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#141 底へ沈んだ猫、金【宮沢賢治とシャーマンと山 その14】

(続き)

鉱山、特に金山に関する情報は、秘密事項、あるいは重要度の高い機密事項として、厳重に隠されていたのではないかと思われる節がある。

現在の山梨県、戦国時代の甲州にあった隠し金山では、金山に関する情報が漏れる事を恐れ、金山の労働者の相手をしていた遊女達を大量に殺したという伝承が伝わる、花魁淵という場所がある。

金だけではなく、鉄などの鉱物を産出する山は、特に権力者にとって宝の山だったと思われる。
その支配権の確保が権力と富の維持へと繋がり、場合によってはその存在を隠し、裏の資金源として確保することにより、秘密裡に蓄財したり、逆に、隠された鉱山を暴くことで資金源を奪ったりしたのではないか、という事は想像に難くない。
 
そして、そのような独特の歴史が鉱山にまつわる特有の雰囲気を形成し、その雰囲気は「猫底」にも漂っているように思われた。
 
猫底という地名は、昔、猫の形をした金が見つかったことに由来しているそうだ。その金の猫を掘り出そうと作業していたところ落盤事故が起きて金の猫と人々は底に沈んでしまった。故に、猫底という地名になったのだと。

また、猫底で聞いた「鉱山の近くには熊野神社がある場合が多い」という話がとても気になり、その後、熊野を訪問した際にも、その理由を探すこととなる。賢治が残した足跡からも熊野につながる気配が感じられるのだが、その件についてはまた後で書くかもしれない。
 
いずれにしろ、土地そのものに漂う自然の霊気、金山が持つ隔絶され隠された独特の雰囲気、猫という妖しい動物の名が冠され地名から連想される妖気。それらが相まって、猫底は、私がイメージしていた「注文の多い料理店」の舞台そのものだった。
 
物語の中で、山猫(と思われる何か)は姿を現さない。それらは、実体を持った存在ではなく、土地の名前にとりついた霊気のようなものなのかもしれない。賢治自らが詩「猫」で表現した、猫の形をまとった何かのように。
 
全ては妄想にすぎないが、その妄想は不思議な説得力を持ち、猫底だけではなく、大迫全体が、宮沢賢治の作品世界に通じる、自然や霊気を孕んだ土地であるような予感がした。

【写真は、花巻市大迫地域、猫底の山神社鳥居】

(続く)

2024(令和6)年3月3日(日)


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