免許の更新

初めて自動車免許の更新に行ってきました。

社会人数年目のとき、忙しそうな先輩社員を横目に「今日教習なんで(笑)」と言いながら定時退社を繰り返すという見事なゆとり感を発揮しつつ免許を取ったんですけど


そこから三年


その事実がまず衝撃


三年で人生は変わる。みたいなCMあったけどマジこっちは1ミリも変わってねえから。なんなら十四年前とも何も変わってねえから



(私が十四年前に書いたとされるラップ)


初めて免許を更新する人は、試験場という場所に行かねばなりません

そして様々な手続き(お金の支払いや証明写真の撮影など。私の写真は左右の顔のバランスが違いすぎて抽象画みたいな仕上がりになった。三年で唯一変わったのは顔の歪み具合)を済ませ、二時間の講習を受けてようやく更新ができるのです

この講習がさ

ちゃんと説明を読まずに行ったので「初回の人だけが受ける初々しいやつ」を想像してたんだけど

違反を起こした人も一緒に受けるのだということを知りませんで

だから、教室開けるともう年齢層とか想像よりグッと上がるわけ

えっ?ってなった

部屋間違えた?


あっれー!なんだかみんな気だるい雰囲気〜!アンニュイ〜!よく言えばアンニュイ〜!ってなったけど私の指定された教室は間違いなくここです


空いている席に自由に着席していいスタイルで、教室後方に空いている席を見つけたので近づく

すごい近づいてから気づいたけどよりによってアウトレイジみたいな人が隣に座ってて震えながら椅子を引いたよね


あ、だからこの席空いてたのか〜!なるほどですね〜!なるほど・ザ・ワールドですね〜!ってなってた


このとき少しでも不快な音を立てたらたぶん内ポケットに入ってるチャカで撃ち殺されてたと思うから


教室内、全員悪人、みたいなことになってっから


しかも私が着席した瞬間、嘘みたいなタイミングで「のってるかい A〜ha」って誰かの携帯から永ちゃんの着うた鳴り始めたからね


完全に「E.YAZAWA」のステッカーを窓に貼ってるタイプの人おるやーん!ってなるよね


ステッカー貼ってる人の中でも違反起こしてもうてる部類の人おるやーん!ってなるよね


そんな非常に危険な状況下で行われる講習なんですけど、講師の滑舌が、私が人生で出会った人の中で一番悪かったのね


60歳手前くらいのおじさんです


「ラッシャね、アッシュッシュアーーッシュ!よろしくお願いします!」


よろしくお願いしますだけがはっきりと聞こえる


異国に行って知ってる単語だけ聞こえたときみたいな状態になってる


あとはもう「ラッシャー」とか「ナッシュス」とか「シャ行」の存在感が強すぎる発言の数々


そのラッシャーが色々なパネルなどを用いて運転免許の種類や事故の危険性を説明してくれるんですが、用意されてるパネルもまぁ小さいわけです


わりとデカめの教室に対してA4用紙サイズくらいなわけよ


加えて何言ってっか分かんねえっていう過酷な状況に、さすがの隣のアウトレイジもイライラするよね


貧乏ゆすりが始まりました


地震かな?って思ったけど違った


震源、隣のおっさんだった


私が少しでも持っているボールペンを落としたり物音を立てようものなら一思いにやられる

ここから、私の命がけのアドベンチャーを記します



〜第1章 マグネットどちらが長いか問題〜

私の生死をかけた切迫した状況をよそに、ラッシャーは教室前方のホワイトボードに、青と黄色の棒状のマグネットをそれぞれ一本ずつおもむろに貼った

ラッシャーが、一番前に座る人に問いかける


「ロッシャーナガッカメマス?」(※どっちが長く見えますか?)


