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新規受注額を1年で4.5倍にした「スクラムセールス」

皆さんこんにちは。株式会社cocoの高橋です。最近、弊社サービスの新規受注金額(アップセル含む)が1年で4.5倍にまで増えました。しかもこの間セールスの人件費は殆ど同じで、広告費も殆ど変えていません。単純な計算で1年で生産性が4.5倍になりました。

そこで今回、その成長の過程での弊社の工夫と改善の結果生まれたセールススタイル=「スクラムセールス」を皆様にご紹介します。

※本記事は、2022年8月に公開され、2023年4月に内容を追記しています

四半期ごとの受注金額(新規契約 + アップセル)の推移

全員・全顧客・全プロセス対応のスクラムセールス

全員で全顧客全プロセスに対応できる体制を作っています

「全員で全部やる」という感じがスクラムっぽかったので「スクラムセールス」という名前をつけました。各商談先や顧客の「担当」を明記せず、また各プロセス担当も置かず、「全員で、全顧客のあらゆる課題の解決に向き合う」という体制になります。

分業型セールスの課題

  • 良いリードが集まらないから受注が取れない

  • 受注した顧客の質が低いからカスタマーサクセスが難しい

  • カスタマーサクセスが良い事例を出さないからリード獲得がやりにくい

そんな事を、正直思ったことはないですか?

分業型セールスはそれぞれが各プロセスに特化することで効率的にスキルを高め、各プロセスごとに最大限の結果を得られるようにする・管理しやすくする、といった取り組みと考えています。

それらは非常に有効である一方で、個々人が自分の担当プロセスばかりに目が行き、他責になりがちだったり1つのプロセスで発生した「ロス」が全体に悪影響を及ぼしてしまう、ということがあります。

初回商談〜導入後のサクセスまで全員全顧客対応

そんな課題を回避することができるのが、「全員全顧客全プロセス対応」のスクラムセールスでした。詳細は後述しますが、全員で柔軟に対応できるため「ロス」「他責」などが発生しにくく、ビジネスチームの生産性を最大限高めることができると考えています。

原型はエンジニアの「スクラム開発」

この体制は、思いつきで始まったものではありません。そもそもエンジニアには「脱分業」の「スクラム開発」という手法がありました。

実は筆者の私も、軽くではありますがエンジニアとしての業務経験があり、このスクラム開発の生産性の高さを身をもって感じていました。そこで、その仕組やエッセンスをセールスやカスタマーサクセスにも取り入れたのが、このスクラムセールスになります。

ということで、簡単な背景を説明しましたが、次に具体的に得られるメリットをご紹介します。

メリット①:リード不足やセールス余りが発生しにくい

リードが多くて大変な場合は全員でセールスに注力すればいいし、リード不足で新規案件が減っているときは既存顧客へのサポートを厚くすることができます。

リード不足だからフィールドセールスメンバーが慣れないテレアポ活動を、、ということも発生しがちだと思いますが、そうした事態を防ぐことができます。また、リードがせっかく大量にあるのにセールスが足りない、、というのは非常にもったいないです。それらを同時に防げるのがこの体制の特徴です。

メリット②:サクセス経験をセールス経験に、勿論その逆も活かせる

特に、カスタマーサクセスの経験は、顧客の先導にも教育にもどちらも活かせます。成功事例に詳しいことは、顧客に対し非常に強い説得力となります。

また、既存顧客でも例えば先方のSaaS導入推進担当の方が変わった場合などはある程度最初からのインプットになってしまうこともありますが、そういった場合は新規セールスの経験が役に立つと思います。

他にも、プロセス分業型チームでたまに問題になる「他のプロセスのせいで全体のKPIが悪い」といったような"他責"が発生しにくくなる傾向も感じています。

メリット③:採用の柔軟性があがる(副業や業務委託が巻き込みやすい)

顧客担当が決まっていない、ということは顧客対応を部分的に外注しやすくなる、ということにもなります。現状この手法で最も高い効果を感じているのはこの部分です。

副業の方への商談招待の投稿

初回商談を副業の方にお願いし、以降のプロセスをパスしてもらうこともできるし、2回目以降の商談をお願いすることもあります。勿論「いきなり全プロセス対応!」というのはキツイですが、それでも段々と担当可能領域を増やすようなアプローチを取ることで、全体のアジリティが大幅に上がっていきます。

