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フリック入力が好き/嫌いを決めている

【パソコンやスマホの使用が、あなたの中の言葉の印象を、少しずつ変化させている。例えば、日本人の大半は「うるおう」という言葉を徐々に嫌いになっており、「とまどい」という言葉を徐々に好きになっている。】

ーーなどと言われても、にわかには信じがたいだろう。

スマホ普及率 88.6%
パソコン普及率 69.8%
(2021年 日本国内)

文字のやり取りによる他者とのコミュニケーションは、いまや、膨大な量に。

昔で言うのなら、短時間で、大量の手紙を大勢に書いているようなもの。更に、返事の手紙がすぐに届き(凄まじい数になる人もいる)、またそれらに返事を書いている。

そんな状態である。


1960年代に海外で行われた研究により、

人間には、「出現頻度」の高い言葉をより好ましい言葉と感じる傾向があることが、判明した。

単語の出現頻度と、人の感情価の間には、正の相関があることがわかった。
※感情価:正の価 (好き)、負の価 (嫌い)


大前提
コミュニケーションでは、情報を発する時 と 情報を受ける時がある。

文字を書く・読むことによるコミュニケーションについてのみ、考察すると

「出現頻度が高い」ということは
・より多くその言葉を書く
・より多くその言葉を読む
基本的に、この両方ということになる。

書くと言っても
・昔は筆記。実際に書いていた。それしかなかった。
・今は打ち込み。書く=キーボードや画面を操作すること。そうである割合が高い。

今でも筆記はするが、打つのはゼロ⇒とても多いでは、大違いである。

そこで、次の研究では、言葉を「書く」ことに重点がおかれた。そして、感情価との関係性が調べられた。(2012年に海外で行われた研究)

①キーボードの ※QWERTY配列に注目。左上の配列はQWERTY

②QWERTYキーボードにて、右手で打つ文字と、左手で打つ文字の頻度を、右手回数-左手回数=3のように測定。
右手優位数

結果:右手優位数が大きい言葉ほど、ポジティブな意味をもつ言葉として、判断されやすいことが判明。(これをQWERTY効果と呼んだ)


重要なポイントなのだが、

この実験は、まず、意味のない言葉で行われた。あえて日本語で言うと、「さやらみなに」のような、めちゃくちゃな言葉でだ。

その後に、意味のある言葉でも、同じ実験が行われた。すると、意味のない言葉だけでなく、意味のある言葉にも、同様の関連性が見られたのだ。

QWERTYキーボードが発明された後で生まれた言葉の方が、その傾向が強いことまで判明。

こんなことがなぜ起こるのか。


右利きの人(被験者のほとんどは右利きであった)にとっては、右手の方がキーを打ちやすいことが、原因として考えられた。

これまで、さまざまな場面で唱えられてきた、「人間は 左よりも右 に好印象をもつ傾向がある」ことも、可能性として考えられるだろう。

やりやすい作業や居心地がよい環境は、永続的に快であり、その逆は、不快なのである。(しかし無意識)

人間には、特に意識していなくとも(思っていないつもりでも)、実は得ている感覚というものがたくさんある。→『知らず知らずのうちに ストレスがたまっているんじゃない?』

この研究は
・頻繁に繰り返される行為において
・行為と言葉に関係性がある場合
⇒行為が原因で言葉への感情価が変化する
ことを示した


では、スマホではどうなのだろうか。
このような相関は、スマホ操作にも見られるのだろうか。

次の研究では、フリック入力と、言葉の感情価の関連性が調べられた。これは日本で行われた。

フリック入力は、日本発祥の入力方法であり、使用しているのも、日本人(日本語使用者)のみであるため。

〜ちなみに、英語圏(アルファベット使用者)は、スマホを横向きにしてのQWERTY入力や、スワイプ・タイピング。グライド入力とも呼ぶ。〜

実は、フリック入力は、「接近回避運動」とよく似た行為なのである。

接近回避運動:対象を自分に近づける/対象を自分から遠ざける運動

私たちは日々、無数の「お こ そ と……」を接近させ、「う く す つ ……」を回避しているのだ。

報酬は獲得するもの
罰は拒絶するもの

獲得したものは報酬であるはず
拒絶したものは罰であるはず

ここがポイントである。
因果関係がちぐはぐになる。行為自体から影響を受け、感覚が発生してしまうのだ。

 研究の結果、

・接近(下フリック)により現れた意味のない言葉に、ボジティブな感情を持つ傾向

・回避(上フリック)により現れた意味のない言葉に、ネガティブな感情を持つ傾向

が見られた。

接近回避運動と言葉の感情価にも、関連性があることが判明。つまり、QWERTY効果のように、フリック入力も、言葉の感情価に影響を与えることがわかった。


心的情報処理は、感覚運動と、密接に関係している。ココロとカラダには、強い結びつきがあるということだ。

数cm以内の・指先だけの、しかし膨大な数の接近回避運動が、人々の気持ちを変化させる。

しかし
☑️各行の文字が固定化されていることには、留意すべきである。お段の文字の方が、う段の文字よりも、そもそもポジティブに評価されやすいという可能性も、捨てきれない。

また
☑️特定の音は、特定のイメージを喚起させることがあると、確認されている。
〜動物の話だが、飼い犬に「い」段ではじまる名前をつけると、きつい気質になりがちなどと言われたりもしている。〜

元も子もない話になるが、「怖い」という言葉が、いつかは完全にポジティブな意味になるなどということは、現実的に考えてありえない。

これらは、あくまでも、相関研究である。
しかし、相関は見出されたのである。

あなたの中の言葉に対する感情価は、パソコンとスマホの度重なる操作により、少しずつ変化している可能性があるのだ。

そして、無意識下で起こることであるため、あなたが自らそれに気づく術はないのである。


参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/91/1/91_91.18060/_article/-char/ja/