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#幽霊
箱庭商事の幽霊ちゃん! #1「幽霊とのかいこうっ!」
***
逃げるが勝ち、と或る人は言った。誰が言ったかは問題ではない。誰かが言ったということが重要だ。
今、その『誰か』の胸倉を掴んで確かめてみたいものだ。
アレは嘘なのか、と。
現実世界では、人は逃げることを許してくれない。立ち向かって、ボロボロになっても歯向かって、勝てば官軍負ければ賊軍。闘争せず逃走すれば、勝負以前の問題である、と。
何故だ。
闘って傷つくことが美徳なのか。傷は戦
箱庭商事の幽霊ちゃん! #17「箱庭商事の幽霊ちゃん!」
太陽が沈み、人工の明かりが点々と輝きだす都会の中に、1つの会社ビルがあった。
箱庭商事という会社があるこのオフィスビルには、幽霊が出る。
昔はブラック企業で連日夜遅くまで社員が幽閉されては働いており、怒号が飛び交い、疲弊が蔓延していた。それら全てを一手に引き受ける形で癒しを与えていた幽霊だ――付いた渾名は『癒しの幽霊』。
しかし時代の潮流にこの会社も逆らえず、遂に強制帰宅をさせられるように
箱庭商事の幽霊ちゃん! #16「新しい朝なんて、」
「……ごめん、幽海ちゃん。さっき終わったよ」
もうじき朝日が昇る時分にようやくビルの屋上に行くと、明るくなっていく夜空を眺めながら幽海ちゃんが待っていた。
「おかえりー。結構かかっちゃったね」
「まあ、直接の関係者だしなあ……」
――あの後犯人は気絶してしまったまま、流れるようにやって来た警察によってお縄についた。
当然の流れで、俺は事情聴取を受けることになった。幽海ちゃんに一言断ってから、
箱庭商事の幽霊ちゃん! #15「泥棒にお仕置きだ!」
「誰だって訊いてんだよ、テメエ」
銃を向けながら男は尋ねる。少し声が上擦っていた。
そりゃそうだ。鍵のかかった無人のはずの部屋に、人間が――それも深夜のオフィスという場所には異質な『少女』が立っているのだから。
それに、俺も尋ねたい。
……何をしに来たんだ、幽海ちゃん。
幽霊にこんなことを思うなんておかしいかもしれないが――こんな危険なところに来るんじゃない。それに怖がっているに違いな
箱庭商事の幽霊ちゃん! #14「あんな表情、させたくなかった。」
何度言っても言い足りない程残念なことに、俺は超人ではなく凡人だ。スーパーマンよろしく実は秘めたる力が――なんてことは一切ない。就職活動で百何十社も負けた大学4年の敗残兵。能がないから隠す爪もないし、無い袖すら振れやしない。
従って、俺はこの犯人に従うしかない。
『生殺与奪の権を他人に握らせるな』――という言葉を最近流行りの漫画で読んだ。しかしそんなものは所詮、ある程度の力と用意された状況での
箱庭商事の幽霊ちゃん! #13「善良で勤勉な。」
「……」
聞き終えて改めて思った。
人間たちは、幽海ちゃんに何一つしてこなかったんだと。ただ癒されに来ただけの心が弱いばかりの奴らでしかなかったんだと。それ自体は悪いことではないが、その弱さから来る痛みを人間でない子に、それも心が弱っている子に押し付けていただけなのだと。
そう、思った。
「……これが、私の過去なの」
ぐすぐすと涙を流しながらも少しばかり晴れた顔で言う、この幽霊に対して。
箱庭商事の幽霊ちゃん! #12「幽霊ちゃんについて。(後編)」
「……あ、れ」
さらに月日が経っても変わらない。人々を助ける夜がやって来て、幽海は箱庭商事の会議室にて目覚めた。開いたドアから蛍光灯の灯りが漏れてくる。
今日も人助けだ――そう思って体を起こそうとするのだが。
上手く、起き上がってくれない。
肉体の無い幽霊に物理的な問題は皆無――問題は、精神だった。
「お、かしいな。起き上がらないといけないのに……起きて、皆を喜ばせなきゃ、いけないのに……
箱庭商事の幽霊ちゃん! #11「幽霊ちゃんについて。(前編)」
――幽霊になる前の記憶が、遊崎幽海には存在しない。
目が覚めると、この『箱庭商事』のビルにいた。日本語は歳相応レベルに話すことができ、自分の名前も自覚できるし、16歳という享年も回答できる。
なのに、16年分の自分に関する記憶が、丸ごと消え去っているのだ。
地に足のつかない、まるで世界から切り離されたかのような浮遊感。覚醒から数十秒で吐き気を覚えて女子トイレに駆け込み、耐え切れずに洗面台
箱庭商事の幽霊ちゃん! #10「手作りお菓子を堪能しよう!」
「……はい。では、失礼します」
スマートフォンの通話終了ボタンを押した。ホーム画面に戻ると、午後2時を表していた。
バイト終了後、帰ってから泥の様に眠った。幽海ちゃんと過ごしたとしても、やはり夜間バイトというのは体力も気力もどうしたって削られるからな、仕方のないことだろう。
ただ、幸いにして今日は授業が無い。バイトまではこれ以上余計な労力をかける必要はない。
授業が無い日――世の大学生はウ
箱庭商事の幽霊ちゃん! #9「また明日!」
「ところでさ」
『まといチョココーン』をさくさくと食べながら横について来る幽海ちゃんと、巡回中の雑談タイムに興じていた。
「んぅ? なあに?」
「本当にお菓子大好きだよな」
「うん、そりゃもう!」
にへら、と相貌を崩す。
「お菓子には目がないからね!」
「昔からなのか?」
「うーん、というか最近ここに出てきてからかなあ。お礼に皆お菓子くれたんだけどね。それで段々好きになっちゃった感じかな」
箱庭商事の幽霊ちゃん! #8「いざ、尋常にトランプ勝負っ!(後編)」
さてこれで一転、また俺がピンチというわけだ。
確率は2分の1。ここからは運勝負もあるが、心理戦の面も強くなる。
純粋で素直だからと侮っていたが、これは本当に気が抜けない。幽海ちゃん、本当にジジ抜き初めてなのか……?
或いは『コイツ……戦いの中で強くなっていやがるっ!?』というヤツか。少年漫画じゃあるまいし、と思ったが、既に幽霊とジジ抜きしている時点でフィクション感満載だった。ノンフィクショ
箱庭商事の幽霊ちゃん! #7「いざ、尋常にトランプ勝負っ!(前編)」
「……」
「……」
「……」
「……むむ~」
今の状況を文字起こししたら何も分からんだろうなあ、なんて下らないことを思うそばで、幽海ちゃんは俺の手に持つ2枚のトランプをじ~っと眺めていた。
そう、ババ抜きである。
ただ、2人だとすぐ決着がついてしまうし、ババをどちらが持っているかすぐ分かってしまう。そこで任意の1枚を抜いて、どれがジョーカーか分からなくしたのだ――ババ抜きの派生形、いわゆる『