<6月と空>時間を巻き戻せたら
過去をふり返るのがきらいだ。
髪の毛が、床に落ちた瞬間にそれまでのからだの一部から突然何か不潔な存在に変わってしまうように、過去も、私にとっては何か、もう触れるべきでない、忌まわしい存在に思えるからだ。
―――でも、空だけはそんな私の中の頑ななルールをいとも簡単に無視してくれる。
2年前の今頃。その日、ミャンマーで見た空は、不気味なくらいに真っ赤で、そして、息が止まるほどに、きれいだった。
夕方、空の様子がいつもと違うことに気づいて、私は大急ぎでその時住んでいたコンドの屋上に駆け上った。
それは、本当に異様だった。
見渡す限りの世界が、これでもかというほどに真っ赤に染まってしまって、もう、この世の中から赤以外の色が消え失せてしまったかのような、そんな光景だった。
私は、その中で1人たたずんで、そんな夕焼けをめいっぱい受け止めようと、ひたすら空を見つめていた。
その時は気づかなかったけれど、たぶん、その時、私の中の「色」もすっかり赤く染まってしまったのかもしれない。
だって、あの日から、「何かが始まった」のだから。
あの時住んでいたコンド。いつでも私に居場所をくれた屋上。そして、誰にも邪魔されずに独り占めしていた空。
あの日あの夕焼けを見なかったら、私は今日も、あの場所で空を見つめていたかもしれない。
もう一度、あの夕焼けに出会うために、あの日に戻れたら。
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