ヒロハラベンダー(Lavandula latifolia)の花言葉。
「ラベンダー」と一括りに表しても、園芸をたしなむ方々によってはストエカスラベンダーやイングリッシュラベンダーなど複数の植物種を含んでいる言葉であることはご存知かと思います。
植物学者にしてみれば、「ラベンダー"属植物"」と付け加えた方が意味が通るのかもしれません。
さて今回はプチラベンダー雑学的に、一般的には知られていないドマイナーな南方性ラベンダーの「ヒロハラベンダー」と「花ことば」にまつわるお話をお送りします。
0.用語の整理
1.ラベンダー(属植物)の花ことば
みなさんは「花言葉」あるいは「ラベンダーの花言葉」についてご存知でしょうか?
「冷静」「沈着」「清潔」「親交」「不信」「疑惑」「貴方のことをずっと待っている」などが一般的に知られているラベンダーの花言葉になるかと思います。
日本語でググると主にHITするラベンダーについての花言葉ですね。
これらを見てエフゲニーマエダは思いました。
ラベンダーの花言葉をググっていると、必ず「ラベンダーの花言葉 怖い」といったネガティブな思索をする方が多いようなのです。
毒もないあの甘美な香りの小柄な花(コモンラベンダー)に一体なぜ…と思うばかり。
これについて、別方向でのリサーチから思わぬ形で納得のいく根拠が得られたので記事にしてみます。
おそらくラベンダーについての事細かな植物学知識がなければ一般人ではたどり着けない知識でもあると思うので満を持しての記事でっす!
2.ヒロハラベンダー:Lavande Aspicの語源
ヒロハラベンダー(Lavandula latifolia)は咲かせる花があまり目立たないなどの理由から園芸業界での取り扱いはわずかにしか見られませんが、香水産業目線で語るとその存在を語らずにラベンダーを語ることはできないほど重要な役割を担っているラベンダー属の1種だったりします。
香水・香料目的に南フランスの高地(High Land)で栽培されるイングリッシュラベンダー(Lavandula latifolia)は小柄であり、栽培地が高山帯であるなど収穫に難がありました。
そこで同じラベンダー属植物の近縁種であり、大柄で暖地かつ低標高に育つヒロハラベンダー(L.Latifolia)と交配させラバンジン(Lavandula x intermedia)が生み出されたことで都市圏に近い低地での栽培が可能となり、香料用品種として大いに産業利用されることとなりました。
つまり、ヒロハラベンダーは産業用の中間種(ラバンジン)を作り出すために大いに活用されたのでした。
それがラベンダーにとっての産業利用のはじまり(1890頃〜)です。
それ以前のラベンダーは、紀元前後のローマ時代よりもっぱら薬草として利用されており、ローマ軍によるブリテン島侵略の際にラベンダーが薬草種子としてブリテン島へ持ち込まれ、そこでイングリッシュラベンダーの源流が確立されたともされます。(Lavanudula angustifoliaの例)
▶︎Lavande Aspic(仏)の由来
現代においてのいくらかのラベンダー種は、すでにローマ時代で認識されていたようで、ローマ文化の太い通り道であった南フランスにおいてヒロハラベンダー(L. latifolia)はラベンダーアスピックという固有の名前を持つようになりました。
ラベンダーアスピック:Lavande Aspic(仏)は現在でもその名前がヒロハラベンダーのフランス国内における通称となっており、ラベンダー蒸留産業の中でも頻繁に目にすることができます。
ラベンダーアスピックの由来(Name meaning)は、ヒロハラベンダー(L.latifolia)が都市文明圏(≒低地)に生育するラベンダー属植物のなかでもっとも大型化し、葉っぱも幅広であることから、南ヨーロッパに棲息する毒ヘビ:Asp(アスピッククサリヘビ等)がその株元に隠れ潜んでいると人々に恐れられており、ヒロハラベンダーには誰も近づこうとしなかったためであるとされます。
3.ヒロハラベンダーの語源と繋がる花ことば「不信」
初版(1819年?)の「Le Langage Des Fleurs」にはラベンダーの記載がなかったともされ?、本書巻末に1893の年号が確かめられたので、これはおそらく改訂版の当書籍になるかと思われます。この書籍中にラベンダーの花ことばを発見しました。
これを発見した時、まさかの香り高いコモンラベンダー(Lavandula angustifolia)の方ではなくヒロハラベンダー(Lavandula latiflolia)の方であることが判明!これには驚かされました。
上記で先に述べたように、Lavande Aspicはヒロハラベンダーの仏語綴りなのです。
この花ことば辞典で改めて1800年代当時までの生活文化を伺い知れる記述でもあり、ヒロハラベンダーの通称名(Lavande Aspic)の由来もを知れる記述内容となっていました。
翻訳は機械翻訳のGoogleに任せましたが、「ラベンダーは毒ヘビの巣であると信じられていた」旨の内容を知るには十分な翻訳結果となり、それがラベンダーの花言葉にもたらされるネガティブな言葉・イメージの所以であることが説明されていました。
本書籍内で他の草花にも同様のMefiance(不信)の意味を持ったものがないか調べたのですが、どうもラベンダーだけの固有なイメージであることがわかりました。
すごいですね…ヒロハラベンダーは中世ヨーロッパではよほどネガティブイメージを抱えた植物だったようです。
▶︎なぜ「Mefiance=疑念,不信」だけなのか?