フィールドセールスメンバーとしての副業は一般的にやりにくいものなんじゃないかと思いますが、スクラムセールスの体制での運用で実際に多くの方に副業としてセールスをお手伝い頂いていますし、"副業だから"という理由で質が低下しているとも感じません。当然副業の方による受注も発生しています。

以上の3点が、特に現状得られている大枠のメリットになります。次に最も重要な「運用のポイント」をご説明します。

運用のポイント①:商談後レビューによる情報記録・共有の徹底

これはもう釈迦に説法かもしれませんが、スクラムセールスの大前提としてCRMにしっかり情報が記録されている、ということがあります。

少し細かすぎる感もありますが、商談後のtodoとレビューの完了状況まで可視化しています

問題はどのようにそれを徹底するかというところですが、弊社では商談後にその記録や振り返りの「商談に参加しなかった人によるレビュー」を必須のプロセスにしています。どうしても商談後は疲れていたりするので入力を忘れたり雑に行ったりしてしまいがちですが、第三者の目が入ることで一定の質の担保が可能となります。

少し手間ではありますが、たったこれだけでCRMの情報の抜け盛りが減り、またレビューの過程で「その商談の議事録をしっかり読んだ人」を1人は生み出すことができるため、商談の属人化を防ぐことも多少はできます。

運用のポイント②:社内外のあらゆる取り組みの非同期化

少し精神論っぽくなってしまいますが、「非同期化できるものは一旦非同期化しておく」という事が大事だと感じています。結果としてzoomでの説明が必要になることもよくありますが、それでもできる限りの情報をドキュメントや動画に残しておくことで、一人ひとりの対応の差異を減らし、顧客対応の質の平準化に繋がります。

具体的には
・新メンバーのインプット内容はすべて資料に残し、クイズに答えてもらった上で最終チェックのみzoomで行う
・一方的に説明するような内容は全て動画にする
・社内MTGの事前準備や事後対応でできることはMTG中に行わない
等々があげられます。

入社時のtodoは自動で通知し、ドキュメントを読み込んだ上でまずはクイズに回答していただいてます

基本的に一つ一つは大したことはないのですが、マニュアル作成等は最初の作業が単純に面倒で後回しにされがち、みたいなことが多い印象があるので、「非同期化できることはないか?」と常に問い続ける姿勢が最も大事だなとも感じています。

運用のポイント③:商談前レビューによる提案整理

全商談でtrelloのカードが作成され、ゴールやアジェンダが共有されるようになっています

いくら情報共有を徹底していても、やっぱり商談では言語化しにくい定性情報などもたくさんあります。そこで、特に2回め商談のときなどは前回のMTGの定性情報や議事録への補足があったほうが提案の質もたかまるので、テキストだけで共有しきれないような情報をここで補足しています。

また、1回目提案だったとしても、その顧客に最適な事例を他の人が知っていたり、またそもそもですが1人で考えすぎると独りよがりな提案担ったり勘違いが入ることも当然あるため、必ず商談前に他の人がレビューを行うようにしています。

こちらは現在毎朝の朝会で同期的に行っていますが、メンバー構成によっては十分に文面だけでも可能にはなるかなと考えています。

運用のポイント④:未経験タスクへの積極的なアサイン

普通に考えたら経験のある得意な人に、該当のタスクや商談をアサインするべきですが、それだとどうしても各顧客担当制・プロセス分担制に近い形になってしまいます。

そこで、無理のない範囲で積極的にそれぞれが「やったことがない」タスクへのアサインを進めることで、各メンバーの「できること」を増やしていきます。その日常的な取り組みが、いざ「ここに人手が足りない!」というときに非常に高い効力を発揮することになります。

いきなり全員全部できるようになろう!と考えるのではなく、段々と全員が全部対応できるようになるようにタスクや商談割り振りを実施することが大切です。

運用のポイント⑤:タスクの不確かさによる役割分担

全員全社全プロセス対応はしていますが、役割分担そのものは存在します。問題はその切り口だと考えていて、それを弊社では「タスクの不確かさ」で分類しています。

例えば、アカウント発行やデータ入力のような軽作業は軽作業担当の方が新規顧客〜既存顧客全部担当をしているし、顧客へのアポイント調整電話などはコール担当の方が新規顧客〜既存顧客まで全部を担当しています。それらは比較的「不確かさの低い」業務と考えています。

coco導入検討状況確認の架電依頼の例

逆に「不確かさの高い」業務は顧客への提案活動のようなもので、マニュアル化しにくい業務、と言ったほうが良いかもしれません。これは僕の経験からくるイメージですが、「サクセスとセールスを両方やる」は相互にプラスに働きますが、「不確かさの高い業務と低い業務を両方やる」は、相互の関連性が弱くストレスにもなりやすい、と感じています。

