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「君たちはどう生きるか」感想

ナウシカの映画をつくったとき、宮崎駿の最初の案が冗長すぎて、周りの人の意見で短縮したけど、それに納得できなくて漫画を描いたという話があるけれど、宮崎駿が自分のやりたいことを自由にやるとこうなるんだろうなという気がした。それはリンチがツインピークスの続編で抽象的な世界に走ったのと似ている。やりたいことをやりたいようにやるとこうなる。そしてそれは多分、作品としての完成度とか分かりやすさとは必ずしも比例しない。でも宮崎駿はこれまでたくさんバランス感覚に長けたマスターピースを生み出し

    • 食べることは戦い

      鬱の人の、食欲がないときなぜかカロリーメイトなら食べられる、というようなツイートを見かけた。具体的にどんなツイートだったかなと思って調べたら、似たようなことを言っている人が何人もいることを知った。とてもよく分かる。わたしも落ち込んでいるときは、おやつのようなものしか食べられない。肉とか魚はまず受け付けない。特に赤身。大豆とか玄米とか滋養になりそうな野菜や穀物も。生野菜や缶詰以外のフルーツさえ辛いときもある。おそらく血や肉になりそうな食べ物が放つ生のエネルギーに、食べる前からす

      • 大島弓子「桜時間」

        大島弓子の描く親子の関係には心が持っていかれることが多い。大島弓子は小学生のときから読んでいて、そこから受けとる感情は当時も今もそんなに変わらないのだけれど、大人になってから読むと、こんなにもシビアな話だったのかと気づく。例えば「桜時間」は、自分の息子が、犯罪者だった(らしい)生物学的な父方の遺伝で、息子自身に生得的な反社会性や加害性があるのではないかと恐れる話でもある。 海外ドラマを見ていると、自分の子になんらかの反社会性があるのではないかと恐怖したり、葛藤するようなシー

        • 「小鳥の巣」「トーマの心臓」における傷ついた人間への対峙の仕方について

          ポーの一族の小鳥の巣を読み返していて、マチアスのキリアンに対する態度と、トーマの心臓のトーマのユーリに対する態度は全く同じだということに気づく。 彼は ぼくに なにもいわなかった ただ 花に水をやってくれない? と キリー… 花に水をやってくれない? と 「生きなきゃ」…と (小鳥の巣) ああ 彼は何も知らなかった 彼が知っていたのは ぼくがひとりで 心を閉ざしているということだけ (トーマの心臓) マチアスはキリアンがロビン・カーのことで気に病んでいることを察しながら

        「君たちはどう生きるか」感想

          トーマの心臓を読み返す

          久しぶりにトーマの心臓を通しで読んだ。子どもの頃から何百回読んだか分からないくらい読んでいるけれど、最近は読み返すことが減って押し入れにしまわれていた。改めて読むと子どもの頃感じながらも言葉で説明できなかったことが説明できるようになっていることに気づく。 子どもの頃、母親がオスカーが一番好きだと言うのがあまりピンと来ていなかったのだけれど、大人になってから読むと、誰かの痛みに気づきながらもあえて尋ねないということ、徹底して待つ、ということが人を救うということ、そうした態度の尊

          トーマの心臓を読み返す

          料理が面倒くさい

          仕事始めで本当に疲れた。なにかつくろうかと思ったけれど面倒だなと思ってネットで調べたら、子育てしているけれど料理が嫌で嫌で仕方ないという主婦がたくさんいた。料理が苦手だったり嫌いな人は、だいたい食べることそのものに関心が薄くて、比較的神経質だったり疲れやすい人が多い気がする。他方で、身の回りの料理好きな友だちはみんな食べることが好きで、さらに体を動かすことも好きな気がする。体力、気力の有無と料理するしないはたしかに繋がっているのだろうなと。逆に鬱病になると料理ができなくなるの

          料理が面倒くさい

          映画「ドラミちゃん アララ・少年山賊団!」のつくることと食べること

          ハライチのターンで映画「ドラミちゃん アララ・少年山賊団!」の話がでてきて面白そうだったので見てみた。ドラえもんの映画を見たのは初めてだったけど、こんな良かったのかと思ってびっくりした。映画は、看板建築と電信柱のいわゆる昭和の街並の奥にそびえる新宿都庁らしきビルの風景から始まるのだけれど、これが1991年の思う22世紀だったのかと思うとそれだけで少し泣けてくる。調べると都庁は1990年12月に竣工したようだから、当時は完成したてのまさに最新鋭のビルの象徴だったんだろうなと。

          映画「ドラミちゃん アララ・少年山賊団!」のつくることと食べること

          映画「対峙」の赦すことと机と椅子

          映画「対峙」を観た。ラストのあたりで、被害者側の母親が加害者に対してあなた方を赦します、と言うシーンがある。相手を「許す」というのは一般的には相手のための行為だと思われているけれど、「赦す」というのはどちらかというとそれによって自分自身を救うという行為なのだろうと考える。高校のとき、許すことと赦すことの違いというか意味をシスターが説明していて、当時は全くピンと来なかった記憶があるけれど、この映画を見てなんとなく分かった気がする。「赦す」と宣言すること(それはきっと思うだけでは

