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100年の歳月

わけあって自宅敷地内にある築100年の蔵を改装し、宿泊施設へリノベーションすることになった。工事期間は2022年5~11月頃までを予定していて、実際のオープンは2023年春の予定。

なぜそのような運びになったのかだけ、ここに記録を残しておこうと思う。

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私が暮らしているのは湖畔の田舎町である。結婚をきっかけに2019年に移住し、2年半が経過した。サツマイモの産地ではあるものの、特に目立った観光スポットはない。ただ、湖の向こう側へと沈んでいく真っ赤な太陽を見るたびに、どこか神秘的な気持ちにさせられる。

現在、築約50年の日本家屋に住んでいる。当時流行した造りだそうで、大工さんによっては一目見て築年数を言い当ててしまうほどだ。地域性もあるのだろうけれど、確かに似たような間取りの日本家屋を見かけることがある。

そんな家だけれども、家族構成が夫と私(とヤギ2頭)ということもあって、空き部屋がある。そこで、移住当初から余っている部屋を活用し、宿を運営している。俗に言うエアビー(airbnb)を通して利用してもらっている感じだ。最初は本当に誰か来るのかな?と思っていたけれど、ポツリポツリと宿泊者が来てくれて、最近では移住希望者の方が話を聞きに来てくれることもあって、新鮮な時間を過ごさせてもらっている。

そして昨年、とある補助金に夫婦で挑戦し、無事採択されたことが分かり、敷地内にある蔵を改装し二軒目の宿を準備することになった運びだ。ただ、二軒目といっても母屋から徒歩すぐの建物だから、これまでの生活から特別何かが変わるわけではない。

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登記によると、蔵は大正12年(1923年)に建てられたものらしい。偶然にもオープンを予定している2023年で、ちょうど100年を迎えることになる。これを発見したときは区切りの良さに驚いた。以前大工さんが来た時に「この蔵はまだ建っていたいと言ってますね」と仰っていたから、蔵の想いが反映されたのかもしれない。

これまで蔵は物置としてしか活用していなかった。そもそも蔵ってなんの目的があるの?ということもよく分かっていなかった。調べてみると、蔵は「大切な家財や商品を安全に貯蔵しておく場所」らしい。酒蔵、味噌蔵、などが分かりやすい。

では、うちにある蔵は何を貯蔵しておく場所だったのだろう?という疑問が浮かんでくる。100年前の使われ方は分からないけれど、直近でいえば「米」を貯蔵していたらしいことは分かった。理由は、壁にチョークで書かれた「米注文」のメモがあったから。

土壁に混ぜられた笹の葉、竹の骨組み、木の扉、など珍しい点はたくさんあったけれど、最も驚いたのは2階天井部の梁(はり)だ。幾重にもめぐらされた梁(はり)の様子はいつまでも見ていたいほど芸術的に思えた。

熟練の大工さんも「こんなに梁が密集して連続しているのは珍しいよ~」と面白がっていた。こうすることで、建物の強度が増すのはもちろん、職人としての腕前を証明することにもなるのだとか。かつてこの蔵を建てた職人は、自分の技術力に誇りを持っていたんだなと感じた。

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これからこの蔵がどう変わっていくのか楽しみな一方で、この古いままの形を変えなければいけないことに少し心が痛んだ。基礎は残すとはいえ、美しい土壁も竹の骨組みも取られてしまうから。せめてもの想いで写真をたくさん撮っておいた。100年の歳月の重みを受け止めて。

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そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。