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現代のJ-POPに見る琉球八重山語

北大言語学サークル所属のもけけです。
先月公開した「標準日本語との対照から学ぶ八重山語の音韻」の記事を親しみやすく感じてもらえるように、八重山語の音韻論と関連させながら現代のJ-POPの歌詞を見ていく記事を書いてみることにしました!

この記事を読む前や読んだ後などに「標準日本語との対照から学ぶ八重山語の音韻 後編」を読んでいただければ、楽しみながら理解を深めていくことができるかと思います。


BEGIN「島人ぬ宝」

言わずと知れたBEGINの名曲、いわゆる「沖縄ポップス」の中でも屈指の有名曲ですね。

タイトルになっているほか、歌詞にも登場する「島人ぬ宝」というフレーズのうち、最初の「島人(しまんちゅ)」に関しては語彙化の程度が高く、音韻対応だけで分析的に見ることは難しいように思いますが、助詞の「ぬ」に関しては、音韻対応の観点から説明を加えることができそうです。

nu ぬ → no の

①八重山語の /u/ が標準日本語の /o/ に対応。

このように見ると、ここでの助詞「ぬ」は、標準日本語の「の」に相当するような形式と考えることができそうです。

大島保克「旅路」

大島保克さんは、BEGINのボーカルを務める比嘉栄昇さんの高校時代の同級生であり、この曲が収録されている『島渡る』というアルバムの中にも比嘉さんが作曲を手がけた「イラヨイ月夜浜」という曲が収録されています。

このアルバムは、私が八重山語と標準日本語との間の音韻対応に興味を持つきっかけとなった作品でもあり、余談ですが、私のnoteのIDは、この曲の歌詞に登場するフレーズに因んだものになっています。

jugutu kutu umuwariru / mamanaraN kunu umui
ゆぐとぅ くとぅ うむわりる / ままならん くぬ うむい

jogoto koto omowareru / mamanaranu kono omoi
夜ごと 事 思われる / ままならぬ この 思い

①八重山語の /u/ が標準日本語の /u, o/ に対応。
②八重山語の /i/ が標準日本語の /e/ に対応。
③八重山語の語中の /N/ が標準日本語の /nu/ に対応。

大島保克(2012)「旅路」(楽曲)『島渡る』ビクターエンタテインメント

この例でも、先ほどと同様に、八重山語と標準日本語の間の音韻対応を意識した上で作詞が行われていることが窺われます。

大島保克『ばがすぃまぬうた』

最後はアルバムのタイトルです。
前述の「旅路」が収録されている『島渡る』がオリジナル楽曲を多数収録したアルバムであるのに対して、こちらは全て伝統的な八重山民謡を収録したアルバムです。

baga sïma nu uta
ばが すぃま ぬ うた

waga sima no uta
我が 島 の 唄

①八重山語の /b/ が標準日本語の /w/ に対応。
②八重山語の /ï/ が標準日本語の /i/ に対応。
③八重山語の /u/ が標準日本語の /u, o/ に対応。

今回の記事で取り上げる例の中では、中舌母音 /ï/ が見られるという点で、最も分かりやすく八重山語の音韻的な特徴が表れている例であると言えるようにも思います。

まとめ

以上で見てきたように、現代のJ-POPの歌詞の中にも、琉球諸語の言語的な要素を表現上の効果に利用するような例は多く見られると言えます。
今回の記事を通して、琉球諸島の音楽や言語といった文化に興味を感じていただければ嬉しく思います。

おことわり

今回の記事で引用する歌詞は、いずれも八重山語が話されるとされる石垣島出身のアーティストの方の作品に着目しましたが、先月の記事でも確認したように、八重山語は、島・集落ごとの方言差が大きい上に、世代間でも方言を保持している程度に大きな差が存在します。
さらに、そもそも、八重山語を使って作詞したと公言されているような記録に基づいているわけでもなく、実際、私見ですが、沖縄本島で話されるとされる「沖縄語」と見る方が妥当な部分もあるように思われました。

したがって、本記事は「八重山語で書かれた歌詞」を紹介するといった性格のものではなく、あくまでも「先月の記事の内容に基づいて解釈の一例を提示することができる歌詞」を紹介するものであるという点に留意していただきたいです。

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