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不気味と恐怖の間にあるカラクリ

生物は、脅威となり得る環境を避けようとする。そうすることで、生存確率を上げようとする。

それ(環境嗜好が遺伝子の支配下にあること)は、ヒトも例外ではないのだが、人間はそれだけではない。我々は、もう少しだけ、おもしろい生物なのである。


キライを避けることから発生するスキがある。

魅力的な場所となる2つの特徴
①危険から身を守れる状態であること
②周囲の様子を知れる状態であること

子供たちは、隠れ家遊びが好きだ。大人たちは、飲食店や公共交通機関で端にある席を好む。

我々が求めるのは、いわば、「見られることなく見ることができ 食べられることなく食べることができる 空間」なのである。


しかし、危険ではないと確信をもてる場所でなら、人間は、ある程度の不安を楽しむこともできる。(=ハラハラドキドキ)

ちょうど、テーマパークにある迷路などといったものが、それに当てはまる。探索によって情報を集め解決していくことで、状況を改善することができるケース。

このような「ミステリー」の戦略的使用は、実は、日本庭園に効果的に用いられているという。

石川県の武家屋敷跡・野村家

木々の中を行くよう小道が設けられていたり、水上を飛び石で渡るようになっていたり、東屋があったりすること…これは隠れ家か…をさしているのだと、推測。

「神秘性」(不思議な感じはするが不快ではない)は、人間にとって、環境の魅力を高めるものだということが確認されている。


話を元に戻す。リアルな危険性を伴うと、または、それを想像させすぎると、場や環境の魅力はとたんに低下する。そんな絶妙なあんばいこそ、おもしろいところなのだ。

具体例の前に確認しておくと……

不気味恐怖は異なる感情である。

・不気味(ゾッとする)
目の前の状況があいまい→警戒心が高まる=精神的負担

・恐怖
すでに何らかの危険に直面していると認識→より強い精神的負担

不気味と恐怖の間。ホラー映画が人々から人気がある理由(カラクリ)は、ここにある。

湖や池は、ホラー・ストーリーの舞台となることが多い。これには、深い水が、人間にとって危険視する対象であることが関係している。溺れることへの恐怖と、リンクしがちなのである。井戸や橋もそうである。

だが、映画鑑賞ではしなない。
※心臓麻痺の事例など0ではないかもしれない

近年の日本でも『怖い絵展』が連日大盛況だったが、これや、拷問展などといったものも、例に含めてよいと思われる。

だが、絵画鑑賞ではしなない。
※反例があったら教えてほしい!

『エクソシスト』家に悪魔がいるのか
『シャイニング』ホテルに幽霊がいるのか
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』森に何かいるのか

『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』

不気味さ(不確実性)は観客を引きつける。

人間が不確実性に惹かれる・集中力を発揮する例をあげていくと、キリがないほどある。拡げていくと、恋心の話にまで通じる。


なお、一人でいると、不気味さを感じる度合いは、格段に上がる。誰からも助けてもらえず、誰とも協力し合えないからだ。

スティーブン・キング氏は、「あなたの作品に出てくるような霊や超常現象を信じるか?」というインタビューを受けた時、「NO. だが、一人で過ごす深夜ならばYES. 」と答えたそうだ。

スティーブン・キング氏

階上から聞こえくるあの音は、古い家が風にあおられているだけだーーと思えなくなる。周囲で起こっていることへの理解に、自信がなくなる。他者の反応を見ることができない、他者と意見を交換することができないと、情報の精度を高められないからだ。

文字通り、孤独は恐ろしいのだ。


上に一例としてあげた、古い家と音の組み合わせに不気味さを感じることと、無関係ではないと思われる話がある。

人間は、20ヘルツ以下の低周波音にさらされると、不快感を感じるのだ。「ハム」という現象。音は聞こえずとも、振動として感知する。

ロンドンのコンサート会場で、実験が行われた。観客には内密に、低周波を流し続けた。結果、寒気を感じるなどの体調不良をうったえる人が、相次いだ。

ボロボロの建物は、その低周波音を発生しやすいという。


〜おまけ〜
日本の青木ヶ原樹海は、世界で最も不気味な場所の有力候補だ。ゴールデン・ゲート・ブリッジなどとは、レベルが違う。不気味であるために必要なもの、全てをそなえている。磁鉄の濃度が高くコンパスが効かないなど。あの森は、キング・オブ・ブキミなのだ。


参考文献 (Works Cited)
フランシス・T・マッカンドリュー. 2021. “ホラーの心理学、地理学、建築学:私たちをゾッとさせる場所とは?” https://doi.org/10.26613/esic.4.2.189