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古代エジプト人は、猫の死で眉を剃り・犬の死で全身の毛を剃った。

ぬす古代エジプトの人々にとっても、ペットは、非常に重要な存在だった。今回は、その具体的な話を書く。

古代エジプト人がペットにしたのは、犬猫だけではなかった。猿・鳥・ワニ・カバ・ガゼル・ライオン・羊・魚……さまざまな動物を飼った。すごいバリエーション。

彼ら彼女らは、この世の続きである次の世界に、あらゆるものを「もっていく」ことができると信じていた。どうしたかと言うと。主人が亡くなった時は、一緒に棺に “入れた” のだ。ペットを殺してるだけーー私たちの感覚では、こう思うだろう。しかし、考え方が根っこから違うのだ。それで想像すると、本当に愛していたからこそ、「次の場所」でも一緒に暮らしたかったのだろう。

これが嘘でないことは、続きを読めばわかる。


そんなエジプトで、一番人気のペットは何だったのか。答えは

ほとんどの家庭が、多頭飼いで猫を飼っていた。理由は、女神バステトとの関係で好まれていた・害虫駆除をしてくれるから・手間がかからないなど。※より手間のかかる犬は、よゆうのある上流階級で、飼われていた。

猫の輸出は、かたく禁じられていた。この問題専用の政府部署があった。密輸された猫がいれば、返還しようと、政府職員が他国まで行った。おうちにかえしてあげなきゃ!

猫の姿をしたバステト神

エジプトの都市ギーザで発掘された動物のミイラの中で、一番多かったのは、アフリカヤマネコ。次に、ジャングルキャット。

アフリカヤマネコ / リビアネコ
ジャングルキャット

古代エジプトのの品種は、バセンジー・グレイハウンド・イビザン・サルーキ・ウィペットなどであった。(以下画像)

ウィペット
サルーキ
イビザン
バセンジー
このメンツの中では脚長じゃない

みんな細くて脚が長い。世界最古の犬種の1つであるバセンジーが、アヌビス神のモデルだと考えられている(諸説ある)。飼い主たちは、犬が亡くなると、高い費用をかけてミイラ化させていた。ミイラ化は、丁寧な扱い・丁重な埋葬。犬専用の特別な墓地もあった。

※前段で書いたように、猫のミイラもたくさん見つかっているのだから、身分の高い人たちも猫を飼っていたことだけでなく、一般家庭が頑張って猫のミイラ化費用を出していたことが、うかがえる。

アヌビス神の像
アヌビスの母はバステト説=犬の親は猫説がある。
「〇〇の姿をした神」だから成立するのだろう。
犬のミイラ

「飼い猫が死んだ家の住人は皆、眉毛を剃り、飼い犬が死んだ時は、頭を含む全身の毛を剃る」

歴史の父ヘロドトスが、こう記している。

シラミを防ぐため、男女共に頭を剃りあげている場合も多かったため、頭髪では判別できなかった。だが、眉毛でわかった。眉毛までない人を見ると、最近ペットが亡くなった人だとわかったと。私たちで言う、喪にふくすような意味あいかと。

壁画には、多種多様なペットが描かれている。現代の私たちが、古代の個々人が飼っていた犬の名前を知れるだなんて、すごいことだ。飼い犬の名前が描かれたり掘られたりしているから、知ることができるのだ。勇敢な者、北の風などの名だった。毛色にちなんだ名前や、数字系の名前もあった。要するに、クロやジロウだ。


動物のために、文字通り、国を犠牲にした。

紀元前525年、ペルシャがエジプトに侵攻した。エジプト人が大の動物好きであることを知っていて、兵士の盾にバステト(猫の神)を描き、戦の前線に犬猫を並べた。エジプト人は降伏した。

動物愛から国を敵に明け渡したエジプト人を、ペルシャ人は大いにバカにしたが、そもそも、エジプトで猫を殺した場合、死刑だった。

他にも。猫を殺したローマ人を民衆がリンチ。怒りの騒ぎは、王がおさめようとしても、止まらなかったそう。


ハヤブサ
ハヤブサは、天空の神ホルスの力を象徴。王は、犬猫以外に、ハヤブサも飼った。下層階級が飼うには、高貴すぎるペットだった。

ワニ
神殿でも飼われていた。

ワニのミイラ(頭部のみ)


ある身分の高い女性の墓から見つかったのは、最初、赤ん坊のミイラだと思われていた。だが、1960年代にX線検査が行われ、猿だとわかった。

ガゼル
ガゼルも、ペットとして一般的だった。ガゼル専用の棺があった。


これは、木彫りの魚のレリーフではなく、魚の棺だ。なぜわかるか。魚のミイラが、中に入っていたからだ。


ここまで書いてきたことと、矛盾するのだが、以下のことも事実である。

・研究から、初期のエジプト人は、ペットに暴力をふるうこともあったと判明。たとえば、ヒヒに確認された、指の特徴的な曲がり。頭部をはたかれるのを自衛してできたと、推測されるそうだ。他には、叩いたりではないが、鎖から逃れようとしてできたと思われる、カバの足の傷跡など。

・そういった痕跡は、後になるほど、減る。後世の猿のミイラには、全く見られない。「動物を管理する方法」を学んでいったようだ。

古代エジプト人、オリに入れっぱなしにはしなかったはず。カバやライオンを放し飼いできる、広いスペースを用意したのだろうか。そうでないなら、鎖なしで、猛獣を散歩させていたことになる(?)。すごい。おもしろい。

危険な動物を飼いたがったのには、愛以外の理由もあった。力の表現ができたのだ。たとえばカバの場合、飼い主は、「自然界の混沌とした力を制御している」ことが表せる。ワニも同様だ。


エジプトの遺跡を研究する、ある学者の言葉

「……部屋に入り、そこは非常に暑かった。普通の大きさの黄色い犬が、短い尾を背中に巻き、目を開いて両足で立っているのをすぐ近くで見て、びっくりした。彼の鼻から数インチのところに、まったく完璧な状態の猿が座っていた。一瞬、彼らは生きているのかと思ったが、すぐにミイラだとわかった。……」

彼ら彼女らは信じていた。死は一時的な別れにすぎず、必ず、友人たちと再会できると。