設立して「スモーク」に出演しているアーティストの作品を発表しているのです。ベテランから若手まで幅広く押さえている印象があります。

「スモーク」もいまは配信を行っており、生のライブは聴けないようです。そんな時期に発表された作品がどんなものなのか、気になって手に取りました。CDのパッケージを開いたところにあるデータを見て、録音が2019年12月とコロナ禍以前の収録だったことが分かりました。そうなると、コロナ以前の勢いが何か懐かしくなってきたり・・・。いろいろ、音楽以外の要素も考えて聴いてしまった作品です。

2019年12月17日(わずか1日!)、NYのシアー・サウンド・スタジオでの録音。
Joe Farnsworth(ds)  Kenny Barron(p)  Peter washington(b)
Wynton Marsalis(tp)

①Hesitation
ウィントンのオリジナル。ウィントンはこの作品でも相変わらず「安定」の仕事ぶりをしていて、どんなフレーズでも難なくこなし、逆に「スリルがない」ように聴こえる逆説に陥っています。しかし、この曲ではバンド全体と急速調を楽しんでいる感じが伝わってきます。ミュート・トランペットでメロディから一気にウィントンのソロへ。落ち着き払っているウィントンですが、ファーンズワースのブラシによる気持ちのいい煽りを受けて、実に快調なソロを取っています。私は演奏者のテクニックを詳しく分析することはできませんが、ウィントンが難しいフレーズを息継ぎすることなく軽々と吹き切っていることは分かります。リズム・チェンジでファーンズワースのシンバルが響き渡り、テンポを増すタイミングでウィントンのトランペットも鋭さを増し、彼らしからぬブロウも飛び出します。最後まで余裕は失っていませんが、ウィントンなりに熱くなっている演奏です。続くバロンのピアノは彼らしい優雅さを持ちつつも軽快にスイングしています。これにはファーンズワースとワシントンのタイトでありながら柔軟性のあるリズムが貢献しているところが大きいです。最後はファーンズワースのソロ。バスドラをあまり使わず、タムとシンバルでよく歌うソロで、重すぎない展開が曲とよく合っていると思います。最後のメロディまで一気に聴けてしまう曲です。

⑦Prelude To A Kiss
おなじみのエリントン・ナンバーをピアノトリオで演奏しています。何と、リズムはボサノヴァ!これが非常にいい感じで、バロンの気品あるピアノをリズムがリラックスさせてくれる効果を持っています。メロディからピアノの音がやや軽快に響き、それがソロでも続きます。あまり弾き過ぎず、それでもリズムが自然にグルーブを作り出してくれるので安心、という風です。ここでも途中、リズム・チェンジがあるのですが3人の息はぴったりでレギュラー・グループのようです。ピアノがメロディを提示してそろそろ終わりかな・・・と思ったところでファーンズワースのソロ。こちらもシンバルの響きが気持ちいい軽快なソロで最後のメロディへとうまくつないでいます。

「スモーク」では25日(金)と26日(土)の現地時間午後8時からこの作品の発売を記念したライブの配信が行われるということです。26日(土)は時差を考えると日本時間の27日(日)朝9時から、ということでしょうか。レコーディングとは違うメンバーですが、ファーンズワースの活躍を祈りたいです。

本場の演奏が配信で気軽に聴けるのはありがたいですが、ジャズはやはりミュージシャン同士の「気配」やハプニングを含めて楽しむ音楽。厳しいニューヨークの措置が早期のライブ再開につながることを願うばかりです。


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