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【小説】カミキリ

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八百八十八体の神を全て斬り殺すまで、足を止めない。全てを奪われた青年と奪ってきた少女神の行く、暴力的和風空想譚。
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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(後書)

 ここまでお読み頂きましてありがとうございます。透々実生と申します。
 本作『カミキリ -神族鏖殺剣客譚-』の「天下壱死闘會」編、後書に御座います。ネタバレが御座いますので、まだご覧になっていない方は、是非こちらからお読み頂ければ!↓

 さて、本作は昨年(2022年)に執筆した読切短編の続編的な立ち位置にあるものです。「的な」というのは、時系列な繋がりは前作とは隔絶しており、読者の何方にも存在し

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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾柒(結))

カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾柒(結))

拾柒、出立。次なる神斬りへ。「お世話になりました」
「美味かったぞ! 料理!」
「こっちこそ世話になったよ! 最後には楽しんでくれたのなら何よりだ!」
 宴の翌朝、ケンジとスミレは旅支度を終え、村を出る事にした。出迎えに来てくれたのは双刃だけだった。無理もない――他は軒並み、夜通し宴を楽しんで潰れてしまったからだ。幸せそうな鼾や魘された寝言が村中から聞こえてくる。
「然し、双刃さんお酒強いですね」

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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾陸)

カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾陸)

拾陸、解放された村で。 ケンジとスミレが目を覚ますと、一日経過したらしい事が告げられた。
 全身に懸命な処置の跡が見られ、二人は村人達に感謝をした。村人達の方も、感謝しきれないのは此方の方だ、と言った。
「貴方達二人のお蔭で、『天下壱死闘會』は終わったのです」
 然し、ケンジは微笑みながら「いえ」と首を振った。
「僕は偶々、其の終わりに居合わせただけ――終わらせたのは紛れもなく、貴方達セロコ村の村

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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾伍)

カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾伍)

拾伍、決着。 怒号を吐きながら、最初に動いたのは転吐だった。彼の方も既に体力的にも怪我の状態的にも限界を迎えつつあり、短期決戦に持ち込もうとしているのだ。
 武器や防具を顕現させる能力――其れにより生み出したのは、砲台の様な武器。
 彼は一撃に賭けて全てを吹き飛ばそうとしている――其の気概を、ひりひりと三人は肌で感じていた。あまりの殺気に、肌に痺れを覚えるのだ。
『……気をつけろ、ケンジ』
「言わ

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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾肆)

カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾肆)

拾肆、人間の底意地。「糞が、糞駄人間共があああああああっ!!」
 転吐は織遥魂製の刀壊しの刀を振るう。振い続ける。対して、セロコ村の人間達は息を合わせて息もつかせぬ連携で連撃を繰り返していた。
「隙を与えるなっ!」先程転吐に啖呵を切った村人は号令を掛ける。「反撃の一つさえさせるなあっ!!」
「んな事ができると思ってんのかっつってんだよ、糞がああああっ!!」
 転吐は、回転斬りの要領でセロコ村の人間

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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾参)

カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾参)

拾参、セロコ村の選択。⚔

 ――神が、空から落ちて来た。
 其の異様な光景を闘技場にいる人々は見上げ、戦う事の出来る全員が即座に武器を構え直す。
 『天下壱死闘會』を主催した、セロコ村最低最悪の神――鎧を纏った転吐に対して。彼等彼女等人間に、恐れは微塵もない。
「謝るかよ――俺が人間相手に!」
 良いだろう。
 転吐は刀壊しの刀を手から離し虚空へと消し去った。次に転吐の手には奇妙な武器が握られた

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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾弐)

カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾弐)

拾弐、復讐対象の相棒。⚔

 ――四階に辿り着いて直ぐ、ケンジは超為を斬殺した。
 彼は何が起きたかを理解できぬまま、太い体を斬り刻まれて息絶え、体を砂塵に変えた。
 ケンジは、息を上げながら刀を構えていた。道中で待ち受けていた数人の人間達――薬で操られた彼らを気絶させてきたからであった。
「……まあ、そうなるよな」
 対する転吐は、全く動揺しない。まるで、最初から他の者には期待していなかった、と

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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾壱)

カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾壱)

拾壱、復讐の拳。⚔

 槍使いは飛び退くと同時、その眼前を高速回し蹴りが通り過ぎる。風圧で鼻先の皮膚が少しばかり破れた。
「ほらほらぁ! 避けてばっかじゃつまんないよぉ!?」
 ふううっ、と酒気帯びの息を吐きながら粕巳は駆ける。睡眠薬に満ちた空間を、何事も無く。
 化け物め、と息を止めっ放しの槍使いは思いながら、粕巳の繰り出す飛び蹴りを避ける。
 頭がくらくらする――既に数分応酬を続け、槍使いは限

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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾)

カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(拾)

拾、さらば『先生』。⚔

「小癪なっ! ちょこまかと逃げおって!」
 正々堂々勝負せい!
 武狼の怒鳴りに双刀使いは、無茶言うな――と斬撃を既の所で避け続ける。
 一撃一撃が重過ぎる。真面に正面切って喰らえば双刀の方が耐え切れずに砕け散るだろう――双刀使いはそう思っていた。
 其の証拠に、斬撃の通り過ぎた壁や地面には必ず、深い刀傷が残っている。其れも綺麗な傷では無く、抉れた様な汚い傷。其れは刀で切

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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(玖)

カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(玖)

玖、三者散開。 鉄球の雨が止む。彼方此方で悲鳴が上がっているが、辛うじて死人は出なかった様だ。
 然し安心ばかりもしていられない。人間を殺すと言った神が此の程度の攻撃で終えるとも思えないからだ。
 ケンジは双刀使いの周りにいる村人から新しく刀を受け取り、其れを即座に構える。双刀使いも槍使いも同様に己の武器を握り直す。
 途端。
「来たぞっ!」
 同時、観客席に立つ双刀使いが声を上げる。反応して空を

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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(捌)

カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(捌)

捌、回転と転回。

「おおっと!? 此れは如何いう事だぁ!?」

 流石の転吐も驚いたらしく、実況席から大声を上げた――何故なら、此の儘膝をつくとさえ思っていたからだ。他の神達も同様の反応で、あれだけ叫んでいた周囲の観客からは動揺からかどよめきが沸き起こる。
 唯一、槍使いだけが動じない。薬に犯された脳からは殺せとしか命じられていない以上、殺すことができさえすれば、何が起ころうと関係ない。
 寧ろ

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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(柒)

カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(柒)

柒、第一回戦。 開戦が告げられた瞬間、槍使いが踏み込む。人間業とは思えぬ脚力で地面を蹴り、ケンジとの距離を詰める!
 対してケンジは全く動じない。自らも似た様な技――縮地を用いるが、それに比べればあまりにも遅い。
 遅過ぎる。
 年単位での鍛錬の賜物と、瞬間での薬物の作用とが比肩すると思うな。
 槍使いが槍を突く。ケンジは冷静に横に動いて避ける。普通なら、槍を使った隙が大きいので、がら空きの体に斬

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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(陸)

カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(陸)

陸、去来する懸念、そして開戦。 翌朝。
 拘束された状態で歩かされながら、ケンジは昨日の槍使いからの言葉を思い出していた。



『私の恋人、今も無事だと良いんですが――』
『……どういうことですか?』とケンジが尋ねると、苦々しい表情を浮かべて槍使いが返した。
『……噂があるのです』重苦しい口を無理矢理に開く。『人質にした者を、死なない程度にもてなしていると。近くを通った者が、噂を聴いたそうです

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カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(伍)

カミキリ -神族鏖殺剣客譚- 「天下壱死闘會」(伍)

伍:忘れ得ぬ憎悪の種。⚔

 ――此れは悪夢だ。
 然し過去に於いては、悪夢の様な現実だった。

「足らん、足らんぞ! それしきの技量で闘技場に立てると思うな!」
 俺は鳩尾を蹴られていた。横腹が零れ落ちたかと思った。手に持った双刀を落とし、嗚咽を漏らしながら体の中のぐちゃぐちゃした食事を吐き出す。
 折角、無理して昼飯を腹に詰め込んだのに、其の努力が丸きり無駄になってしまった。果たしてこんな事で

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