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サービスデザイナーが2020年に読んだ経営・ビジネス本まとめ

事業会社のデザイン横断組織でデザイナーをしています @sizucca です。

普段はデザインや技術に関する本を読む事が多いのですが、今年はマーケティングや経営など、ビジネスに関する本を多く読んだ一年でした。

2018年ごろから業界を飛び交いはじめた「デザイン経営」の「経営」部分がヨクワカラナイ…という危機感や、デザイナーであっても(寧ろデザイナーだからこそ)最低限のビジネス知識は持っておかなければ、という思いから、昨年まで経営学や経済学の本に手を出しては数ページで挫折、を繰り返してきました。

そんないちデザイナーが「この順番で本を読んだら今まで途中で挫折していたビジネス書を読めるようになった!」という経験を交えながら、備忘録を兼ねて読んだ本を紹介していきます。

1. 歴史の本

いきなり「歴史」です。いわゆる学校で習った「世界史、日本史」です。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というオットー・フォン・ビスマルクの言葉にもありますが、我々が日々生きている今日この日は、過去の歴史の流れの延長線上にあるひとつのタッチポイントにすぎません。

そのため、歴史の流れを大まかにでも把握することは、未来の経済や経営を考えるにおいても大きなヒントになる、と(今更ながらに)気が付きました。

我々(ホモ・サピエンス)がどのような歴史を歩んできたのか、を学ぶことは、直接的なビジネススキルアップには繋がらないかもしれませんが、ビジネス書が読みやすくなる、という発見がありました。

歴史を頭に入れてから改めてビジネス書を読むと、「歴史を知っている前提」で名称や人物名が出てくるので、背景を知っているかどうかで理解度が大きく変わりました。

私は、高校時代に「社会」の専攻を「カタカナが覚えられない」という理由から日本史にしたため、世界史の知識は中学(一夜漬け)で止まっていたので、まずは以下の本で世界史の再学習を行いました。(世界の歴史の「流れ」と「ポイント」が分かる本ならなんでもいいと思います。)

一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書

個人的に「“宗教”はあまり触れてはいけないもの」という刷り込みがあり、意識的に触れないようにしてきたのですが、改めて世界の歴史を勉強すると「宗教、政治、経済」には強い相互関係があり、宗教の歴史を理解することは、政治、経済を理解するにおいて非常に重要である、と学びました。

以下も読んだのですが、「用語」を覚えることに重点を置いた本であったため、残念ながらこの本1冊では頭に入ってきませんでした。(流れを学習した上で、テスト用に用語を覚える、という用途には適していると思います。普通に受験生向けというか。)

余談ですが、私は演劇(例:宝塚)が好きな関係で、演劇やミュージカルでよく題材となるポイント(フランス革命とかロシア革命とか)はスラスラと頭に入ってきたので、「どうしても頭に入ってこない!!」という方は、興味の持てそうなジャンル(アニメや漫画など)でまずはポイントを頭に入れ、あとで線で繋ぐのもひとつの手法かなと思います。

サピエンス全史

上司におすすめされた本です。歴史の教科書とは比べ物にならない壮大なスコープ、かつ別の視点(より生々しい身近な視点)から人類史について描かれています。

この本、内容は非常に面白いのですが、「哲学っぽい言い回し」と「翻訳しました感溢れる文体」のコラボにより… 一言で言うとめっちゃ読みにくかったです。正直、途中からしっかり読むのは諦め、薄目で拾い読みしながらの完走でした。(基本的な歴史を学ぶ前だったら、それすらできたか怪しい…)

専門的な論文に比べれば読みやすい(?)とは思うので、冬休みにでも再読したいと思っています。

2. お金・投資の本

このジャンルの本を読もうと思った目的は、主にドメイン知識として必要だからなのですが(私の勤めている会社は上場企業のため、決算説明会の資料デザインなどのIR関連業務もあるため)直接関連業務を行う立場に無い方でも、企業人であれば非常に役立つ内容でした。

宗教と同じく、なんとなく「お金」の話を深掘りして考えるのは避けてきた所があるのですが、世の中の経済がどのように回っているのか、その歴史と仕組みを学ぶことは、「指示されたことを機械的に行う作業者」ではなく「世の中の“何か”を変えたい(価値を生み出したい)と考えている人」にとっては必要なことであると感じました。

世界一やさしい 株の教科書 1年生

投資活動をほとんどしたことがなかったので(自社株と確定拠出年金くらい…)まずは基礎学習として読みました。

ローソク足などのチャートの読み方や証券会社の選び方など、個人で投資を行うのに最低限の情報が分かりやすく書かれていました。

本当に個人投資を行う場合は、この1冊では情報量が少し足りないと思いましたが、個人投資の入門書としてはおすすめです。

MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣

この本も数年前に購入し、当時は2ページくらい読んでそっ閉じしたのですが(当時はIR関連の業務も行っていなかったので)改めて読んでみました。

出てくる数字を頑張って覚えようとせず、概要を掴むくらいの感じで読んでいくと読み進めることができ、内容も自社サービスに近い業種があることもあって理解しやすかったです。

