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箱庭商事の幽霊ちゃん! あとがき。

 ここまでお読み頂きましてありがとうございます。
 初めましての方は初めまして。いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
 透々すきとう実生みつきと申します。

 「まだ読んで無い!急にあとがきに迷い込んでしまった!」という方はこちらから脱出下さいませ。

 本作品は、昨年のダイハードテイルズ様の企画『逆噴射小説大賞』に参加した作品に大幅加筆をしたものです。(元の作品は下のリンクから。当時適当に選んだクッキーの画像が懐かしい……。)

 とはいえ、物語そのものは実は当企画の数か月前から書いておりました。そう考えると、きちんと物語にピリオドを打つまで1年近くかかったと言えます。長かった……。
 余談というか蛇足というか、逆噴射小説大賞で私が出した作品の中でも一番読まれたのが本作だったりします。皆癒しが欲しいんだな……としみじみ思いながらたまにPV数を眺めていました。
 読んで頂いた方々には感謝申し上げます!

 さて、ここいらで本作について。
 元々、この物語には主題がありませんでした。執筆を始めた当時は精神的に疲れていて、「よし、それなら癒される物語でも書くか!」と思いつつカタカタとキーボードを打ち続けているだけの物語でした。
 とにかく軽快な会話、とにかく可愛い幽霊。コンセプトはこの2つしかなかったのです。

 ところで小説を書くということは不思議なもので、書いているうち、キャラクターには徐々に息が吹き込まれていきます。思考の核を持ち、それを起点に動いて考え話し、いつしか周りの人間と遜色ない程の人間になっていきます。このリアルさは人によって違いますが、少なくとも作者の中ではかなりリアルな人間になるはずです。
 そうしてキャラクターがリアルさをもって立ち上がってくると、この小説を通じて伝えたいことも決まってくるものでして。
 こんな感じで、少し変わった小説の書き方をしています(なので参考にはならない)が、こうして『箱庭商事の幽霊ちゃん!』は出来上がってきました。

 この物語の主題は、『変わらないこと、それでも生きていくこと』です。

 お読み頂いた方々はお分かりのことと思いますが、倫新は逃げる指向性から変わっていませんし、幽海ちゃんも自分の記憶が無いことに向き合っても何もできず、結局最初の時点から根本的に事態が進んでいません。勿論、彼らの中で多少の心境の変化はありますが、その程度です。
 人間は変わることを常に求められます。一昔前ならば「性根を叩き直す」という表現が多用され、駄目な部分を強制的に矯正されていたと聞きます(今はあまりそういう話を見かけませんが)。そこまでの強制力はなくとも、今でも「成長をしなければならない」「向上心を持て」ということを掲げる集団は数多くあります。
 とは言え、私は変化することに対して否定派などではなく、むしろ変化することや成長することは大事だと思っています。というより、変化や成長が絶え間なく行われているからこそ、創造と破壊が為され、社会が多様な面で発展してきたとも言えますし、変化をする者こそが輝いて見えるものです。部活や企業に所属して変化や成長を経験した方なら、誰でも実感ベースで分かるかもしれません。
 だからこそ小説というのは、変化や成長を(ともすればドラマチックに。創作物ですから)描くことが多いのかもしれません。挫折を経験し、その後停滞しながらも、外的刺激によって立ち上がって克服する。そういう姿に前進する活力を貰えるからだと思います。そしてそういうキャラクターこそが「生きている」と思われるのです。

 しかし、私はこうも思うのです――大きな変化ができないキャラクターであったとしても、何がしかに巻き込まれながら、どういう形であれ生きている。悩んで苦しんで、道を外れそうになりながらも必死に生きている。
 そもそも、人間というのはそんなにすぐに変わらない者だとも思っています。子供の頃であればまだ可能性があるにしても、大人になってからは変わらない人なんてごまんといます。そういう人は沢山見てきましたし、こんな偉そうなことを言っている私もそうだと思います。『劇的な事実があれば人なんて変わる』『自分を変えるなんて簡単だ』というのは、真っ赤な嘘――とまでは言わないまでも、あんまり真実味が無いと思ってしまうのです(そういう事象があれば世界はもっと良くなっている、とも思いますし、私の個人的な経験からそう思うことが多かったのも要因かもしれません)。
 無論、変化を全くする気もなく、反省をする気もない者は論外だとは思います。そうではなく、変化したくてもその仕方が分からない、変化したくてもできない、変化しようとしているが中々変わらない・変えられない――そういう中でこそ悩んで苦しんで生きていくという姿もまた「生きている」と言えるのではないのでしょうか。
 なら、小説にだってそういうキャラクターがいてもいいのではないか――これが今までお読み頂いた物語の原点となりました。

 なお、この物語は大きな謎をぶん投げて終わっています。それは、言うまでもなく幽海ちゃんの正体。
 無論わざとです。上記の主題がありましたので、逆に正体を明かすことがこの小説ではノイズになると思ったからです。
 しかし実のところ、。気が向いたらまたいずれ、幽海ちゃんの正体でも書いてみようと思います。

 ……が、暫くはまた好きなものを書き続けていこうと思います。この二人にいつ会えるのかはわかりませんが、ゆるりとお待ち頂ければ。

 最後に、倫新と幽海ちゃんに送る意味も込め、執筆のお供となった音楽をエンディングに、このあとがきを締めようと思います。
 それでは、ここまで長々としたあとがきにお付き合いいただき、ありがとうございました。次の物語でまたお会いしましょう。
 皆様に、幸あらんことを願って。


2022/5/24 透々実生

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