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「産業看護職とは何者か」と向き合った体験

お疲れ様です。
産業保健をかじっている保健師です。

これまでTwitterやnoteの記事で「産業看護職の知名度を上げたい」なんて内容のものを何度か目にしてきました。
確かに世の中的には「看護師といえば病院にいる人?」「保健師といえばコロナでなんだか対応してくれている人?乳幼児健診にいる人?」みたいなイメージはあるだろうなぁと思いつつ。
個人的にはこれまで「産業看護職のイメージが世の中に浸透していない」ことに関して、あまり問題意識を持つことは、正直ありませんでした。

産業医のおまけとしての私

つい最近まで、私は労働衛生機関に勤めていました。
(「労働衛生機関って何やねん」と言う方はぜひ下記の記事を一読ください)

労働衛生機関では外部支援の産業看護職として、色々な企業の衛生管理担当者や健康診断担当者(以下企業内担当者)とやりとりをしてきました。
その企業内担当者とのやり取りで、私が「産業看護職である」と認識してもらったことは、正直なかったかのように思います。

保健指導や健康教育の依頼の対応ももちろんありますし、産業医が行う面談ほぼ全てに同席して、時には面談を進行したり産業医と一緒になって面談者へ質問をしたりとやってきましたが…。
毎度自己紹介で「保健師のつんつんです」と言いつつも、たびたび「先生」と呼ばれてみたりすることもあれば、【産業医以外の何者か】という感じでした。

「産業看護職」と認識がなかった大きい理由の一つとして、BtoBの契約で、契約内容は「産業医」がメインであり、看護職については、ほぼ触れられていないからです。
例えば「産業医が企業に訪問する・産業医が健診の結果を確認し医師意見を述べる・産業医が復職に関する面談をする」という契約内容がメインで
オプションや別契約として「産業医以外の専門職による保健指導」「産業医以外の専門職による健康教育」というイメージでした。

とにかく企業は法律で決められた「産業医との契約」がしたいため、そこに看護職がどのように関わっているかは気にしない企業が多かったこともあり、実際に企業内担当者に普段私がどんなことをしているかを聞かれたことはありませんし、多分気にしてもいなかったと思います笑。
企業内担当者からしてみれば「先生とのコンタクトを取るために調整してくれる人?」とか「産業医の秘書?」という印象だったのではないかと思います。


産業看護職が何をするのか・何ができる人で、  どんな貢献ができるのかを言語化できなかった

私は地方で産業保健に関する転職活動をしていたため、それはそれは、大変苦労しました。自分自身のこだわりもあり、とにかく求人を待つだけでは、次のステップに進むことができないと感じていました。

そんな中、某企業について知る機会があり、知っていけばいくほど面白い企業で『もうこれは運命しか感じない』『この会社をもっと知りたい』『産業保健体制はどうなっているんだろう』と思い、色々画策して行動した結果、直接企業に訪問をして支社長とお話をさせていただく機会をゲットできました。

実際に支社長を目の前にして

  • この会社のどんなところに魅力を感じるか 

  • 安全衛生がホワイトカラーの企業にどう影響するか

  • 私がこれまでどんな経験をしてきたか

  • どんなことを考えてどんな勉強や資格を取ってきたか

  • これからどんなことをやっていきたいか

多分めちゃくちゃ語りました。そんな私の話をとてもフレンドリーで優しい支社長はめちゃくちゃ真剣に聞いてくださいました。

その中で支社長から企業の課題だと思われるところを聞いたり、私が企業を知っていく中で安全衛生的な視点で課題だと思うことを伝え(実際にそう言った課題はあるかを確認したり)、産業保健専門職である私はどんな知識を持って、どのように考えて、どう課題を解決していくかを説明しました。

私にとって憧れにも近い企業について、その企業の支社長と緊張しながらも熱く話している最中。
ふと冷静になった私は「私が話してることって既に契約しているであろう産業医でもできるのでは?(今いる産業医ができないのであれば、産業医を変えるだけで済むのでは?)」「全然看護職の存在意義が説明できていない」と感じました。

そうなのです。私が押しかけたこの企業さん、とても大きい会社ながら産業看護職がいなく、これまで産業看護職を配置するなんて考えたこともない企業だったのです。
支社長も「産業看護職」と出会うのは初めてだったのではないかと思います。この時に初めて「産業看護職の知名度」ってこういうことなのか…?と思いました。
結局私は「企業内に産業看護職を配置することの利点」をうまく話せず終わってしまい、結局その企業から、産業看護職を配置するという選択肢はないと伝えられ、運命かも!とまで感じた企業に【産業看護職である私】は入るチャンスを得られませんでした。