こういうスタイルの講義、よくありますよね


前の方に座っている人を当てて何名かの回答を聞いたあとに「みなさんは〜と答えましたが、実はこれ〜なんです!」「え〜!」とかいうやつ


ラッシャーはスケールが違った


軽く80名くらいいる受講者全員にどっちが長く見えるかを聞いて回ったんだ


「ロッシャーナガッカメマス?」

「青」

「ロッシャーナガッカメマス?」

「青」


っていうやりとり×80


私としてはね、隣に座るアウトレイジをあまり刺激しないで欲しいんですよ


アウトレイジ、途中で腕時計チラッと見たあとため息ついたからね


多分これから暗殺の用事が入ってるんだと思う


絶対に遅刻できないからね暗殺って


狙撃の予定って絶対ずらせないから。今日、彼は講習済ませてからの暗殺だから。暗殺は会議とかと違ってリスケとかできないしペンディングなんて到底不可能だから。


こっちはタイムロスに対して今めっちゃ敏感な状態なのに意味不明の言葉ですべての受講者に同じ質問を投げかけるラッシャー


「ロッシャーナガッカメマス?」

「青」

「ロッシャーナガッカメマス?」

「青」



ていうかさっきから全員青って言ってる……!!!


最初の5人くらいで「全員青って言うな」ってお前以外気付いてるよ…!


「せーの!」「「青!」」で終わりだよ!!マグネットの長さどっちが長いか言わせて「実はこれ両方同じ長さなんです」っていう展開にするやつでしょ!?!?そういうのいいよ!!!


みんな答え知ってるけどたぶんお前が「青」って言ってほしいんだなって察してみんな「青」って言ってっから!!


私の心の叫びもむなしく、こちらの席へと彼は勇敢に向かってくる


「ロッシャーナガッカメマス?」

「青」

「ロッシャーナガッカメマス?」

「青」



ラッシャー……全員から青、という返事が返ってくると知りながら……

どうして、そこまでして……



ついに私たちの前へとやってくるラッシャー

彼が一歩踏み出すたびに私の心拍数は上がる

ついにその時はやってきた



「ロッシャーナガッカメマス?」

「青」

「ロッシャーナガッカメマス?」

「青」


無事に終わりました

無事に私もみんなと同じように「青」って言えました

アウトレイジも超低い声で返事してました「青」って

「殺戮」とか言わなくてよかった



全員(80人)に聞き終わり満足した様子のラッシャーも、前方の教壇へと戻る


「エーッ、アオトコテータヒトガオオカッタンスケド」(※えー、青と答えた人が多かったんですけど)


多かったじゃねえよ全員だよ


そして「こういう風に運転中にも目の錯覚が起ることがあるから気をつけてね」ということを伝えたいがために


全員に同じ質問をしたのだという


ラッシャーが天真爛漫すぎていらつく私


こちとら命握られてんだぞ……


しかし恐怖はこれで終わりではなかった



〜第二章   恐怖のプリント配布~


ラッシャーが一番前の受講者になにがしかのプリントを渡した(プリントの内容は聞き取れず不明)


プリントを受け取った受講者は隣の席の人に一枚手渡したあと、残りのプリントの束を後ろの受講者に回す


待てよ


隣の人とコミュニケーションを取らないといけないぞ??????????


この、先程からマグニチュード6くらいの揺れを引き起こしているカタギの人間かどうか定かではないアウトレイジにプリントを手渡さないといけない


やばい


殺られる………


「オンドレ何プリント手渡しとんじゃオイコラワレコラ」

「ヒイイイイイ(椅子から転げ落ち失禁)」


そのような会話ののちに着ているシャツが赤く染まるまでを想像して怯える私


プリントは順調に後ろへと回ってくる


あと三人……あと二人……


前の人がプリントの束をこちらへ差し出す


それを受け取ろうと私が手を出しかけたそのとき


なんと


アウトレイジが先に受け取った


そして、私に一枚差し出す


軽く会釈を交えながら………




トゥクトゥーン!(「ラブストーリーは突然に」の出だしの音)




アウトレイジいい人だったーー!


気遣いできる人だったーー!


ごめんこのあとの予定、暗殺とかじゃないわ。たぶんこれから犬の散歩。飼ってる犬(コーギー。名前はココア)の散歩だわ絶対。よく見ると目とかめっちゃ優しいし。


レイジ。私ね、あなたのこと、重大な違反を犯した人間だと誤解してたよ。ごめんね……


私は免許の更新を通して、人は見かけで判断してはいけないということを学んだのだった


ちなみにラッシャーの最後の一言「ありがとうございました」も「ラッシャーシタ!」でした。


おわり


《本日の一曲》
透明少女 / NUMBER GIRL



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ありがとうイン・ザ・スカイ