運用のポイント⑥:経営のコミット

#JSC2023 で説明したときのスライドです

最後に、そもそもですがセールスの仕組みづくりにも「経営陣がコミットする」ということも非常に重要だと考えています。弊社では「一定ラインのMRRを超えたら全員強制昇給」というルールがあります。

セールスの場合だと個々人のスタッフにインセンティブが設定されているようなこともよくあると思いますが、僕の考えでは「プロダクトが良ければセールスは楽になる」という側面も当然あるので「MRRは全員で作るもの」と捉えた評価制度にしています。

そういった取り組みは1つの事業部だけで達成できるものではないため、組織文化作りも含め「経営のコミット」というのは非常に重要な要素になると思います。

BtoB SaaSにおけるセールスの役割は、顧客への「先導と教育」により自立を促すこと

そもそもですが、「セールスの役割ってなんだろう?」といった素朴な疑問を抱いたことはありませんか?

「新規受注の獲得」というのはわかりやすい回答だし、それ自体は僕も間違いだとは思いません。その一方で「受注の獲得」というのは実は少し曖昧な概念だとも感じています。その理由は、契約書に印鑑を押して貰う作業自体は非常に簡単で、クラウドサインを誰かが送ってそれを返してもらえば完了してしまうからです。「クラウドサインの送付と確認がセールスの主な仕事だ!」と信じている人はどこにもいないでしょう。

「担当者が良いから発注しました」への疑問

他にも、セールスの役割として「お客様の懐に入り、好かれて信用を得る」みたいなこともあるかと思います。僕自身「高橋君の応援も込みで発注するよ」といった情けに近い言葉をかけてもらったことが今までに何度もありました。

応援して頂けることは単純に嬉しい一方で、そこにはひとつ疑問もありました。それは「商品では選ばれていないのだろうか・・・?」ということでした。

特に弊社では BtoB SaaS、つまりソフトウェアという"属人性の低い商品"を販売しています。例えば弊社でもSaaSを大量に利用していますが、「担当が良かったから」という理由で選んだことは殆どありません。というか担当の存在すら知らない商品が大半です。

「自社では担当で商品を選ばないのに、お客様には担当で選んでもらっている。だとしたら物凄く矛盾したことをしている。」と感じるのは、僕だけではないと思います。

「依存してもらう」「自立を促す」2つのセールスモデル

「担当で選ばれる」ことは良いのだろうか?そもそもセールスが果たすべき役割はなんだろうか?と悩む中で、セールスには2つのモデルがあることに気付きました。

セールスモデル①:依存してもらうセールス

まず1つ目が、顧客に「〜〜も〜〜もやるので、全部私達にお任せください!」といった形であらゆる業務をお客様から巻き取っていくタイプのセールスモデルです。「あらゆる」は実際のところは言い過ぎかもしれませんが、本来のサービス以上の業務も巻き取ったりすることは割と多いのではないかと思います。

この手法のメリットは、都度競合サービスと比較される可能性を軽減したり、またアップセルの機会も多く得られることです。デメリットはわかりやすく工数がかかるため、うまくやらないと疲弊しがちなところかもしれません。

このセールスモデルは、例えば代理店のような実際に「担当」が重要で、また競合間でのサービス内容の違いがパッと見ではわかりにくく、小さなトライアルもやりにくいような業種で有効だと考えられます。

このセールスモデルは、「自社への依存度を高めることで、LTVを高めていく」ことを志向しています。そのモデルでは「担当で選ばれる」ことは非常に有効に働くと考えられます。

セールスモデル②:自立を促すセールス

一方で、依存ではなく真逆の「自立を促す」セールスもあるなと感じました。その最たる例が、最近話題の「Product Led Growth」モデルを採用しているようなBtoB SaaSだと思います。

PLGモデルは、顧客側の意志やリテラシーへの依存が比較的強く、提供企業側で何かをしてあげるというよりも、動画やヘルプページ、コミュニティーを上手く活用することにより顧客をサポートします。

