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読書日記 昆虫絶滅と「昆虫 MANIAC」

上野公園の科学博物館に特別展を見に行く。今回のテーマは「昆虫 MANIAC」。
科博の特別展は見て・知って・終わりではなく、見学者に行動を起こさせる仕掛けやメッセージをふんだんに入れ込んでいる。

特に休憩所を挟んだ後のコーナーを私はメッセージコーナーと勝手に読んでいる。
それまでの展示で特別展の世界に引き込んだ上で、「この世界が好きになったあなたがやるべきことはこれだ!」と言わんばかりに強いメッセージで行動を迫ってくる。

2年前に化石ハンター展を見終わった後は、胸が高まりタガネをもって、チベットに飛んで行きたくなった。

密かに、今回の最後のメッセージは、昆虫の大絶滅、通常「インセクタゲドン」に関するものだと的を絞り、オリヴァー・ミルマンさんの「昆虫絶滅」を急いで読んだ。

一九世紀後半から二一世紀半ばまでの間に、一〇〇万種の甲虫、蝶、ハナバチ、その他の昆虫が永久に姿を消してしまう可能性があると本書は指摘する。

そして、その上で、いかに昆虫がその他の生物を支えるための多様な役割を担ってきたか、またそれを人間が軽視しているかを書く。
昆虫が姿を消したとき、何が起きるのかをしっかり考えていく良い機会の本だ。

「地球環境のほぼすべての局面と精妙なダンスを踊り、人類の文明そのものの基盤を人知れず形成してきた」という言葉はまさにだろう。すべての昆虫が死滅し、耕作農業と生態系が崩壊すると人類はわずか数カ月で絶滅しかねないと言われてハッとする。
受粉を行うロボットの開発現場をみたことがあるが、昆虫たちが行っていることを全て機械で代替するのはどうも現実的でないと直感的に思う。

人間の行動が原因となり六回目の大量絶滅が迫りきているいま、「昆虫 MANIAC」なんてポップな名前をつけて子供たちを惹きつける特別展の正体は、昆虫の絶滅を切り口としたネイチャーポジティブに関するメッセージだろうと予測していた。
前半の展示の中から、昆虫が生態系に与える多様な影響や、種の多様さについてを探し出し、それらをふむふむと見ている興味を惹かれている子供たちをみて、「よし、これでネイチャーポジティブに興味をもってくれるね」とニヤニヤしていた。

絶対に今回の特別展のメッセージは私の仮説が通りだと疑っていなかった。
そしたら、なんと見当違いだった。科学博物館が昆虫、生態系に対する危機に対してのアクションプランは私の想像を超えていた。
メッセージは「昆虫を採取してみよう。新発見をしてみよう。」だった。わたしの予想を軽々と上回ってきた。

このメッセージを見た後は、まず、楽しく昆虫の世界に触れることができる。博物館を出てすぐに上野公園で虫を探して見てもいい。
虫を見つけることは楽しい。見つけると「あっ」と声が出る。

虫を見つけて回ると、さらに虫について知りたくなる。そうすると昆虫が絶滅しかかってることにも自然と触れていくだろう。そこに辿り着く頃には昆虫が博物館で見るものではなく自分たちの社会に存在していることに気づき、昆虫寄りの視点で世界環境に思いを寄せれるだろう。

いきなり自然環境を守れーと言われても何をして良いのかわからない。うん。この科博のやり方は大正解だと思った。
いま、虫屋は少ない。昆虫絶滅にはこんな言葉載っていた。

「一種類のサルを研究している人が五万人いて、五万種類のハエがたった一人によって研究されているような状況なんです」
ひとりでも多くの虫好きを集めようと、展示の最後、グッズショップの手前までぎっしりとさまざまな昆虫採取の仕方が詰め込むように展示されていた。

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