映画「Waves」感想

想像より遥かに良くなかった。ここ最近見た映画の中で一番つまらなかったと思う。

ポスターとかビジュアルのイメージより内容が重いから、それが評価の低い理由なんじゃないかって友だちがいってたけど、むしろこれだけ重い内容を、これだけぺらぺらな感じでやってしまっているところにかなりの憤りを感じた。脚本も編集も構成も演出も全部良くなかったし、何もかも全部ちぐはぐで、一本の映画としての優雅さ、ダイナミズムが一切なかった。

画角変えるとか、微妙に二部構成にするとか奇をてらったことは色々やってるけど、何も効果を生んでいない。ただいたずらに真新しいことをやっていそうな印象を与えるだけ。実験性もありそうで別にない。映像の色とかフレアの感じとか、いわゆる2020年らしい映画なのかもしれないけど、2030年になる頃にはきっと忘れられてると思う。

あと音楽を推してるけど、単に場面を盛り上げる以上のことはなにもしてないし、結果メリハリがつかなくなって、全てダメになってる気がした。曲の使い方にもなんの裏切りもなくて、本当につまらない。自分が音楽家だったら、こんな使われ方したら利用されてるだけって感じがして嫌だろうなと思う。雰囲気映画なのにうるさいだけで抜けが悪くて、気持ちよく雰囲気に浸らせることすらさせてくれない。チャラチャラして見せてるけど、実はこの監督あんまり音楽詳しくないんじゃないか、クラブ文化とかに頑張ってついていこうとしてるだけの人なんじゃないかと勘ぐってしまう。これ見て、スプリングブレイカーズは音楽の入れ方に実は相当卓越したセンスと品があったんだなと思った。

内容も、人種問題とか中絶とか未成年の殺人とかネットでの中傷とか家族問題とか、一つだけ取り出しても丁寧にやれば一本映画が撮れてしまうような内容を全部雑に詰め込んだだけで、一つ一つへの取り組み方がすべて半端。だから結局見てて疲れるだけで、何一つとして残らない。

でも何より嫌だったのは、そういう問題に対峙したときに、登場人物がすべてを口当たりの良い言葉で説明してしまうこと。映画なんだから映像で見せろよと思った。最近、圧倒的な暴力に人が接したときにどれだけ人が語ることができなくなるか、それからそれでもなお語ろうとするのかについての本を読んだところだったから、一層、自分の身内がお腹に子どものいる高校生の女の子を殺してしまった後で、あれだけ饒舌になれたり、あるいはお母さん大好きとかもう一度家族になりたいとか安易に口にできるのがどうしても信じられない。言葉そのものを軽く見てるし、さらに言葉だけで表すことができないことを表すのが映画だと思ってるから、それを放棄してる時点で二重の意味で見てて嫌な気持ちになった。あの妹の彼氏も、何年も会ってなくてしかも母親に暴力まで振るってた父親に、あんな急にぎこちなさもなく感動の再会が果たせるのか疑問だったし。

でも、すべて言葉で説明してるから、言いたいことは当然ものすごく分かりやすい。だからあらかじめ予定された感動を求めて映画を観るには良いのかもしれないけど、観る側に委ねる、あるいは何か抜き差しならないものを突きつけてくるような部分は微塵もなかった。おそらく監督の中で完結してしまってるんだろうけど、そもそもあまり物事を突き詰めて考えるタイプの人じゃないんだろうなと思う。

駐車場で中絶に反対してる人たちも、あの描き方ならただの(自分たちの理解を超えた)頭のおかしいヤバイ人、向こう側にいる人としか思えない。警察官が丁寧にそれを説明してくるのもあまりにも野暮で興ざめした。ネットで中傷してくる人たちの描き方も同様。彼らもまた社会の一端の、自分たちと接続した存在だという眼差しがないのだと思う。ただ今日的な、批評性がありそうに見えるシーンやエピソードを、映画を彩る飾りとして、つまり部分として入れてるだけなんだろうなと。これだとツイッターとかでSNSで中傷する人信じられないとか書いて、自分の正しさに気持ちよくなってる人と大して変わらない気がする。登場人物たちも同じで、ただどこまでもイノセント。人の両義性というか、そういう部分が描かれていなさすぎて逆に戸惑った。全員都合よく出来過ぎ。これだけマンガみたいにわかりやすい人物設定してくる最近の映画も珍しいと思う。これで主人公の家族が白人だったら、たぶん取るに足らないメロドラマとして扱われて終わってる気がする。






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