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【文章作成の基本】読み手を想定することは大事!

 高校生の志望理由書や小論文を読んでいてよく見かけるのは、読み手が考慮されていない答案です。そういう答案を見ると、それは誰に対して書いているのかな、と問いたくなります。

 ある学生の志望理由書で、こうした内容がありました。「先日貴学のオープンキャンパスに行った、すると学内がおしゃれできれいで気に入った、学内にはカフェもある、聞けば新築の学舎だとか、しかも駅から徒歩5分で通いやすい、こうした魅力のある貴学に入りたい」と。たしかに、志望理由書で志望先の魅力を挙げるのは、セオリー通りです。その限りでは、この内容は間違えていません。しかし、これを読んだら、オープンキャンパスを企画した教務スタッフや講師はさぞかしがっかりするだろうなぁ…と私はそのとき思いました。

 どこの大学や専門学校でも、学生たちに「自分が勉学に励む場としてうちを選んで欲しい(志望して欲しい)」と考えています。そのために、教務スタッフは、「高校生が来たくなって、かつ高校生にうちの大学のよさが知ってもらえるようなオープンキャンパスは何だろう?」と考えてそれを企画し、講師は「高校生が興味を持つ学術テーマは何だろうか?」と考えて模擬講義の準備をするわけです。しかし、こうした志望理由を見たら、もし私がこの大学の講師なら、がっくりと肩を落とします。「ああ、この学生に響いたのは『キャンパスが新しくておしゃれで、通学に便利』なだけか」と。建物の真新しさと通学の利便性のみ。これは大学そのものの「学び舎」としてのよさではありません。せっかく高校生が「この大学で学びたい」と思うような講義ができたと思っていたのに、何もこの子の記憶には残らなかったのかと、私が大学関係者や講師で読み手なら、この志望理由書にがっかりします。

 しかし、当の書いた学生は、よもや相手(読み手)からそう思われているとは考えていないでしょう。むしろ、高校の先生に習った通り、自分が魅力的だと感じとった志望先大学の特色を素直に挙げただけ、といったところでしょうか。しかし、この学生は、自分の文章がどこの誰に読まれるのか全く想定できていないため、結果「残念な志望理由書」になってしまっています。

 また、こんな小論文の答案を目にしたこともあります。テーマは「高齢社会」です。「日本はいまや超高齢社会になりつつある、若者に比べ高齢者が増えて若者には多くの負担がかかってくる、現に高齢者の医療費や年金のために増税する必要があると言われている、解決するには若者を増やし高齢者が減ることが必要だ、そのためには高齢者にかかる増大する医療費に上限を設けるべきだろう…」と。

 なるほど、それで増大する医療費は抑えられるかもしれません。理屈はわかります。しかし、これを書いた学生には、そもそもこの文章答案を読む人がどんな人なのか、考えてみて欲しいです。おそらく、採点や評価をする人は大学の講師などですから、私と同じかそれ以上の年齢の人、40代から60代でしょう。若いとは言えません。いわゆる中年、更年期障害や生活習慣病に悩まされる、そんな「お年頃」の方々ですよね。その人たちがこの文章を読んで、「なるほど!それは名案ですね!」と納得するわけがありません。むしろ読み手は「勘弁してよ……」と苦笑するでしょう。「医療費に上限を設けて、一人当たり年間これしか医療にお金はかけてはいけないと決められた社会」なんて、これから健康不安に苛まれることが多くなる年代の読み手からしたら、もう地獄でしかありませんね(笑)。(表面的には)論理整合性はあっても、こんな実現可能性がない意見は到底受け入れられないと、中高年の私が読み手なら、思います。当然高い評価は望めない、「残念な小論文」です。

 なぜ、どちらも残念な結果になってしまったのか、それはどちらも、読み手を想定していないからです。どんな人が読むのか、またはどんな人に読んで欲しいのか、あらかじめ想定して書かないと、読み手から評価される文章とはなりません。ですから、私はよく、学生に指導するときには、「その小論文や志望理由書を読む人は、君たちのお父さん、お母さんくらいの年齢の人で、大学関係者だよ」と言っています。それを想定すると、どういう内容が読み手に許容されて、またどういう内容が読み手に評価されるか、想像がつくはずです。

 将来は芸能事務所に就職して芸能人のマネージメントをしたいという学生で、志望理由書の中で、自分の好きなアイドルについて事細かに語っていた人がいました。しかし読み手であるほとんどの「中高年のオジサン、オバサン」は、そのアイドルについて、残念ながら知らないはずです。あるいはおそらく知っていたとしても、朝のワイドショーで報道される程度の知識しかないと推測できます。したがって、そんな読み手に自分の好きなアイドルについての愛を熱弁したところで、「へぇ……(ていうかそのアイドルって誰?)」となるのが落ちです。この志望理由書も、読み手にとって説得力のある内容になっていると言えません。これも読み手が想定できていない、残念な例です。

 これは私よりもWebライターの方の方が詳しいことかもしれませんが、マーケティングの世界には、「ターゲット」と「ペルソナ」という考え方があります。「ターゲット」とはどういう年齢層か、どういう性別かなど、その読み手が属する大きなカテゴリーを意味します。テレビ番組などは、「これは20代の女性をターゲットにしたドラマ番組」など、そうした考えの下で制作されています。たとえば先ほどのアイドルの話なら、その学生と同じ10代の子ならまだ伝わる内容なのかもしれませんね。年齢層や性別、生活圏によって背景とするカルチャーが違うため、その読み手の属するカテゴリーの背景にあるカルチャーを、書き手は考えて文章を作成する必要があります。一方「ペルソナ」はその読み手個人の特性です。たとえば手前みそですが、私のこの記事なら、「ターゲット」は「10代の中高生」を想定していますが、「ペルソナ」は「小論文や作文が入試で課される学生、小論文作成に疑問を抱いている学生」や「推薦型選抜などで志望理由書を書く必要がある学生、志望理由書の書き方に困っている学生」を想定しています。一方、私の他の記事(コラムやエッセイ)などは、「自分と同世代もしくはその下の世代で、仕事の息抜きなどに、自分と同じようにnoteで『面白い記事ないかなぁ』と探して読んでいる人」を想定して書いています。文章は、読み手の「ターゲット」と「ペルソナ」を考えて、作成するべきです。

 以前も別の記事で書きましたが、文章は「読み手のために書くもの」であり、この意識が希薄であると、読み手に伝わりづらい文章になります。これは当然、受験の小論文や志望理由書においても同じです。どんな人が読むのか、その読み手を想定し、その人に自分の考えを届けるつもりで、小論文や志望理由書は作成しましょう。

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