フードエッセイ『アイスクリームが溶けぬ前に』 #8 もち食感ロール(ローソン)
50円引きになっていた6個入りのロールケーキには、
それぞれに、お値段以上の「ミニドラマ」が詰まっていた。
夕食を食べる前、散歩中、お風呂あがり、休日1度起きて歯磨きをしたタイミング。寝る前。一個あたりの大きさが小さいからこそ、一つひとつのロールケーキと、仲良くなりたかったのかもしれない。
生クリームがじんわりと口の中に広がっていく瞬間、うんまぁぁぃと心の奥から叫び声が聞こえてくる。一つひとつのロールケーキに思いを馳せていると、生クリームの変化に気づいちゃったりする。
年齢を重ねるにつれて、20代後半だけど生クリームの重さを感じたり、逆に軽やかに口の中に入ってきたり。あるいは、生クリームが半冷凍のようにもっちりしていたり。小豆入りのもち食感ロールだと、小豆の塩しょっぱさと生クリームの甘さ、もち生地とスポンジのダブルコンチェルトが口の中に広がり、まるで口の中でコンサートがはじまったようだ。
疲れたときの癒しの相方にもなり、ハッピーなときにはそれを祝福するようなクラッカーになり、寂しいときにはろうそくのように心温い味を届けてくれたり、お腹が空いたときには、お腹を満たす安定剤的な役割を果たしてくれる、もち食感ロール。
どんな感情、シーンでも、ロールケーキを食べているときだけは、小さな幸せに包まれる。一気に食べたら感じられない、もち食感ロールとの思い出。
もち食感ロールの生クリームの鮮度が落ちる前に、ごちそうさまでした。
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