          映画「対峙」の赦すことと机と椅子

          「17歳の瞳に映る世界」を見て

          数日前にRoe v. Wadeが転覆されたのをきっかけに、気になっていたこの映画を見てみた。一番印象に残ったのは、これがアメリカ人の17歳の少女(たち)を主人公に据えた映画でありながら、ほとんど彼らが余計な言葉を交わさないことだった。アメリカ人のティーンエイジャーの少女が映画に登場するとき、大抵彼女らはおしゃべりで、あるいはシャイだとしても、なにかしらやりたいことを持っていて、最終的には強い意思とともに、故郷の町を旅だったりする。この映画で彼女(たち)がそのような態度を取らな

          「17歳の瞳に映る世界」を見て

          「民藝の100年」感想

          近代美術館に民藝の100年を見に行ってきた。 結局、民藝運動というのは基本的に柳宗悦が牽引していたことなんだなというのがよく分かった。展示の最後で、柳宗悦が亡くなった後に芹沢銈介が宗悦を曼荼羅にしてたのを見て、ああ柳宗悦はカリスマを超えてある意味では神だったんだろうなと思った。そしてそういう人間が一人いるだけで、これだけのことができるんだと。 やはり今回の展覧会で一番面白かったのは編集者としての柳宗悦の姿で、ありのままを見る、というようなことを言う一方で、徹底的にその見せ

          「民藝の100年」感想

          「柚木沙弥郎 life・LIFE展」@PLAY MUSEUM 感想

          柚木沙弥郎展を見に行ってきた。 今日は起きてすぐ、なぜかホックニーのペインティングのことを考えていて、80過ぎてこの感受性ってすごいよなぁと思っていたら、柚木沙弥郎も現在99歳でまだ現役だという。いくつかここ何年かの作品も展示されていたが、とても80-90代でつくったとは思えない。 最近、自分が20代には聞こえるというモスキート音が聞こえなくなってることを知って、ああ本当に知らないうちに歳をとっているんだなと思った。同じ世界を生きているのに、知らないうちに音が聞こえなくな

          「柚木沙弥郎 life・LIFE展」@PLAY MUSEUM 感想

          なぜこんなにスピリチュアルに抵抗があるのか

          友だちが本格的にスピリチュアルな方向に行き始めて、スピリチュアルについて考えることが最近増えている。考え始めると意外とその友人以外にもスピリチュアルに傾倒しているというか、そうしたことに抵抗感を示さない人が多いことに気づいて驚く。しかも自分と似たような趣味の似たような界隈にいる人間に。ひさしぶりに別の知人の妻のインスタグラムを見てみたら、カードリーディング?といってタロットカードみたいなのを買っていたし、月の満ち欠けがどうのとか言っている友人もいた。前の会社の編集者もよく占い

          なぜこんなにスピリチュアルに抵抗があるのか

          森達也「A」感想

          森達也の「A」を見た。出てくる信者にすごく純粋そうな人が多くて、こんな頭が良くて真面目そうな、でも社会的には生きづらさを感じている人たちの最終的な受け皿になったものがオウムだったっていう事実が本当に悲しかった。「戦争が起きて、人を殺しても勝てばその罪を問われることはない。それは矛盾ですよね……。そういうことをずっと考えてきた」とか「大学に入って、こういう人間がこれからの日本をつくるのかと思って絶望して三日で辞めた」とか、入信へのとっかかりそのものはあまりにも真っ当で、でもそれ

          森達也「A」感想

          マチネの終わりに 感想

          タイトルに惹かれて読んだけど全然良くなかった。いくつか理由はあると思うけど、一つには風景がないというところだと思う。説話的に必要な部分はもちろんあるけれど、単なる飾りか説明的なものにとどまっているように思う。特にこういう世界各地で展開する話は、風景とか情景描写で実は作品世界の奥行きというか、空気みたいなものが決まってくる部分があると思っていて、けれどこの作品にはそれが全然効いていないせいで、肝要なイラクのシーンも、パリもニューヨークも東京も全部のっぺりとした印象で、実際結構ス

          マチネの終わりに 感想

          溝口健二「武蔵野夫人」

          良くなかった。物語の展開に必要な出来事以外全て省かれていて、なんの叙情性も残ってなかった。勉がカメラで集合写真を撮って、その写真のなかの自分の姿を見た道子が、もう自分は若くない、と思うみたいなシーンがどう映像化されるんだろうと思って楽しみにしてたら、全てカットされていて悲しかった。最後の武蔵野の郊外化された風景はよかったけど、それだけだった。脚本が福田恆存で、たぶんそれが良くなかったんだと思う。大岡昇平は「野火」の延々続く山歩きの描写とか、かなり風景で語らせる人だと思っていて

          溝口健二「武蔵野夫人」

          映画「Waves」感想

          想像より遥かに良くなかった。ここ最近見た映画の中で一番つまらなかったと思う。 ポスターとかビジュアルのイメージより内容が重いから、それが評価の低い理由なんじゃないかって友だちがいってたけど、むしろこれだけ重い内容を、これだけぺらぺらな感じでやってしまっているところにかなりの憤りを感じた。脚本も編集も構成も演出も全部良くなかったし、何もかも全部ちぐはぐで、一本の映画としての優雅さ、ダイナミズムが一切なかった。 画角変えるとか、微妙に二部構成にするとか奇をてらったことは色々や

          映画「Waves」感想