このPLG型のアプローチは、顧客は人ではなく完全に商品で契約対象を選びます。そして、選ばれるためには、顧客のリテラシー教育を行い、自分で判断できるようになってもらった上で(または判断できる人を対象に)商品を提供することを志向しています。そしてこれは、完全なPLG型のSaaSでなくても、実は多くのBtoB SaaSに当てはまることであると考えています。

BtoB SaaSでは顧客の自立が必須

BtoB SaaSを提供したことのある人ならわかると思いますが、顧客がその背景となる思想や知識を学習し、適切なゴール設定をしてくれたときに非常に良く機能します。

つまり、顧客が自分自身で意志を持って目標を設定し、そのために必要なリテラシーを身に着けてもらうことは、"良いプロダクトを作って提供する"ことと同じくらい重要です。顧客に「意志とリテラシー」がなければBtoB SaaSで価値提供することは非常に難しいです。

つまり、BtoB SaaSで採択すべきセールスモデルは、「依存させる」モデルではなく、「顧客が意志とリテラシーを持ち、自立した状態を目指す」モデルであるべき、ということです。

顧客の自立を促す過程では、様々なやり取りや検討が行われる

費用対効果という論点が明確な商品に対し、SaaSの導入時は効果が比較的不明瞭なため多面的に検討される傾向があります。コストは勿論のこと、定性的なメリットや、部門間のオペレーションの調整など、導入までの論点は数多く存在しています。

理想的な状態を示し、次の検討ステップに向け先導することが重要

多面的な検討の際に重要なのが、「何を目指すか」ということになります。リード獲得段階では個別具体的な小さな課題がきっかけとなり商談になることも多いですが、そのきっかけと自社の提供するSaaSの本質的な価値がずれていることは多々あります。

それを、改めて「目指すべき状態」を示すことで、課題に気づいてもらい、検討の次のステップを示すこともセールスの重要な役割です。そうでなければ顧客の検討ごとに論点がぶれてしまい、延々と意思決定が先送りになったり、誤った導入のされ方をしてしまう恐れもあります。

単なる検討だけでなく、前提知識の学習も行われる

また、特にSaaSの導入責任者となる人は、その必要性を社内のあらゆる関係者に説明する必要があります。その説明をSaaS側のセールス担当者が手伝ったり代行することもあると思いますが、そもそもその後の運用の責任となる人がその必要性を十分に説明できないのはあまり健全な状態ではありません。

BtoB SaaSを運営する企業が主にリード獲得やそのナーチャリングのためにセミナーを開催していることがよくあります。それが合理的な理由は、リード獲得云々の話より更に本質的で、SaaS導入責任者のリテラシーはその導入や活用のために非常に重要なポイントになるからだと思います。

SaaSのセールス経験のある方ならわかると思いますが、商談の時間の半分以上が顧客への前提知識の説明で終わってしまう、ということもよくあります。SaaSの導入過程における「学習」は論点や導入ロジックの整理、部門間調整等を促進する上で非常に重要になるのです。

自立のために必要なのは顧客に対する"先導と教育"

ここまで、延々とBtoB SaaSビジネスにおけるセールスの役割について論じてきましたが、一旦まとめると「BtoB SaaSのセールスは顧客に対する先導と教育を行う」ことが役割だ、ということになります。

「顧客に目指すべき姿と方向性を示し、常に顧客の状態を確認しながら、何度も対話を重ねる上でその実現の必要性への同意と必要なリテラシーを身に着けてたうえで社内を説得した上で商品導入の契約をしてもらう。」それこそが、SaaSのセールスに従事する人たち、引いてはSaaSの運営に関わる人が、その顧客と対峙する際に持つべき姿勢だと思います。

「自立を促すセールス」だから、スクラムセールスが成り立つ

続けて、「依存してもらうセールス」と比較したときの、「自立を促すセールス」の特徴を考えていきます。これらの特徴こそが、"スクラムセールス"の特徴を決定づけるような要素になっています。

商談の連続性が低い

顧客の自立を促す過程では、導入検討時の1回目の商談2回目の商談で、顧客の持っている知識や考えていること、時には課題感そのものが変わっていることがよくあります。そのことを僕は「商談の連続性が低い」と表現しています。