ビジネスモデルによって注視すべき数字が異なる事や、そのポイントが分かりやすく説明されていたので、この本にある事例の会社であれば、決算書の解説ができるような気になりました。(気のせい。)

1冊で分かる! ESG/SDGs入門

投資家(機関投資家)向けのデザインをしているのに、機関投資家(デザインのターゲット)について何も知らない、というデザイナーとしてヤバい状態だった事と、最近あちこちで耳にする「ESG、SDGs」(あとはCSRとかCSVとかSRIとか)について「よく分からないけど、エコロジーとか世の中をもっと良くしていこうという活動」という非常にふんわりとした知識しかなく、バックオフィスの専門職の方々とうまくコミュニケーションが取れない状態だったので、共通言語を理解するために読みました。

投資やESG、SDGsについて非常に分かりやすく書かれており、めちゃくちゃ勉強になりました。大変失礼なことに「投資家=マネーゲーマー、ギャンブラー」というイメージがあったのですが、我々と基本的には変わりない、世の中に価値を生み出し、良い社会を創るために存在している組織(企業)の中で、「投資」というサービスを行っている方々なんだな、と思いました。

この本は、機関投資家とはどんな人なのか?という事については事前知識がある前提で書かれていたので、そもそも個人投資家、機関投資家って何がどう違うの?という方は、以下の本から先に読むことをおすすめします。

投資家と企業のためのESG読本

「投資家」がどのような人(組織)なのか、を説明してくれているので、この本(とインターネット)でようやく投資家について多少なりとも理解する事ができました。

3. マーケティングの本

ブランディングとマーケティングは切っても切れない関係であり、デザイナーにとってもマーケティングはある程度は必要なスキルセットである…とふんわり感じてはいたものの、「マーケティング=売るために頑張る」以上の知識がなかったので、マーケティングについても勉強しました。

大学4年間のマーケティング見るだけノート

「読むのを途中で挫折しないように絵がいっぱいある本」として選びました。具体的なフレームワークに関する内容が大半だったので、それを本質と誤解しなければ、初級編として頭に入れるには良かったと思います。

カール教授のビジネス集中講義(3) マーケティング

非常にシンプルなレイアウトと分かりやすい図表で端的に説明されているので、スッと脳に入ってきます。

大まかな内容は「大学4年間のマーケティング見るだけノート」と似ているので(執筆・監修が同じ方なので当たり前かも…)、どちらか1冊を選ぶらならこちらをおすすめします。

1〜2年前に購入し、当時サラっと読んだのですが、改めて読み直しました。

マーケティングとはなにか、ブランドとは何か、ブランドを中心とした経営を組織に導入するにはどうすればいいのか、という内容です。フレームワークや手法の本と違い、組織への具体的な導入方法(コンサル目線からの経験ぽい)が書かれているので、そのことに関する悩みがある方にはおすすめです。

4. プラットフォーム・マーケティングの本

上記のマーケティング本は、主には「商品(モノ)」のマーケティングで「売れる商品の作り方」が中心なのですが、私の所属会社を含め、IT企業が作っているものは(特に昨今は)単なる消費財やソフトウェアのような「モノ」ではなく、継続的に使い続けてもらう「場」やネットワークの仕組みづくりです。(その仕組みの上で「モノ」を売ったりすることはあります。)

「売れる商品の作り方」ではなく「活発なネットワークの作り方」をどうすれば体系的に学べるのか悶々としていたのですが、上司から以下の本を教えてもらい、かなり視界が開けました。

プラットフォーム革命――経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか

プラットフォームビジネスの歴史や、AppleやFacebookはなぜ成功したのか?ということがある程度体系立てて説明されているので、今すぐ使えるフレームワークのようなものが載っているわけではありませんが、サービス開発者にとって必要な視点や考え方が納得感を持って理解できました。

私たちが慣れ親しんでいるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)だけでなく、BAFA(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)の話もかなり出てくるので、横軸の補完として以下の本も読みました。

清華大生が見た 最先端社会、中国のリアル

(この辺まで読むと、「日本、ヤバイな…」という危機感がめちゃくちゃ押し寄せてきました。)

「プラットフォーム革命」をインストール本として読み込んだ後に、以下の本の流し読みも行いました。

最新プラットフォーム戦略 マッチメイカー

大まかな内容としては「プラットフォーム革命」と大きく変わらないのですが、「プラットフォーム革命」のようにある程度体系立てた説明や解釈は少なく、歴史の流れが主軸で、「ではどうすればよいのか」という構成にはなっていないので、あくまでも読み物として「プラットフォーム革命」以外の他の視点やより深い事例の背景を知りたい、という方は読んでみるのも面白いかもと思います。(翻訳文ゆえの読みにくさはありました。)

プラットフォーム・レボリューション PLATFORM REVOLUTION――未知の巨大なライバルとの競争に勝つために

「プラットフォーム革命」を読んだ後に読むと読めましたが、いきなりこの本から読み始めるとツライかも、と思いました。(とにかく文章量が多くて図解が少ない…)翻訳書ですが文体は読みやすいです。

