見出し画像

コトノハぽんぽん#3「曇り」「ねむり」「ネムリ」「友だち」

曇り、と聞くと、のち晴れ、と続けたくなる。眼鏡の、右側だけが曇っていて見えない。私から見て右側であるから、誰かから見れば左側である。考え事をしながら歩いていたのは、ほとんど曇り空の下、やや思い出したかのような小雨がちらほら、降ってきていたけれど、気にならなかった。考え事を運んでいるとき、誰かの足音が気になった。その人は私にしてみればひどく早足に感じられて、事実私のことを、あっさり追い越していった。道の脇に、猫の類はいなかった。虫はいたかもしれないけれど、私には見つけることができなかった。空が曇っていると、いいこともあって、それは思ったほどの寒さにならないことだ。想定をふんわり鈍らせてくれる。ただ肝心の考え事のほうも、行き着かないまま移動が終わってしまったりするのだけれど。


ねむりという音には、やわらかい印象がある。何か全然関係のない、もしかしたら深刻なもののことを、「ねむりはさぁ、なかなか手強いよねぇ」なんて呼んでみたい気もする。「いつもねむり持ち歩いてんだけどさあ、あれ案外おもいんだよねぇ」とか。……意外と意味が通じたりして、ちょっと怖くなる。


ネムリだと、どうだろう。なんだか童話っぽい。宮沢賢治さんの描いた童話を思い出す。読むと、大きなどこかにつながってしまうとてもつよい物語。するするとは読めない、異様な濃厚さ、情報、情景の、量。いや、もう量とも言えないくらいの、壮大さ。


友だち。もう会えなくなった、大切だった友だち。大切にできてなかった。いろんなことの素敵を教えてくれた。彼はある時期のぼくにとって光であり、憧れであり、寄りかかることのできる都合のいい親切なひとだった。寄りかかることのできる都合のいい親切なひとなんて、ほんとうはいないのに。ただ心がけてくれていただけだったのに。

最後に会ったときの別れ際、玄関で、笑ってなかった彼の顔を今でも思い出す。涙でまえが見えなくなるくらい、笑っていたときの顔といっしょに。





この記事が参加している募集