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短編小説『Oblivion』


2021年4月の中頃、俺は運命の出会いを果たす。
ドラマや漫画、映画でしか見た事がないような、所謂フィクションでしかないような出会いが俺に訪れた。
俺は高校3年生の頃。大学に進学しようかどこかに就職しようかまだ考えている段階だ。
まだ高校3年生になって間もなく、クラス替えがあり今のクラスになったがずっと仲良くしてた子達とは今年になってクラスが離れてしまった。
他に友達がいない訳では無いのだが特別仲のいい子では無かったのでほぼ孤独状態。
友達を作れるか否かという段階だ。

席は出席番号順。
後ろはおそらくクラスで1番うるさいだろうなって感じのやつ。前はよく見えないが後ろ姿はとてもスタイルが良くて髪の長い女の子だ。
目の保養になりそうだ。
これだけで心躍る俺はどうかしてる。そんな事分かってる。でも俺はこれだけで「このクラスで良かった」と思ってしまう程単純なヤツだ。
言い換えれば愚かだ。
席替えすれば離れるのにな。

高校3年生になり2日、進路授業と題された就職、進学についての授業があった。
まだ進学とか就職とか考えたくない。
一生学生で居たいが故に進学して大学に行こう等色々考えてはいた。
でもまだ高校生で居させてくれ。
しかしその授業の時前後で進学や就職について話し合ってみようという司令が担任の先生からあった。
まだ話した事がない人もいると思うので自己紹介がてらにと。
俺はその女の子とペアだった。
彼女は少しずつ後ろに振り向いてくる。
俺は息を飲む。

最強に可愛い…
今から彼女とお話するのか…と心中自問自答を繰り返すうちに彼女が話しかけてくる。
「はじめまして」。
俺もすかさず「はじめまして」と挨拶したのだが変に緊張してしまって吃ってしまった。
コミュニケーション障害、通称コミュ障、自称コミュ障の俺が女の子とお話する事になるとは…


「はいおしまい〜前向いて〜」という先生の合図が。
全く進学就職のお話をしていない…
なぜなら別の話題で盛り上がりすぎたからだ。
よく聴く音楽の話、中学生時代のお話、色々盛り上がりすぎて進学就職の話までたどり着かなかった。
この刹那、ずっと続けばいいのに。
そう思った。

そして翌日。
そんなこんなで高校3年生になって3日後に早くも席替えが。
若干寂しい気持ちがありつつも近くの席になればいいなという願いが。
結果は…

なんと俺の後ろに彼女が…
なんてツイてるんだろうか。

と思ってたら
「また近くじゃーん!」と軽く肩を触ってきた。
悔しい程に単純過ぎる自分は顔が赤くなっていた(はず)。

そこから休み時間2人でお話などするようになる。色んなお話をする。
1つずつ君を知れるのならば傷つくのすら検討事項なんだよ。
そう思いながら彼女の事を1つずつ教えてもらう。
逆に自分がどういう人間か語る。PR出来るほど俺は賢くないので悪いところばっかり言ってしまう。
しかし彼女はその全てを肯定してくれる。
「それが〇〇くんのいい所だと思うよ!あ、勝手に下の名前で呼んじゃった。もういいよね。〇〇くん」なんてそりゃニヤけるしかないだろ。
「うんいいよ。」なんてスカした返答してるが心の中は驚天動地。
ついにはLINE交換までしてしまった。

そこからたくさんたくさん高校生活で思い出を作った。
彼女は何人かに告白もされたそうだが断っているらしい。要するにモテ女だ。
そりゃスタイルも良く美人だし優しいんだからそりゃそうだ。

気が付くと2022年2月26日、卒業間際。
彼女とは2人きりで一緒に映画も観に行ったし水族館デートもした。
夏は花火大会に行ったし冬はイルミネーションまで行った。
しかしまだ俺の彼女になった訳では無い。
何をやっているのか。万が一振られる事を恐れて全く告白ができない。
明日、明後日で学校が終わり、3月1日に卒業式がやってくる。
彼女は大学に進学。俺は専門学校に進学する事になった。
僅かな高校生活。
そう思っていた矢先に彼女から1件のLINEが。

「3月2日空いてるから2人でランチに行こ!
行けるなら○×公園に昼の11時に集合ね!」

これからお互い忙しくなってしまうかもしれない。と思うとこれがラストチャンスかもしれない。しっかり想いを伝えなきゃ。

そして3月1日。俺と彼女は高校を卒業した。
一緒に写真も撮った。これで付き合ってないのが不思議なくらいに距離は近い。

そしてついに3月2日がやってきた。
朝、「今日こそは絶対に告白するんだ。恐れていたって仕方ないから」そう思い9時に起床。
今までになく目覚めがいい。

窓を開ける。
空気が美味しい。

お昼はお母さんの焼いてくれたベーコンエッグトーストだ。こんがりと焼かれた食パンに挟まるジューシーでトロトロなたまごに少々塩の効いたベーコンが最高のコントラスト。
昔からの大好物だ。
カフェオレを片手に付いていたテレビを観ていたら衝撃のニュースが映る。

俺の住んでいる街で起こった悲劇。
これはおそらくこれからも語り継がれるような大事件になるだろう。
そう思いながらニュースを見ていた。
この街の小学校は一斉に臨時休校に。
それもそのはずそのニュースの犯人が捕まっていないからだ。
そのニュースの内容はと言うと19人が刺殺されていたというもの。場所はこの街のあちらこちらのコンビニ付近。
17人が男性、2人が女性で年齢もバラバラ。
学生さんから年配の方々まで老若男女が被害者だそうだ。
ほぼ全員が心臓部分を貫かれている。
または腹部をやられたものもいたそう。
こんな事した奴が捕まっていなかったらそりゃ外も出れない。恐ろし過ぎる。

流石にこれはマズイ。
今日は彼女と会うのはやめた方がいいかもしれない。そう思った俺は携帯を取る。

「楽しみ過ぎて寝れないんだけど!笑」というLINEが3:08に来ていた。めちゃくちゃ夜中。
そこに俺は返信する。
「今日のニュースみた!?今外出たら危ないから今日はやめて別の日にしよ!」と送った。
集合予定だった〇×公園もこの街だからな。
寂しいがやむを得ない。









これ以降彼女から返信が来ることは無かった。






Photo by CanCam

《おすすめBGM》
流星のスコール/UNISON SQUARE GARDEN

※この物語はフィクションです。


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