「プラットフォーム革命」では「直線的なビジネス」と説明されていたワードが「パイプライン」となっていたのが個人的には分かりやすく、特に巻末解説として妹尾堅一郎氏が執筆されている「パイプラインからプラットフォームへ」が、日本人の視点もあり非常に理解しやすかったです。

日本型プラットフォームビジネス

「日本型」というタイトルの通り、上記の本の事例はほとんど海外なのに対し、日本の事例をメインに、「海外と比較した日本企業の現状」や「“日本企業が”、“いまこのタイミングから”、プラットフォームビジネスを成功させるための戦い方」が書かれているので、日本でビジネスを行っているひとにはおすすめなのではないかと思います。

とはいえまだしっかり理解しきれていないところもあり、この本を理解するにおいては、もう少しビジネスモデルそのものについての勉強も必要そうだな、と感じています。(が、現時点では学習が追いついていません;;)

注意点としては、プラットフォーム型ビジネスに関する基礎知識はある前提で書かれているので、「プラットフォーム革命」などのインストール本を先に読んだ上でないと、導入理解を誤りそうだなと思いました。

ビジネスモデルに関しては、以下の本を読んではみたのですが、文字がギチギチと詰め込まれた漫画と解説がひたすら並べられている本なので、俯瞰的なビジネスモデルとして理解する事ができず「楽しようとしたけど楽できなかった」結果に終わりました。(成功企業のビジネスの成り立ちについてざっくりと知るにはいいのかも...?)

マンガ ビジネスモデル全史 創世記篇

ここまで、昨年までは「はじめに」を読んで投げ出していたジャンルの本についてのご紹介をしてきましたが、スラスラを楽しく読めたわけでは決してなく、ある程度の理解が得られるまでは「もう勉強とかしたくない〜!しんどい〜!!!」とジタバタもがき苦しみました。

そんな時には、気分転換も兼ねて、従来よく読むジャンルであるデザイン関係の本も読んだりしたので、最後にご紹介します。

5. デザインの本

みんなではじめるデザイン批評―目的達成のためのコラボレーション&コミュニケーション改善ガイド

数年前にサラッと読んだのですが、チームで仕事をする事が増えてきた事もあり、読書会を設けてチーム全員で読み直しました。

読書会については「チームで協働するための「オンライン読書会」実践レポート」というnoteを書いています。

内容については、同僚が書いた「デザインレビューで意識してほしい6つのポイント」が非常に分かりやすくておすすめです。

This is Service Design Doing サービスデザインの実践

サービスデザインについては昨年から勉強を重ねていたのですが、「THINKING」に続く「DOING」が出たぞ!!という事で、即買いしました。

久しぶりに物理本を買ってみたら、腕が痺れるくらいデカくて重くて読みにくかったので、あとで電子本を書い直しました。

ちなみに、タイトルで「サービスデザイナー」を名乗っていますが、まだまだ実績が薄く「お前勝手なこと言ってんな」というレベルなのですが、目指しているデザイナー像を明確にする意味を込めて最近無計画に名乗っています。

サービスデザイナーについては、高度デザイン人材育成研究会 ガイドライン及び報告書 の 高度デザイン人材育成ガイドライン 詳細版(PDF) が分かりやすかったです。

事例で学ぶブランディング ランドーのデザイン戦略大公開

眺めるだけで楽しい。というか完全に休憩を目的に読みました。

グラフィックがある本ってなんて楽しいんだ…。

まとめ

長々と読んだ本について書き連ねましたが、今年得た学びをまとめると

1. 歴史(宗教、政治、経済)を把握しているかどうかでビジネス関連の学習の理解度が大きく変わってくる
2. お金や投資の知識は、マネートレーダーやギャンブラーといった特異分野の話ではなく、特に企業人にとっては必要なものである
3. プラットフォーム・サービスの運営者であるなら、そのビジネスモデルやマーケティングについての正しい情報のインプットが必要である
4. ビジネス書を読むのに疲れたら、自分の専門職域の本を読むと意外と息抜きになる

あと、本ではありませんが、新聞も読むように(読めるように)なりました。

実家にいた頃はテレビ欄くらいしか見る所がなく、なぜ父親や世の中のビジネスマンが新聞を読むのかが分からなかったのですが、歴史の延長線上でリアルタイムに動いている世の中の経済や情勢を大きな偏りなくキャッチアップするために読んでいたんだな…と社会人もそろそろ折り返し地点になるこの歳になって気がつきました。(ネットニュースでもいいのですが、少なくとも私はネットだと特定の嗜好に偏った情報ばかり拾いがちになってしまうので、新聞の拾い読みが良い勉強になっています。)

この記事は GMOペパボデザイナー Advent Calendar 2020 2日目の記事でした。今年も残りわずかとなりましたが、良い年末年始をお過ごしください。

オマケ:今年買ったけど未読の本

以下はできれば今年中に読みたい…!!

デザインリサーチの教科書

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く

ウェブタイポグラフィ─美しく効果的でレスポンシブな欧文タイポグラフィの設計

アフターデジタル2 UXと自由


事業会社でデザイナーとして働いています。コーヒーとラーメンと間取り図が好きです。(Flaticon Premium licenses user)