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[書評]数少ない「グローバル・ブランディング」の教科書

今回は国内外の著名ブランドを手掛けたブランディングのプロたち、そしてブランディング研究者によるグローバル・ブランディングの本を紹介したいと思います。


グローバル・ブランディング -モノづくりからブランドづくりへ

工業立国ニッポンも今は昔。

かつて世界を制覇した日本製品は、アジアの新興国企業にキャッチアップされ、グローバル市場での日本発ブランドの地位は低下しているのが実情です。日本製品は、「製品(品質)で勝っているが、ブランドで負けている」と言われることも。

せっかく素晴らしい製品をつくっても、それを顧客にとって魅力的なブランドとなるように伝えてブランディングしなければ、グローバル市場での競争に勝つことは難しくなってきました。

本書『グローバル・ブランディング -モノづくりからブランドづくりへ』は日本企業のグローバル市場におけるブランド戦略を、編者である青山学院大学大学院教授の松浦祥子さんを中心に、国内外の著名ブランドを手掛けたブランディングのプロ計5名が、真のブランド戦略とは何かを示す内容になっています。

編者の松浦さんは冒頭で、このように書き綴っています。

本書の目的は、グローバル市場で勝てるブランドをつくるためのブランド戦略を提示し、企業がグローバル市場で強いブランドをつくるための方法についての示唆を提供することである。

冒頭から熱い想いと高い志が感じられますが、その言葉が示すとおり、日本企業がグローバル市場でブランド力を発揮するためのメソッドを、松浦さんはじめブランディングのプロフェッショナルたちが余すことなく書き記しています。


資生堂を1兆円企業に押し上げたグローバルブランド『SHISEIDO』

もともと日本企業において、ブランドおよびブランディングの重要性は軽視されがちで、強く認識する経営者が増えてきたのは1990年代半ば以降だったといいます。

ネスレやP&Gのようなマーケティングを重視する欧米の消費財企業では、ずっと以前からブランドの育成と強化は経営の最重要課題とされてきました。それに比べると、意識の違いはまるで子どもと大人ほどの開きがあります。

その中で日本企業でブランド戦略に注力してグローバルに成功した事例として、資生堂が取り上げられています。

資生堂は、2012年に創業140年を迎えた老舗企業。同社の海外事業は、アジアへの進出が最も古く1929年の台湾への進出に始まります。しかし意外なことに、グローバル化へのロードマップは2008年に始まったそうです。そこには、国内市場での売上が伸び悩んでいる中で、成長の機会を海外に求めたという背景があります。

資生堂は2008年、「日本をオリジンとし、アジアを代表するグローバルプレイヤー」になることを目標に掲げ、目標達成に向けた今後10年のロードマップを策定しました。

このグローバル化のロードマップは3つのフェーズに分かれています。2008年スタートの第1フェーズの目標は「全ての質を高める」。2011年からの第2フェーズは「成長軌道に乗る」、2014年からの第3フェーズ「躍進を果たす」。

その成果は明白で、「SHISEIDO」は世界市場に見事進出し、2011年には世界の化粧品会社の中で第5位のグローバル企業となりました。売上のインパクトも凄まじく、2008年度の売上約7,000億円から右肩上がりを続け、2017年度には1兆51億円にまで伸長しています。

いまや資生堂=グローバルブランド企業ということに異論をはさむ者はいないでしょう。10年の取り組みでグローバルブランド「SHISEIDO」を形成することに成功し、圧倒的な売上向上を果たしたのです。

本書ではページ数はそれほど多くありませんが、資生堂のグローバルブランドのブランド戦略がどのように進められ、なぜ成功することができたのかを多角的かつ事実となるデータに基づいて紹介されています。

たとえば、資生堂はグローバルブランド「SHISEIDO」を新たにブランディングする際、「Made In Japan」であること、つまり日本発のブランドであることを明確に打ち出し、日本らしさをブランドの随所に込めました。

ブランドのコアバリューも「リッチ/ヒューマンサイエンス/おもてなし」の3つを新しく策定。

資生堂が培ってきた強みである品質の高さや美意識(RICH)、

化粧品を皮膚と心と体にアプローチするものと考え、東洋思想に基づいて「美」を探究する姿勢(HUMAN SCIENCE)、

そして、イマジネーションを持ってお客様に心を働かせる日本独自のおもてなし精神(OMOTENASHI)。

特にOMOTENASHIは「HOSPITALITY」と訳さずにそのままローマ字で表記し、ブランドブックやマニュアルなどを通じて世界中の従業員に資生堂のおもてなし精神を伝えていったことは、グローバルブランドを確立する上で非常に重要なポイントとなりました。

他にも製品ラインや販売チャネル、ブランドコミュニケーション、広告、店舗設計、Web/SNS戦略、キャンペーンなど、さまざまな視点で資生堂のグローバル・ブランディングを鮮やかに解き明かしているので、本章は特におすすめです!


貴重なBtoB企業のグローバル・ブランディング事例

第5章で書かれたBtoB企業のグローバル・ブランディングの現状と課題、そして事例も必見です。

一般的に、BtoB企業はブランド戦略が不得手で難易度も高いとされています。しかし、その中でもTDK、村田製作所、コマツなど一部の日本企業は海外売上比率が高く、グローバル・ブランディングにも成功しています。

彼らはどのようにして、グローバル展開に成功したのか。その事例を取り上げ、我々が学ぶべき点が記されています。

海外売上比率が高い企業のデータは非常に頼もしく、成功企業の事例はマーケティングやブランド戦略の糸口が見えないBtoB企業の方々にとって、非常に参考になるのではないかと思いました。

具体的にはコマツや東レの成功例が詳しく紹介されています。詳細はぜひ本書を手にとっていただきたいのですが、当時から5年以上が経ったいま、取り上げられた企業がどのように成長したのか、さらなる成果の続編も読んでみたいと思わせるものでした。

「THE・グローバル・ブランディングの教科書」と言っていいほど、読み応えがあって本格的に学べる本書。世界で戦うためのブランド戦略についてここまで仔細にまとめられている本は珍しいと思うので、是非おすすめです!


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