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『LIFESPAN 老いなき世界』は「老化」を「病気」と捉えた画期的な一冊。【要約・読書メモ】


人生100年時代の健康長寿・アクティブエイジングについて考えるために、今回は不老長寿について書かれている話題の本、デビッド・シンクレア /マシュー・D・ラプラント『LIFESPAN ライフスパン 老いなき世界』を、要約を兼ねつつ取り上げたいと思います。

この本は、「老化」を「病気」と捉えている点で、非常に画期的であるように思います。

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老化の原因と若返りの方法について研究している科学者のデビッド・シンクレア氏は、『ライフスパン LIFESPAN 老いなき世界』(東洋経済新報社)のなかで、

老化は身体の衰えをもたらす。
老化は生活の質を制限する。
老化は特定の病的異常を伴う。

といったように、「老化」を「病気」と捉えています。

そして「これだけの特長をすべて備えているのだから、1個の病気と呼ぶための基準に残らず合致しているかに思える」としています。

しかしながら、「影響を受ける人の数が多すぎ」、「一般的な病気の定義から外れているために、老化は私たちが築いてきたシステムに組み込みにくい」のだといいます。


 老化は1個の病気である。私はそう確信している。その病気は治療可能であり、私たちが生きているあいだに治せるようになると信じている。そうなれば、人間の健康に対する私たちの見方は根底からくつがえるだろう。

(デビッド・A・シンクレア『ライフスパン LIFESPAN 老いなき世界』 梶山あゆみ 訳 160頁)

 老化を病気と呼ぶのは、健康や幸福に関する一般的な見方から大きく逸脱することを意味する。それは私も認める。これまでは旧来の見方を根本に据えて、致死性の疾患に対する様々な治療法が確立されてきた。しかし、そもそもそんな枠組みになったのは、老化の原因が突き止められていなかったからという理由が大きい。だからつい最近になるまで、私たちの武器は「老化の典型的特徴」を並べたリストがせいぜいだった。「老化の情報理論」ならこの状況を変えることができる。

(同 164頁)


またデビッド・シンクレア氏は、「老化も、老化に伴う病気も、老化の「典型的特徴」が組み合わさった結果である」として、以下の特徴を挙げています。


・DNAの損傷によってゲノムが不安定になる
・染色体の末端を保護するテロメア(特徴的な反復配列をもつDNAとタンパク質からなる複合体)が短くなる
・遺伝子スイッチのオンオフを調節するエピゲノム(後出)が変化する
・タンパク質の正常な働き(これを恒常性という)が失われる
・代謝の変化によって、栄養状態の感知メカニズムがうまく調節できなくなる
・ミトコンドリアの機能が衰える
・ゾンビのような老化細胞が蓄積して健康な細胞に炎症を起こす
・幹細胞使い尽くされる
・細胞間情報伝達が異常をきたして炎症性分子がつくられる


(デビッド・A・シンクレア『ライフスパン LIFESPAN 老いなき世界』 梶山あゆみ 訳 61頁)


これらは健康長寿・アンチエイジングについての書籍などで、今まで老化の要因であるといわれてきたものです。

しかしデビッド・シンクレア氏が提唱する「老化の情報理論」で説明するならば、「一見ばらばらに思える老化の要因が矛盾なく並び立ち、1個の普遍的な生死モデルへと統合される」といいます。


若さ→DNAの損傷→ゲノムの不安定化→DNAの巻きつきと遺伝子調節(つまりエピゲノム)の混乱→細胞のアイデンティティの喪失→細胞の老化→病気→死

(同 99頁)


「老化の情報理論」とは何か?

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では、『ライフスパン』の著者がいう「老化の情報理論」とは一体何なのでしょうか?

「老化の情報理論」によると、「私たちが年をとって病気にかかりやすくなるのは、若くいるための情報を細胞が失うからだ」とデビッド・シンクレア氏は『ライフスパン』のなかで述べています。

そして、「ごく単純にいえば、老化とは情報の喪失にほかならない」としています。

ちなみに「老化の情報理論」をデビッド・シンクレア氏は1990年代のDVDプレーヤーで例えています。

「DNAは堅牢なデジタル式で情報を保存している」のですが、「エピゲノムはアナログ式であるために「雑音」が入りやすい」のです。

つまり、「情報はデジタルだが、情報をあちこち読みに行くリーダーはアナログ」なのであり、「ディスクに傷が増えすぎると、もはや情報が正確に読み取れなくなる。それが老化」であるというのです。