今思えば、支社長があんなに丁寧に優しく対応してくださったのは、支社長の人柄ももちろんあるとは思いますが、企業が行っている事業のユーザー(私)を大事にするのは当たり前で。でも、1ユーザーである私に時間を割いてくださって…、今となってはありがたさしか感じません。
しかし、一つの企業の支社長に「管理業務を行う中で産業保健・安全衛生という視点があること」「産業保健や安全衛生に関する専門職がいるということ」「企業内に産業看護職を配置している企業があること」を知ってもらえる機会にはなったかなぁと思います(超前向き思考)
将来その企業で産業看護職の求人が募集されたら私きっかけだと思ってください(なーんて笑)

そんな経験をしてから改めて「企業内の産業看護職の存在意義」について考えるようになりました。


新規配置の産業看護職

時が経ち…、私は転職をして某企業の某エリアとしては、初めての常勤産業看護職となりました。
入職前から『きっと従業員の方は「よくわかんない人が入ってきた」「どんな仕事をする人なんだろう」と思うだろうな』と妄想しておりました。

そう、私はこれまでの経験から知っているのです。
産業看護職が何をする人でどんな役割がある人なのか、
従業員は知らない、ということを。
もちろん、企業によって看護職が求められていること・ミッションは違います。
だからこそ、私自身が企業を理解して、私に与えられたミッションを理解しなければならないこと・私が理解した私のミッションを同じ職場で働く人たちに知ってもらう重要性を入職前から結構重めに考えていました。


「産業看護職」について考えるために

私は転職をすることが決定し、転職先への入社前に、改めて産業看護職って何者かを考えることにしました。

まずは産業保健師活用テキストである
『産業保健師がいること』を取り寄せて読んでみました。人に説明する時のツールとしてとても活用できると思います。

そして、noteを読みました。

私は図々しいことに、きりんさんに連絡をとって「産業看護職とは」について語り合いました(むしろ語ってもらった感じ笑)(贅沢すぎる、羨ましいでしょ笑)
きりんさんとのやり取りの中で、自分の中で改めて大事にしたいこと・伝えたいことなどを整理できました。

私は以前の記載の通り、産業保健に関する「看護」についてまだモヤモヤしている状況です。(以下の記事参照)

自分の中で「産業看護職とは」を考える機会を作り、具体的に言語化できてはないけれど、自分の中でふにゃふにゃと塊にさせる作業を行いました。


実際に入職してみて

初日に着任の挨拶を皆さんの前でさせていただきましたが、予想を上回るほどの圧倒的アウェー感
「何をする人なのか・話しかけてもいい人なのか」
敵ではなさそうだが、仲間でもない、いるもいないも変わらない」と
思われているだろうなぁと感じる日々でした笑。
そりゃね、お上(本社)が勝手に決めて着任させた人材。着任の挨拶だけじゃ、何者かわからないし、どう扱っていいかもわからないよね、、当たり前だわ。

やはり想像していた通り、私自身が何者なのか・どんな役割を持っている人なのか・どんな時にやりとりをする人なのかを理解してもらうところから始める必要があると確信しました。
言語化するに当たっては、上司に看護職のミッションを尋ねてみたり、自分で作った文章を本社の看護職の方に確認してもらったり、事業所の衛生管理者の方にもみてもらったり。
まぁ色々ありつつ(!)、事業所において、看護職にどういった役割があり・どんな時に活用してほしいか、また私個人がどんな人間なのかを事業所内に広げる活動を行いました。
その活動後は、従業員の方とやりとりをする機会が徐々に増え、従業員の方に少しだけ認知をしてもらえたかなと思えています。(今は、敵ではないと思われていると信じています笑)


実際に事業所内で「看護職とは何者か」の周知活動をしてみて

着任後は、事業所の中を歩いてみたり、挨拶を積極的にしてみたりなど、
「この人がいる」という存在感のアピールはしてきました。
今回、事業所内で「産業看護職とは何者か」の周知活動をやってみましたが、ぶっちゃけ、存在だけでなく「何者か」を周知するってめちゃくちゃ難しいと思いました。
なぜなら、入職して着任した直後に、自分が考える看護職のミッション企業側が看護職に求めていることを自分の中で掴めていないと、看護職がこの事業所で何をする人なのかを言語化するのが難しいからです。

