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SaaSスタートアップにおける、ネットワーク効果(強い競合優位性)の作り方、そのパターン

シリコンバレーの最も優れた投資家の一人として有名なPeter Thiel氏は、著書や公演のなかで、「大きなビジネスを作っていくためには”独占”が重要」と語り、

そのための重要なファクターとして、
・優れた技術
・ネットワーク効果
・規模の経済
・ブランド
を4点掲げています。

参照:「タテだ。タテに独占しろ」 Paypal創業者ピーター・ティールが語る、10年後も勝てるビジネスのつくりかた

言われてみればどれも納得のもので、たしかにFacebookやAirBnBなど、ゼロからスタートし、世界的な成功事例となった企業は完全にこの4点が当てはまるように見えます。


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今回は、その中でも「SaaSビジネスのネットワーク効果」について、考えてみました。

背景としては、自身がSaaS事業を行っていること、そしてもうひとつ、「ネットワーク効果」と言うと、SNSやCtoCサービスであればとても理解しやすい一方で、SaaSビジネスにおけるネットワーク効果ってぱっとイメージしにくいなーと思ったからです。

そもそも「ネットワーク効果」とは、「ユーザーが増えれば増えるほどその利便性が高まること」と解釈しているのですが、SaaSに関して言うと、”ツール”という側面が大きく、あまり他社が使っているから云々みたいなのは関係なく見えてしまいがちです。

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そこでまずは、国内外のSaaS,BtoBスタートアップで簡単に思いつくもの、検索したらたまたまでてきた事業を30ほどリストアップし、それぞれ、どのような「ネットワーク効果」また、広く解釈して「強い競合優位性」はどこにあるのか、というのを分析してみました。

すると、SaaS,BtoBビジネスにおけるネットワーク効果のありかたは、ざっくりいくつかのカテゴリに分類が可能なようでした。カテゴリ分類は、以下の9つで、その下からそれぞれの簡単な説明をしていきます。
・コミュニティ
・データ
・ノウハウ
・ブランド
・マーケットプレイス
・一元管理
・共有
・他社連携
・多機能化

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コミュニティ

■ネットワーク効果
多くの企業が活用することで、利用者コミュニティ内にノウハウがたまり、ユーザー同士で勝手に助け合うことで、利便性を高めることが出来る

■該当サービス
・Docker
・stripe
・twillio
・sendgrid

ここで言う「コミュニティ」とは、SNSのように、サイト内でコメントなどのやりとりができる機能のことではありません。エンジニア向けサービスがここでは当てはまっていますが、例えば勝手にエンジニア同士で勉強会を開いたり、それぞれがブログにその使い方を書いたりと、多くの人が使うことで、そのノウハウがコミュニティ内で蓄積されて、そのサービスそのものの利便性が高まっていきます。

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データ

■ネットワーク効果
多くの企業が活用することで、名刺の最新データが集まりやすくなり、サービスの利便性が高まる

■該当サービス
・sansan

SanSanは、多くの人が活用することで、名刺データベースの更新頻度、情報の新鮮さがより密に保たれるようになるように見受けられました。これはまさに、ユーザーが多ければ多くほど、その価値が高まっていきます。

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ノウハウ

■ネットワーク効果
多くの企業が活用することで、よいCMS作りのノウハウがたまり、利便性を高めることができる

■該当サービス
・yappli
・tableu
・optimizely
・survey monky


これらのサービスは、ある種そもそも参入障壁が高く、一定の経験がなければサービス提供をすることができません。データビジュアライゼーションツールのTableuなどは、データビジュアライゼーションの知識がそもそも提供側にあるからこそ、サービスの運営が可能になっています。

これらのサービスは、ユーザー企業が多くなり、サービスの提供を重ねる度に、新たなビジュアライゼーションや、より効果的に使ってもらうノウハウが蓄積され、サービスにそれを反映することができます。
それは他のサービスにも同様に当てはまることではありますが、これらのサービスはよりその要素が重要、と考えています。