しかし現代の花言葉は植物1種に対して複数持たされているのに対し、花言葉の原書ともなるとハッキリと「不信」の1ワードだけとなっていますね。
「Le Langage Des Fleurs」にいつラベンダー(Lavande)が記載されたかは不明ですが、上記資料の年号とラベンダー香料産業の勃興と照らし合わせると、ちょうどラベンダーの刈り取り蒸留が本格化した年代(1890年頃)と重なるので、パリの都会文化圏にはまだラベンダー蒸留産業の情報が届いていない時代にラベンダー項が記載された可能性が指摘できます。
ゆえに「ラベンダー≒Lavande」が内包する植物種は、当時としてはヒロハラベンダーの1種のみだったのかもしれません。
▶︎「ラベンダー」登場年代の調べ。
コーネル大学所蔵の電子文庫からみっけたバージョン。
表紙に1830とあり、上記書物と変わらない文章でラベンダーアスピックの記載があったので少なくとも1830年発刊のLe Langage Des Fleursにはラベンダーは記載されていました。
4.まとめ
▶︎初期のラベンダーの花言葉はヒロハラベンダーを指していた
これら「花言葉」と「ラベンダーアスピックの語源」の調べで得られた情報をまとめると、、、
古くよりフランス人の生活文化に「ラベンダー」として結びついていた植物種は毒ヘビの共通名を持つヒロハラベンダー (Lavandula latifolia)…いわゆるLavande Aspicのことであり、人々がアスピッククサリヘビ(Aspis)に対して抱いていた恐怖心・警戒心がそのままヒロハラベンダーから文化的前途を経て「疑念」「不信」といったラベンダーの花言葉へと転じていたことがわかりました!
ざっくり表すと「ヘビの巣」のような恐怖イメージのニュアンスを持つのでしょう…
ということあって、イングリッシュラベンダー(L.angustifolia)が花言葉のラベンダーに意味合いを寄与するようになる以前からラベンダーの花言葉はヒロハラベンダーのネガティブイメージな言葉が先行していたという歴史順序が判明しました。
▶︎ラベンダーのアロマ的役割が花言葉となったのはいつ頃であるか?
ヒロハラベンダー/Lavande Aspicが由来となっている「不信」「疑念」といった花言葉。
現代でのラベンダーの花言葉ではそれらネガティブワード以外に「冷静」「鎮静」や「清潔」「親交」「貴方のことをずっと待っている」などが増えました。
おそらく時代の進行とともにラベンダーの植物学的知識が市民層にも広まり、越冬生育する樹木である事やローマ時代からの利用法などから採用されていると予想できます。
とりわけコモンラベンダー(L.angustifolia)が花穂に持つ精油成分(主にLinaloolなど)の効能から由来しているであろう「冷静」や「沈静」といった花言葉。
これらがラベンダーの花言葉レパートリーに加わったのはいつ頃になるのでしょうか?
場合によっては化学知識が浸透していない時代から見出されていた医学知識であるとも言えるので、この点についても詳しく調べてみたいと思います。
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