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スウェーデン人の考える高齢者の生活環境

スウェーデンの冬は長く、暗い時間も長いので人々は屋内で過ごす時間がおおく、少しでも居心地のよい環境を大事にして、ある統計では自宅の環境を整えるための費用が収入の30%近くにおよび、食費よりも高い値になっています。


家の外にでることが簡単でない高齢者にとっては、室内の環境はより大切になってきます。

これまで家族や自分の大切にしたものが詰まった場所が家であり、スウェーデン人の友人は、どんな素敵なホテルよりも自宅がくつろぐ場所だといいます。

高齢者が認知症を患い自宅に住むことが困難になり、高齢者住宅に移ることになったときには、とくにその高齢者の暮らす環境には配慮しなくてはなりません。適応力が低下している認知症の方は、新しい環境に適応することがとても難しいのです。高齢者にとって「自宅のような」住居というのが新しい場所でも求められるのです。(Wijk, 2014).
 
私の担当のインゲルさんの部屋にはいると、壁にはインゲルさんの両親の結婚式の写真、家族みんなで写っているもの、孫たちの写真とインゲルさんの親族と、歴史がわかるほどの写真12枚も飾られています。「高齢者住宅に移ってきたときに、大切な写真を選んで壁にかけたのよ。自分の家にはもっともっとたくさん写真を飾っていたけどね。」と。

エリザベスさんの部屋には、大きな少女の絵が描けてあります。「すてきな絵ですね。」と言うと、「これ私が初めてのモデルをしたものなの。私が初めてお金を稼いだ時でもあるわけ。自分の稼いだお金で、チョコレートを買いに行ったわ。」と。

レイフさんの部屋にはいくつかのアンティーク家具と、たくさんのレコード、そして棚にはウイスキーのボトルが並んでいます。普段は、CDでジャズを聴いていますが時々夜に、ウイスキーとちょっぴり飲みつつレコードのジャケットを眺めて過ごしています。
 
ケアスタッフは環境を作る「光、音、色」について知り、適切なものを提供することにより高齢者が穏やかに過ごせる空間を作り出すことができます。

「光」は、できるだけ日中は窓越し、カーテン越しの太陽からの自然光を利用し、明るい環境で過ごすことが脳の働きを活発にさせ、夜の睡眠をよいものにします。しかし、季節や天気によっても光は変わるので、スウェーデンの11月から1月は日中数時間しか日がでないので、室内の適切な照明を考えなければなりません。

例えば、食卓を照らすものは、食事がよく見えるために、天井から下向きに照らされたもので、食べ物がおいしく見える色合いのものを選びます。

くつろぐ空間であるデイルームは間接照明、ベッドサイドの照明は、各高齢者の目の状態、例えば緑内障や白内障の視界の状態に合わせて選び、夜間の足元の照明は、睡眠を邪魔せず、安全にトイレまで行けるよう工夫します。(Wijk, 2014).

スウェーデン人は、薄暗い部屋にろうそくの光が灯っている風景をとても「落ち着く」「リラックスする」といいます。

一日中明るく活動的になる夏から、暗くなり家にこもってろうそくを灯しつつ、家族や友人とのんびりお茶を楽しむのが秋から冬です。
日本での、こたつにはいって、みかんでも食べながらのんびりする、感じといったところでしょうか。なので、高齢者施設では、酸素吸入をしている人がいなければろうそくを灯すことがよくあります。
 
次に「色」。部屋の配色は、もちろん各個人の好みによりますが、認知症高齢者にとってわかりやすい配色を生活空間にとりいれることにより、自分でできることが増えることや、混乱を減らすことができます。

例えば、ドアと壁の色を変えて、さらにドアノブをわかりやすい色にして、コントラストをつければ、自分でドアを開けることができるかもしれません。また、赤という色は、認知症の方にとって一番注意を引く色なので、トイレのマークを赤で表示すると迷わずにトイレへ行きやすくなるという研究結果もあります。

どこでも同じ色、同じマークでトイレが表示されていれば、認知症の人もトイレが見つけやすくなります。また、便器と便座の色を変えることにより、座る場所がよくわかります。

分かりやすい配色だけでなく、そして季節を感じる色を風景に取り入れるのも、日々の生活に彩を加え、自宅の様な環境を作ることができ、認知症を患う人に安心感を提供することができます。(Wijk, 2014)

スウェーデンでは、クリスマスには、赤のろうそくや、カーテン。イースターが近づくと黄色い小物を飾り、夏には涼しげな青い色を配色します。
 
そして「音」。高齢者施設、高齢者の入院する病棟は、生活の場であり、スタッフが仕事をする場です。音について大事なのは、仕事に伴う音をできるだけ押されることです。

ナースコース、ドアの開け閉め、カートの動く音など、スタッフにとっては当たり前で仕方ない音かもしれませんが、認知症を患った人には不安を引き起す原因になることもあります。

スタッフは、静かに高齢者の隣に座り、その環境が穏やかな気持ちを保てる音かを考えた方がいいでしょう。
特に、食事をする場所は、テレビやラジオがついていると、食事に集中することができませんし、たくさんの人がいると、音も大きくなり落ち着いて食事ができません。テレビは付けず、できるだけ少人数の食卓でゆっくりと食事ができるよう環境を整えることは大切なことです。
食事の介助をする人は、その人も環の一つとなります。必ず隣に座り、落ち着いて介助をしなければ介助される高齢者にとってよい食事環境とはいえません。(Wijk, 2014).

次の段階として、穏やかな音、音楽を有効に利用することを考えます。高齢者施設に暮らすマヤさんは、朝起きてすぐに着替えると混乱を起こしていました。娘さんから話を聞き、自宅では長年朝はのんびり音楽を聴いていたことを知り、毎朝7時半にお気に入りのクラシックを流して、カーテン少し開け8時から着替えを手伝うことにしました。このルーチンを重ねるごとに、朝の混乱は減り穏やかに過ごせるようになりました。


また、マッサージをする時に音楽を流すことでさらに更にリラックスを感じる人もいます。しかし、音楽は個人の嗜好に違いがありますし、音が鳴ることで混乱を起こす人もいますから、音楽望む場合に、適切な場所で利用するよう注意しています。
 
環境は認知症を患った人へ良くも悪くも影響します。建物の構造を変えるのは時間、費用のかかることですが「光、色、音」といった環境要素はそこで暮らす人々にあわせてスタッフが改善させやすいものです。

スタッフのお茶の時間にはよく「次はあの隅の空間にくつろげるような椅子を置いて、カーテンも明るい色に変えたらどうかしら。」と楽しそうに相談しています。


入居者よって「穏やかな暮らし」は、働くスタッフにとっても仕事のしやすい環境だと思います。普段からもっと環境に目を向け、できることから少しずつ変えていくと居心地のよい場所ができると思います。
 
参考文献:
Wijk, H. (Red.). (2014). Vårdmiljöns betydelse. Lund: Studentlitteratur AB. 

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