「老化の情報理論」によれば、私たちが年をとって病気にかかりやすくなるのは、若くいるための情報を細胞が失うからだ。DNAは堅牢なデジタル式で情報を保存しているが、エピゲノムはアナログ式であるために「雑音」が入りやすい。1990年代のDVDプレーヤーでたとえるとわかりやすい。情報はデジタルだが、情報をあちこち読みに行くリーダーはアナログだ。ディスクに傷が増えすぎると、もはや情報が正確に読み取れなくなる。それが老化だ。

(同 274頁)


ちなみに「エピゲノム」とは、「親から子へと受け継がれる特徴のうち、DNAの文字配列そのものが関わっていないものを指す」アナログ情報の総称です。

また、「DNAによらないこうした遺伝の仕組み」は、「エピジェネティクス」と呼ばれています。


 DNAはデジタル方式なので、情報の保存やコピーを確実に行うことができる。途方もない正確さで情報を繰り返し複製できる点においては、コンピューターメモリやDVD上のデジタル情報と基本的に変わらない。(中略)

 だが、体内にはもう1種類の情報が存在する。こちらはアナログ情報だ。(中略)

 今日、このアナログ情報は「エピゲノム」と総称されるのが一般的である。これは、親から子へと受け継がれる特徴のうち、DNAの文字配列そのものが関わっていないものを指す。DNAによらないこうした遺伝の仕組みを「エピジェネティクス」と呼ぶ。

(同 66頁)


「老化とは情報の喪失にほかならない」と『ライフスパン』の著者は言いますが、その「情報」とは、エピゲノム情報のことなのです。


さらに、デビッド・シンクレア氏は『ライフスパン』のなかで、「たとえ遺伝暗号がすべて解読できたとしても、私たちはけっして見つけられないものが1つある」として、「老化遺伝子」を挙げています。


「老化の症状に影響する遺伝子ならすでに見つかっている。また、老化を防ぐシステムを制御する長寿遺伝子も突き止められている」のですが、老化遺伝子が見つからない理由は「私たちの遺伝子が老化を引き起こすために進化を遂げたのではないからである」といいます。


反対に、長寿遺伝子は地球上のあらゆる生物に見つかるといいます。

 私たちのDNAは絶えず攻撃にさらされている。平均すると、細胞が自らのDNAを複製するたびに、46本ある染色体のそれぞれが何らかのかたちで損傷する。これが積もり積もれば、1日に2兆回あまりDNAを傷つけていることになる。おまけにこれは複製の最中に起きる損傷だけだ。このほか、自然放射線や環境中の化学物質、レントゲンやCTスキャンなどによってもDNAはダメージを受ける。

 DNAを修復する仕組みが体内に備わっていなかったら、とうてい長くは生きられない。だからこそ遠い昔に、あらゆる生物の祖先となる原初の生命が仕組その仕組みを進化させた。つまり、DNAの損傷を感知し、細胞の増殖を遅らせ、DNAの損傷が治るまではその修復にエネルギーを振り向ける仕組みである。私が「サバイバル回路」と呼ぶものだ。

(同 104頁)

地球上のあらゆる生命にほぼ同じ長寿遺伝子が見つかるというのは、驚くべきことである。樹木も酵母も、線虫もクジラも、そして人間もだ。現存するすべての生き物の系統を遡れば、原初の地球に存在した同一の生命に行き着く。顕微鏡を覗けばわかるように、私たちはどれも同じ物質でできている。同じサバイバル回路を共有し、その防御ネットワークが細胞を守って、厳しい時期にも私たちを助けてくれている。しかし、このネットワークはマイナスにも働く。DNAが損傷するような深刻なダメージは避けがたいものであるため、サバイバル回路が酷使され、細胞のアイデンティティを変えてしまうのだ。私たちはエピゲノムの雑音から逃れることができず、それが老化の原因となる。「老化の情報理論」で行けばそういうことになる。

(同 124‐125頁)


そして長寿遺伝子としてよく知られているのが「サーチュイン」であり、このサーチュインは、DNAの修復に関わっています。


 サーチュインはエピジェネティクス的な調節機能においてきわめて重要な役割を担っている。細胞を制御するシステムの最上流に位置して、私たちの生殖とDNA修復を調節しているのだ。酵母の体内に初めて現れてからおよそ10億年が経過するうちに、サーチュインは私たちの健康や体力、そして生存そのものを司るように進化してきた。

(同 72頁)

ちなみに長寿遺伝子を働かせるには、「原初のサバイバル回路を始動させることが肝心」であるとしていますが、このあたりのことは次回のnoteで述べています。


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今回は、デビッド・シンクレア /マシュー・D・ラプラント『LIFESPAN ライフスパン 老いなき世界』(梶山あゆみ 訳 東洋経済新報社)を取り上げました。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます(^^♪




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