なぜ尿酸値13の痛風ライターは昼間から酒を飲んで競艇三昧なのに仕事の依頼が途切れないのか?
「仕事ください」はNG
マジメに仕事しているようには見えないけど、なぜか仕事が途切れていない人。
どうやって稼いでいるのかわからないけど、なぜかちゃんと立派に食えている人。
そんな人たまにいませんか?
僕にとってはそれがライターのキンマサタカ氏なんです。
昼間からよくお酒を飲んでいて、午前中の打合せに顔を赤くして来たので「なんで朝から飲んでるんですか?」と聞いたら、「しょうがないじゃん、店が開いてるんだから」とあきれながら言われたことがあります。
原稿がなかなか上がってこないので催促したとき、的中した舟券や馬券のスクショを送ってくることもありました(以下、証拠写真参照)。ちゃんと仕事してくださいと言うと、「してるよ。レース場のほうが集中できるから」と真顔で返されました。
そんな彼もパンダ舎の屋号を掲げて、編集ライター稼業でウン十年。売れっ子ライターとして業界内での顔も広く、「キンちゃん」「キンさん」と呼ばれて愛されています(たぶん)。
痛風ライターを自認し、『痛風の朝』という書籍を本の雑誌社から出しています。
今回はそんなキンさんに「ライターとして食べていくうえで大事なことは?」をテーマに話を聞きました。前編・後編の2回に分けてお届けします。
―まだ昼間から飲んでます?
キン うん、飲んでる。
―いま尿酸値は?
キン 13ぐらいじゃないかな。
※7以上で痛風のリスクが高くなると言われています
―どういうライターが食べていけると思います?
キン よく専門性が大事と言われるけど、ライターとしての俺にはないのよ。興味のあることをずっとやってきてるだけ。書籍で言うと、鉄道の本とかアワジマと一緒に作ったメダカの本とか。その繰り返しでやってきたけど、先行きは不安です(笑)。
―いま何歳ですか?
キン 46。
―ほぼ一緒ですね。
キン さっきの専門性の話でいうと、専門性があるか、ないか、どちらかに振れてないと厳しいのかなと思う。とことん極めるか、興味のあることは何でもやるか。
ー確かにいまは専門的な知識がある人も増えているから、よほどのものがないと専門性だけで食べていくのは厳しいのかもしれないですね。そのジャンルのトップにはどんどん仕事が来るけど、2番手以降は熾烈なイメージです。ちなみに、興味がない仕事を振られたときはどうしてます?
キン 大事なのは編集から「こういう仕事あるんですけど興味あります?」と聞かれたときに、興味がなくても「あります」と答えること。そうしないと繋がらないから。
―今度から聞かないようにします(笑)。
キン でも実際、最初は興味がなくても、どんどん詳しくなるのがライターのあるべき姿だと思うんだよね。最初から極めている必要はないと思う。
―確かに一理ありますね。そのほうが予備知識のない読者に伝えるときには良さそうです。いまレギュラー仕事はどれぐらい?
キン 雑誌とWEBを合わせて8本ぐらい。連載ではなく単発だけど毎月入ってくる仕事も含めてる。ほかに書籍や自治体の仕事とか。ライターだけというよりは編集もやることが多い。
―キンさんは写真を撮れるのは大きいですよね。岩井ジョニ男さんの「ジョニスタグラム(※)」なんかはファン多いですよね。
※岩井ジョニ男のInstagram(通称:ジョニスタグラム)。インスタにアップされるサラリーマン写真で人気爆発。@iwaigawa_jonio_iwai
キン それはあるね。
―最近だと集英社オンラインの仕事で後藤真希さんの撮影を担当してるんですね。写真もしっかり仕事にされている。キンさんはアポどりから、取材、撮影、編集までぜんぶ1人でやっているイメージがあります。予算のない媒体だと重宝されますよね。仕事の割合的には?
キン もともとライターではなく編集ライターを名乗ってきたからね。書籍の仕事は置いておくとして、ベーシックな収入の割合は「書く」のが4で「編集」が3で、4:3。
―あとの3は何ですか? 10割じゃないんですか。
キン うん、4:3って何だろ(笑)。10のうち…いや、やっぱ7のうちの4:3かな。
―残り3割は謎。もしやボートレースですか?
キン それはいいんだけど。
―レギュラー仕事はいま何を? 雑誌『週刊実話』の「売れっ子芸人の下積みメシ」は結構長く続いていましたね。
キン 2016年からだから8年だね。第一回がナイツの塙さんで382人の芸人さんに取材してきた。この前、最終回を迎えて、今は古き良き酒場を紹介していく「ホの字酒場」が始まってる。あとはWEB『週プレNEWS』で競馬の天才でインスタントジョンソンのじゃいさんの連載「人生は最高のギャンブルだ」を担当してるのと、新しくさらば青春の光・東ブクロさんの人生相談の連載もスタートした。
―WEBの仕事も充実してるんですね。どうやって仕事を広げてます?
キン 企画を振られるというよりは「こういうのやりたいんだよね?」「面白いですね、やりましょう」という感じでやらせてもらえるのが多いかな。
―仕事が途切れないのがすごいですね。
キン でも、この半年ぐらい油断してあまり営業できていなくて、いま焦ってる(笑)。
―どうして仕事が途切れないんですか。
キン 人徳。
―顔にウソって書いてますよ。
キン やっぱり下積みメシのような連載を毎週続けていると、いろんな人のつながりができてくる。芸人さんと今度こういう本を作りましょうとか、本じゃないけど錦鯉さんのライブのポスターを作ることになったりとか。ジョニ男さんのジョニスタグラムもそう。
―そんなに営業してる感じはしないけど、仕事の輪を広げるのが上手な印象です。そのへんの秘密はあとで聞くとして、紙の雑誌は減り続けているので、連載にしろ単発にしろ、ライターとしてやっていくならWEB中心になりますか。
キン そうだね。でも、いまライターになりたい人っているの? この前、Xで流れてきてへーと思ったんだけど、地方だかに仕事で行ったライターが、取材先で「ライターって本当にいるんですね?」と言われたと。ちょっと馬鹿にしたような感じで。よくも悪くも、ライターは誰にでもできる仕事なんだと思う。
―確かに門戸は広いですね。本業というよりは副業でやるぐらいの仕事になりつつあるのかも。
キン たとえばファッション誌の仕事だと現場に行くとスタッフでいちばん偉いのはたいていカメラマンで、その下に編集とライター。ライターがいちばん偉い現場って見たことがない。偉くなるには作家になるしかないのかも。
―よい仕事に巡り合う秘訣はあります?
キン 「仕事をください」と絶対に言わないようにしてる。
―仕事がないんだなと思われるからですか。
キン 若い頃はいいと思うけど、経験のある人が言うと危険だよね。
ここで前編終了します。次回、後編はキンさんの営業術、仕事術に迫ります。また、そんな彼になぜか同業者からの人生相談が殺到する理由にも。
文/アワジマン
迷える編集者。淡路島生まれ。陸(おか)サーファー歴23年のベテラン。先天性の五月病の完治を目指して奮闘中。
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