顧客によるSaaS導入検討の過程では、当然提供側の会社に見えない動きが数多く存在します。例えば、同僚の社員にあれこれ確認したり、他社の仲の良い人にヒアリングしたり、コンサルタントにアドバイスを求めたり、様々な検索をしたり時には書籍を購入したり、等々。できることは沢山あります。

そのような中で、仮に前回の商談の内容を完全に記憶した同じ担当者が仮に2回目商談を実施したところで、顧客の状態が変わっていれば、いずれにせよその状態確認から入らざるを得ません。課題感が変わってしまえば話はほぼゼロベースに戻ることもあります。そしてそれは、逆に言ってしまえば1回目と2回目の商談で提供側の企業の誰が担当しようが、あまり結果は変わらないということです。

非同期コミュニケーションと相性が良い

顧客への先導と教育は、必ずしも同期的である必要はありません。特に、前提情報の学習はむしろ資料を提供して顧客のペースで学んで頂いた方が良いことも多々あります。

顧客に好きになってもらう必要があるなら、ガンガン訪問して関係ない雑談もして飲みに行って、、といったコミュニケーションでパーソナリティを理解してもらうことなどもとても重要です。しかし、顧客に自立を促す過程では、自立度が高まるほどに非同期でのコミュニケーションのほうが双方の生産性が高まります。

特に「教育」という観点では、オンラインの記事や、ホワイトペーパー、動画教材など、顧客の特性に応じた最適なチャネルで学習を促せるため、これらを充実させるだけでもセールスの人数に依存しないセールス活動が可能となります。

先導と教育は延々と続く(受注は目的ではなく"過程")

また、「先導と教育」は一度受注を獲得したら終わり、ではありません。むしろ実際のところはどちらも中途半端な状況で受注を獲得することのほうが多いのではないでしょうか?そうでなくても、提供側のSaaSに新機能が生まれたり、外部環境が変わるたびに、目指すべき方向性や必要な知識は変わります。そしてその度にあらゆる顧客に適切な「先導と教育」を提供する必要があります。

そのため、受注契約の獲得は重要な過程の一つではあるものの、セールスの目的ではなくあくまで”過程”にすぎない、ということになります。

よく頂いた質問や懸念点

スクラムセールスのご紹介は以上となりますが、いくつか自分でも気になっている点や、よく頂く質問があるためそれらへの現時点での考えを記載していこうと思います。

エンプラ対応もこれでいけるか?
 ちょっとキツイと思っています。「先導と教育」が本質的な役割であることには変わりないですが、エンタープライズの場合「とはいえ…」みたいな事情がかなりあるような印象があります。エンタープライズの場合は「依存してもらうセールス」と「自立を促すセールス」のハイブリッドみたいな感じが最適解なのかなーと考えています。

このままの体制でずっと拡大していくのか?
→ どうやってセールスチームをスケールさせていくか、というところですが、チームは今後「対象業種(セグメント)」で分けて、1チーム7~8人に分けてその中でスクラムセールスチームを構築していくというイメージでいます。

The Modelじゃだめなの?
→ 事業の性質によるのかなと考えています。各SaaSの詳細なビジネスモデル(HorizontalかVerticalか、など)次第で、適切な管理手法を選択することが大切な感じがします。バックオフィス系のHorizontal SaaSなどは特に The Model と相性が良いんじゃないかと妄想してたりしますね。

この話はPLGか、SLGか
→ 僕自身は、正直あまりPLG/SLGみたいな議論は意味ないなーと思っています。単純にビジネスモデルの違いの問題で単価の低いサービスではセールスの人件費かけられないよね、ぐらいの話かなーと。それよりも「依存してもらう」「自立を促す」の方が「売り方」への影響が大きいと考えていて、それに最初に思いっきり触れました。

責任の所在は不明確にならないのか
→ 全員に責任がある、ということで十分と考えています。モラルの問題で、そもそも「不明確になったから責任は負わない」というメンバーがいたら、それは仕組みではなくその人の生き方・仕事への向き合い方の問題のほうが遥かに大きいと考えています。

セールスのモチベーションは保てるのか
→ 社員に確認する限り、今のところは大丈夫なようです。勿論案件成約ごとのインセンティブが無いがゆえに失っている受注もあると思うのですが、SaaSに関して言ってしまうと「強引な受注より長期に関係が続く失注のほうが遥かに良い」と考えているので、受注よりも顧客の課題解決をモチベーションに感じる人に集まって欲しいなと考えています。

