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詩にまつわる

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2023年4月の記事一覧

内なる飢えた子供のためにだけ

内なる飢えた子供のためにだけ

黒田喜夫の第一詩集『不安と遊撃』1959年、飯塚書店。第10回H氏賞。
集中に収められている「毒虫飼育」を読んだ時の衝撃は忘れられない。言葉で、これほどまでに気持ちの悪い強烈な世界を創ることができるのかと。そして言葉の持つあくまで断定的な、スピード。1959年の段階で
 おかあさん革命は遠く去りました
 革命は遠い砂漠の国だけです
 (中略)
 革命ってなんだえ
 またおまえの夢が戻ってきたのかえ

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文法を粉砕する美しさ

文法を粉砕する美しさ

『瀧口修造の詩的実験 1927〜1937』1967年、思潮社 1971年に小型版が出た後しばらく版を重ね、2003年に復刻されたようだが、品切れ。
これは、恩師ジョセフ・ラヴさんから、「預かっている」もの。ラヴさんは1992年に亡くなったので、返しようもないのだけれど、そういう意味では、他にもたくさんのもの、ことを預かっていて、お返しできていない。もちろんラヴさんにも、世の中にも。
カトリックの神

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速度記号が必要な詩

速度記号が必要な詩

吉増剛造詩集『草書で書かれた、川』1977年、思潮社
高3の時に、おそらく京都書院で買った。京都書院では、「遊」や稲垣足穂、現代詩文庫、いろんなものを知り、買った。
吉増の詩には、速度記号が必要だ。
「多摩川 高麗川の 川のむこうに 不思議な 病院がたっていて 川を渡ると 消える」
と始まる冒頭の「老詩人」と、
「ぼくの歌集の第一頁には不思議な銅版画がある」
と始まる「空中散歩」では、自ずとスピー

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言葉のアナキズム

言葉のアナキズム

中江俊夫の詩集『語彙集』。1972年思潮社、350ページ、23cmのほぼ正方形。当時の定価4800円。これを1980年12月、大学3年の時に高円寺の大石書店で3000円で買ったと裏見返しに書いてあります。
当時現代詩というものに没入していたぼくは、言葉から意味というものを剥落させなくては、言葉の本当の美しさは獲得できないと思って、どのようにすればよいのかを日夜(←うそ)考えていました。
たとえばこ

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古典ゆえの奔放

古典ゆえの奔放

藤井貞和『割れ殻の秋(自装版)』限定四部のNo.4、1984年4月14日、元版1978年9月10日、謄写55部
何故こんなものを買えたのか、買ったのか。表紙まわりは、詩集『ラブホテルの大家族』のカバーの裏。
下段に藤原定家の和歌、上段にその現代詩訳、という一冊。
例えば、定家「あだし野の風に みだるゝ糸薄 くる人 なしに 何まねくらむ」を
 化し野の風にみだるる糸すすき繰る人なしに
 来る人なしに

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