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終わりを願うことは悪いことなのか

 こちらには映画『怪物はささやく』のネタバレを含みます。未鑑賞でネタバレは避けたい方は読まないようお気を付けください。

 同題の小説を原作としてファンタジー映画、『怪物はささやく』あまりにも共感してしまい、映画館でボロボロと泣いた。

 難病の治療中である母親を持つ主人公の少年は悪夢にうなされ、次第に現実でも不思議な現象が起こるようになる。
 母の回復を願いながら、奇妙な現象に向き合う少年はやがて自分のうちにある負の感情と対峙することとなる。負の感情、それは母親が早く死んでほしいという気持ちである。

 私たちはときに難病から奇跡的に回復し、医者ですら「信じられない」と驚きを隠せない感動ストーリーを見聞きすることがある。
 その一握の奇跡ばかりが着目されて、映画やドラマ化されることがあるけど、手のひらから零れ落ちた無数の死が紛れもなく存在している

 賢い少年は母の回復を願う一方、頭の片隅では母の病は治らないことに気づいてしまっている。  治るのであれば、その日を待ち望み、目の前にある辛い現状を耐え忍ぶことができる。でも、明るい未来は用意されていないことが確定していたら?
 少年に残された母との時間は死への旅路の時間である。母が死へと歩みを一歩、また一歩と進めるにつれて、少年の心の中に早く苦しみから解放されたい、終わりを迎えたい気持ちが芽生えてくる。それは、母が死を迎える日を待っていることと同義である。

 母の死を願うことへの罪悪感から悪夢が生まれ、やがて「怪物」がささやき始める。

 私は少年のこの葛藤に共感した。映画館で観た当時、私は死が怖かった。もっと細かく言えば、死が避けられない事実であることが怖かったのだ。

 どうせ避けられないなら早く終わってほしい。そう思う少年の気持ちが痛いほど伝わってきた。恐怖をいつまでも抱えて生きる方が辛いのだ

 少年は自分の中にある「悪い願い」の存在を認め、母の未来を受け入れ、残された日々を歩んで行くことで、自分の気持ちに折り合いをつけた。この映画は万人が思うハッピーエンドではない。でも、私たちが生きている以上、必ず直面する大切な存在との死別に対して、どのような感情を抱き、どのように向き合っていくのかに対する1つの答えが幼き少年を通して描かれた名作である。


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