また、とはいえ一応個別の受注数、に近い数値はしっかり計測もしているため、「この人が凄い活躍している」ということはある程度は可視化される状態にもなっていて、それは評価にも反映されています。

社員からの抵抗はなかったのか
→ 最初は大変だったようです。ポイントは、「目の前の受注」ではなく「長期の顧客の成功」にフォーカスする意義の理解や習慣を身に着けてもらうこと。最初は大変ですが、慣れて当たり前になってしまえばそこまで難しくはないのかなと思っています。

本当にスクラムセールスだから生産性があがったのか?
→ もしかしたら単純に弊社のセールスメンバーが成長したから、なだけも十分にあります。が、現状このやり方は割とセールスの本質をついているんじゃないかなーという想いがあり本記事を公開しました。

4.5倍の内訳は?
→ 
4.5倍の内訳ですが、あくまで仮説ですが以下のような感じなんじゃないかと考えています。
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仮に四半期あたり 100社の新規案件があり、そのうち20%の受注がとれるとすると、Qごとに 受注者数/リード数 は以下のように推移する
1Q:20/100
2Q:36/180
3Q:48/244
4Q:60/296
5Q:67/336
という感じでQonQ(1Q->5Q)で3.5倍のリードと受注が積み上がることになる。

ポイントは、リード数=商談数 ではないこと。顧客が勝手に検討を進める仕組みを作ることで、商談数と受注数を比例させないで積み上げていく感じができていた、というイメージです。

※補足:最も大きな成長要因

補足というか前提として、今回の受注額の大きな成長要因は、「2021年3Qの受注金額が小さすぎた」ということです。そして、セールス活動はリードが積み上がるので、コツコツ頑張っていれば一定の金額まで新規受注獲得はラクになっていきます。つまり時間が経過したらまぁ当然受注金額は伸びるよね、ということですね。

その一方で、この1年間自分たちなりにかなりの工夫と改善を積み重ねてきたことも事実です。もし4.5倍の生産性の成長に"時間が経過した"以外の要因があるとしたら、間違いなくそれらの工夫と改善の結果も大きく寄与していると思います。

海外では Agile Sales と呼ばれているようでした

この考えや手法は、海外ではどうやら「Agile Sales」と呼ばれているようでした。以下、参考になりそうな記事の紹介です。

The Ultimate Guide to Agile Sales
https://blog.hubspot.com/sales/agile-sales

Agile in Sales
https://resources.scrumalliance.org/Article/agile-in-sales

The ultimate guide to agile sales management
https://www.zendesk.com/blog/ultimate-guide-to-agile-sales-management/

セールスこそがテクノロジーを世に広げる

「テクノロジー」というとエンジニアのものに聞こえてしまうこともあるかもしれませんが、自社プロダクトを当初自分で作った僕自身の経験からして、「テクノロジー」を世の中に広げるためにセールスはなくてはならない存在だと考えています。

セールスが必死に先導・教育しなければ、どんなに良いものを作っても結局誰の手にも届きません。良いプロダクトは届いて初めて価値になるのです。なので、セールスの人こそ、テクノロジーに愛着を持ち、自分自身の生産性を極限まで高める努力をしていけると良いななんてことを思っています。

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ということで、最後までご一読ありがとうございました。ここに書いた内容がなにかしらの参考になったらとても嬉しいです。また、「これ違うんじゃないか?」とか「これよくわからん」みたいな指摘も大歓迎です。「アタリマエのことしか言ってないじゃん」といったご感想をお持ちの方もいるかもしれませんがご容赦ください。

何よりこれからの課題も沢山あります。例えば「単純に人数が少ないからできてるんじゃないの?」といった疑問があり、これから組織を大きくしていくにあたりもっといろんな壁にぶつかるだろうな、と予感しています。そのあたりは、今のメンバーとこれから入っていただく方も含め一つ一つ解決していきたいと考えています。

とはいえ、現段階で全力の改善の結果でしっかりと成果が向上しているのも事実。セールスは当然とても重要で大変奥深いものなので、これからもベストな体制や手法などを追求していきます。

何よりこれを書く過程で高橋の頭がとても整理されました。今後もこういったトライの結果を定期的に共有できればと考えておりますので、皆様引き続き宜しくお願いいたします!


2023年2月8日追記
こちらの記事で紹介させていただいた「スクラムセールス」について、 Japan Sales Collection 2023 にて優勝することができました!


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