さらに「何者か」の周知のハードルを上げている原因の一つとして
企業内において、産業看護職がどんな存在か」をキャッチするのが難しいという点があると思いました。

他企業の看護職の話を聞くと、
「会社は看護職を採用はしたけれど企業側が看護職のミッションを考えていない(なぜ採用した?と思ってしまうけれどよくあるのよネ)」
「会社は看護職が何をできるか知らない(なぜ採用した?と思ってし…略」
「現場に看護職の支援についての理解がない」などの話題も多いです。

そんな中で「企業における産業看護職」を看護職である自分自身が理解して、事業所全体へ周知するって、めちゃくちゃ難しいと感じました。(正直そんな簡単じゃないと思いました;)


看護職に向けて産業看護職について語る

話は変わりまして。先日、看護職の方に向けて「産業看護職」としてお話をする機会をいただきました。今回お話しさせていただいたのは、病棟以外で働く看護職が登壇をして話をする会で、お話を聞くのはほとんどが看護職の免許をお持ちの方でした。
看護職のMCからの質問に応じながら会話をする、トークショー形式だったのですが、その内容は以下の通りです。

  • 産業看護職ってどんな仕事?

  • 毎日どんなことしているの?

  • どんなことを考えながら仕事をしているの?

  • 転職の時はどんなことを考えて、どんな行動をとったの?

  • やっぱり臨床経験は必要なの?

  • どうしてそんなに産業保健に熱いの?(笑)

もう、初っ端から私が今悩んでいるところよ~~~~と思いながら。
できる限り言語化していきました。
「産業看護職が求められることは、企業によって全然違う」というところを強調して説明しつつ、これまでの経験や私の考えを話させてもらいました。

今回参加させていただいた会を通して一般の方どころか、同じ看護職でも「産業看護職」について認知したり、理解している人はとても少ないと感じました。実際、産業看護職である自分自身がちゃんと言語化できていないのだから、当たり前ですよね。

私が学生時代だった10年ほど前に比べると、保健師教育の中では、産業保健を扱う時間も増え、公衆衛生看護学実習の中で産業保健分野に触れる学校も増えてきていると感じています。
保健師の国家試験でも、産業保健の分野の出題が増えたように感じます(私の頃と比べ、参考書の産業保健分野の中身の厚さが全然違う)
今の時代の看護学生さんたちは私の頃と比べると、産業保健・産業看護に触れてから社会に出ているように思います。
私は、学生時代にほとんど産業保健に触れてこなかったからこそ、ちゃんと考えて言語化できるように、考え続けなければならないと感じています。


産業看護職とは何者か

確かに今思えば、親戚や友人どころか親にも「どんな仕事してるの?」と聞かれても、うまく説明できていない状況でした笑
「企業の保健室の先生みたいな…」といえば、何となく想像してくれて納得してくれていたけれど、元々私自身、外部支援を行っていたこともあり「企業の保健室の先生」は自分自身では納得する表現ではなかったです。

これまで、実際に産業看護職について知らない人たちとのやりとりを振り返り、産業看護職が何者なのかを知ってもらうことは、とても重要ではあるが、かなり難しいことなのだなと実感しました。
そして改めて自分のためにも、産業看護業界のためにも「産業看護職とは何者か」をもっと言語化していく機会を作っていかねばと思いました。


(蛇足)ミッションの違いを実感

蛇足になりますが、上記にもあるように、企業によって看護職に求められることやミッションは違います。そんな中、企業内に入って感じたのは、看護職として「事業所におけるミッション」と「企業におけるミッション」はまた別なのだなと言うことです。

今思えば、これまで外部支援をしてきて「事業所において看護職としてできること」を考えていましたが、「企業全体におけるミッション」についてはあまり考えたことはありませんでした。中小企業を主に対応していたこともあり「事業所=企業全体」という認識があったからかもしれません。
確かに、転職活動の際にも「企業全体」と言うよりも「この事業所に私がいることの利点」という観点で考えていたな、と思います。

現在、私は本社が別エリアにある地方事業所に勤めているのですが、担当の事業所の安全衛生を考えつつも、企業全体の施策を考えて動かしていかなければならない、と言うことにとても新鮮味を感じています。
また、事業所の対応と企業の対応では、(弊社では)看護職として全く別の役割があり、視点も変えなければいけないのだなと実感しています。
企業内勤務の方からすると、当たり前なのかもしれないけれど、私にとっては大きな発見でした。