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速度記号が必要な詩

吉増剛造詩集『草書で書かれた、川』1977年、思潮社
高3の時に、おそらく京都書院で買った。京都書院では、「遊」や稲垣足穂、現代詩文庫、いろんなものを知り、買った。
吉増の詩には、速度記号が必要だ。
「多摩川 高麗川の 川のむこうに 不思議な 病院がたっていて 川を渡ると 消える」
と始まる冒頭の「老詩人」と、
「ぼくの歌集の第一頁には不思議な銅版画がある」
と始まる「空中散歩」では、自ずとスピードが異なる。
言葉には、速度がある、と言うことをおそらく初めて教えてくれた詩人。
随所に東京の地名が出てくる。武蔵野、甲州裏街道、新宿三井ビル、京王線、小田急線……
神戸の高校生には、もちろん未知なる土地だ。
それは大岡信の「地名論」だって、そうだった。
「水道管はうたえよ お茶の水は流れて 鵠沼に溜り 荻窪に落ち 奥入瀬で輝け」
進学で上京し、これがお茶の水、あそこが荻窪、これが吉祥寺…と、胸ときめいたものだ。
初めて姿を見た吉増は、鮮やかだった。鮮やかで、華やかで、狂って見えた。その狂は、あくまで言葉によるものだった。言葉で狂いたいと思った。
著者自装のこの美しい本は、ページを開いて読んだあと、閉じようとすると、カバーに突っかかって、すんなりと元に戻ってくれない。読み止めるのを拒んでいるのか、読まれること自体を拒んでいるのか。

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