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私の実習 高齢者精神疾患外来兼自宅訪問チーム

ウプサラ大学病院は、最先端医療や急性期医療の場所でもありますが、高齢者への地域医療も担っています。

特に、高齢者医療については、日本では珍しい「高齢疾患内科急性期病棟」、大腿骨骨折後の「高齢者リハビリ病棟」、や認知症検査と在宅リハビリを専門とする「高齢疾患外来、医療と介護の間をつなぐ「身近ケア病棟」、「高齢者精神疾患外来兼訪問チーム」、また、病院内の患者さんだけでなく、施設、在宅の人の終末期ケアをサポートする「ターミナル期ケア専門外来、コンサルタントチーム」、「高齢者疾患対応の在宅訪問チーム」があります。

私は大学院の 専門看護師の実習を 
「高齢者精神疾患外来兼自宅訪問チーム」でさせてもらうことにしました。

この実習は春に80時間、秋に100時間行うもので、専門看護師が指導者となって受け入れてくれる高齢者医療を行っている事業所を自ら探さなくてはなりません。

始めは、去年から始まったかかりつけ医診療所での「高齢者外来」を行っている専門看護師を探したのですが、ウプサラ大学には医学部も看護学部もあり、その学生が診療所実習に割り当てられるため、現場看護師がそれ以上の学生を受け入れられないと言われ、実習場所が見つかりませんでした。

それならば、認知症の方でBPSDの症状コントロールが難しい方へのコンサルタントしてくださる、普段からよく連絡の取っているところで学ぼうと思い高齢者精神疾患外来兼訪問チームに問い合わせると、快く引き受けてくださいました。

今回は、この高齢者精神疾患外来兼自宅訪問チームの仕事についてお話しします。

この外来兼自宅訪問の部署では、上級の専門医が3名と専門医1名と、専門医をとっている最中の医師1名と、精神疾患専門看護師が8名と精神科カウンセラーが2名が患者さんに応じてチームを組みながら仕事をしています。

朝は8時半から、家庭医や、他の科からの「精神科の専門家のご意見ご協力求ム」という内容のデジタルお手紙を、部署スタッフ全員で検討していきます。

多くの場合は、家庭医からで重度のアルコールや薬物依存の患者さんの治療や、認知症で暴力的になってしまったり、せん妄がひどく生活が困難な場合の患者さんについての検討です。

お手紙は、患者さんの病状、各種検査結果はもちろん、社会背景、これまでの治療、どのような福祉資源が入っているか、どんな結果を期待して、どのような協力を求めているのか明確に書かれていると、検討は比較的スムーズに行きます。

しかし、精神科の患者さんの検査や治療に慣れていないとみられる医師からのお手紙や、明らかに丸投げで、専門医に見てほしいというお手紙も中にはあります。

また、高齢者施設の担当医からのお手紙では、看護師からの情報が不足していたり、個別的ケアがしっかりなされていないで、薬物治療を依頼してくる場合もあり、医師、看護師、カウンセラーそれぞれの視点で、お手紙の内容を確認して、

「これは検査や治療についてのアドバイスを電話でしよう」「専門医と専門看護師で患者さんに会いにいってから決めよう」「患者さんをよく診察してからもう一度お手紙ください」など、

様々な対応を取ります。

送っている医師は、こんなに多くのスタッフで確認されてるとは知らないだろうな、、、とお手紙を上級専門医が一通ずつ読み上げてるのを聞きつつ思いました。

毎日30分ほどのお手紙対応時間ではあるものの、外科のオペ前回診のような、全てのスタッフの知恵を集めた最善の治療やケアのための時間であることは間違いありません。

その後、9時から30分ほどはリラックスして、コーヒータイムです。
スウェーデンではこれをフィーカと呼び、職場での大事な時間です。

上級専門医も、実習生の私も職種や経歴はまったく関係なく、みんな話をします。基本的に仕事の話ではなく、プライベートの話をして気分転換をします。

その後、医師と看護師、時々カウンセラーが一緒に、患者さんの自宅へ訪問に行きます。病院から近いと歩いていきますが、多くの場合車でいきます。

この外来兼自宅訪問チームは県に1つしかないため、最も遠いと片道1時間ちょっとかかる場合もあります。

移動の車の中では、前回も訪問についてや、今回重点的に聞くことなど、治療についての相談をします。

自宅訪問では、精神的な健康状況だけでなく、どのように生活しているのか、どのような社会資源がどのように機能しているのか、していないのか、などあらゆる情報を各職種の視点で集めていきます。

医師も薬のことだけでなく、睡眠、食欲、活動、社会参加など多面的に患者さんのことを知るでのそれらの情報で、どのような看護ケアが必要で、薬剤治療ではなく、ケアで症状が改善する方法はないのか、考え提案していきます。

自宅を見ると、病院で患者さんに会うよりも多くの情報が一度に得られます。その分、多くの課題に対して丁寧に分析を行い、ケアの提案やプランを立てていくのは、少し瞬発力のようなものを必要とするな、と感じることもありました。

また、看護師としての役割と、有用なケアをチームの中でもしっかり示すことができないと、看護師である私のいる意味がなくなるような気がして、ケアについて、とても深く考えることができた実習期間になりました。

自宅を訪問して、患者さんからお話しを聞き、今後の治療について検討し、治療について説明する時間は約1時間から1時間半かかります。

少なくとも2人の専門スタッフがこれだけゆっくりと患者さんに向き合えるのは素晴らしいことだと思います。

精神疾患を抱えた方は、病院にくることすら難しく、適切な治療を受けられない可能性の高い患者グループです。自宅訪問によって、安心して医療に繋がれることは、精神科医療では大切なことです。

午後は病院の外来へ来ることのできる患者さんとの面談です。

多くの医師は、個々の体調についてだけでなく、薬剤による副作用チェックリストや、うつ病の自己採点型の評価シートなどの評価表を使いながら、視覚的にも患者さんにわかる形で、共に治療を勧めていくという姿勢をみせています。

また、強い不安が襲ってきた時には、どのように自分なりに対処しているのかなど、対話を大事にした面談を行います。

患者さんや家族が、同じような疾患を持つひとの繋がりが必要だと判断した場合には、そのような患者グループを紹介したり、社会的に孤立している人には、街の教会が開いているカフェの情報を伝えます。

高齢者で精神疾患のある方は、治すことを目標に治療するのではなく、いかに病気とうまく付き合いながら生きていくことが目標です。

例えば躁うつ病の患者であれば、そう状態も、うつ状態もひどくならないような、緩やかな波の中で生活できるように医療的支援をしていきます。

高齢者に特化した精神科ではありつつも、高齢者一人一人の全てについてわかろうとし、より意味のある生活、より質の高い生活が送れるようにケアしているチームでの仕事はとても素晴らしく、学ぶことばかりの実習期間です。

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