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ブランド

■ネットワーク効果
多くの企業が活用することで、安心安全のブランドを確立し、より大きな信用を勝ち得ることが出来る

■該当サービス
・Box
・SPEEDA


例えばBoxは、大企業向けのストレージだと思いますが、セキュリティなど”信用”を勝ち得ることが非常に重要なように思います。しかし、その信用を作るには結局導入実績が必要で、大手企業に多く、長く使ってもらうごとに、「特にセキュリティに問題はない」という信用を積み上げる事ができます。

それは、そこらのベンチャーが、はたまた大企業でさえも、0からポッと作れるようなものではありません。

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マーケットプレイス

■ネットワーク効果
多くの企業が活用することで、Salse Force向けアプリケーション開発者が増え、サービスの利便性を高めることが出来る

■該当サービス
・Salseforce
・base
・ゼネフィッツ
・wix
・Zuora
・shopify
・ごちクル

これは比較的わかりやすいかもしれません。多くの企業が利用することで、そのプラットホームにサービスを提供する会社に多くのメリットが生まれます。すると、そのプラットホーム上のサービスが充実し、結果として利用企業がより多くのメリットを享受することができます。

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一元管理

■ネットワーク効果
多くの企業が活用することで、複数企業で働く人が一元にメッセージを管理できるようになる

■該当サービス
・Slack


若干強引ですが、例えばフリーランスの人で、多くの企業の複数のプロジェクトに関わるような場合に、多くの企業がslackを使うことで、全てのコミュニケーションw一箇所で管理できるようになります。また、Slackに関して言うと、マーケットプレイスや他社連携の要素も考えられます。

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共有

■ネットワーク効果
多くの人が活用することで、ファイルの共有がより簡単になる

■該当サービス
・Dropbox
・github


これも比較的わかりやすいと思います。Dropboxは共有が簡単なファイルストレージで、共有相手が多く存在することで、その真価が高まります。

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他社連携

■ネットワーク効果
多くの企業が活用することで、他社から連携の依頼を多く受け付けることができ、サービスの利便性を高めることができる

■該当サービス
・smartHR
・freee
・トレタ
・intercom
・hipchat
・zendesk
・heroku


これらのサービスは、「〜〜社と連携機能を提供開始」といったようなリリースが多く流れてくる印象があります。ユーザー企業が多くなることで、ターゲットが被る企業から連携の興味をもってもらうことができ、それらと連携することで、より便利にサービスを利用できるようになります。SaaSの本命はここなのかなーとも思います。

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多機能化

■ネットワーク効果
多くの企業が活用することで、より多くのニーズを吸収し、より必要な機能を多く取り揃えることができる

■該当サービス
・サイボウズ
・domo

若干のこじ付け感はありますが、たとえばサイボウズなどは、「必要な全部の機能がそろっている」ということをアピールポイントにしています。これは、一筋縄にできることではなく、多くの利用企業がいるからこそ、そのニーズを吸収して、「全部が揃っている」状態を作ることができます。

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以上になります。まだ他にも十分にありそうだし、解釈を間違えている部分もあるかと思いますが、ざっくりこんな感じかと。
また、B向け、と言いつつDropboxのように、殆ど個人に使われているようなものほど、「共有」のネットワークを築きやすく、最も独占的な状況も作られやすいように思いました。

SaaSに関して言うと、基本は複数人以上の社員のいる企業向けに作られる事が多く、また社外に伝える必要のない情報を取り扱うことが多いため、なかなか”共有”のネットワークを築くことは難しいと思います。

しかし、「ノウハウ」「マーケットプレイス」「データ」「他社連携」「多機能化」など、は同時に活用することもできるし、それらを強化していくことが、SaaSによる独占への王道なのかなという印象です。

また、結局のところ、「サービスのコアな価値は何か」というところが重要で、あくまでネットワークもその「サービスのコアな価値」をより強固なものにするためにあるべきものなんだなーと思いました。Dropboxは、単なるクラウドストレージではなく、「簡単に共有できるストレージ」であるからこそ多くの人に使われているし、yappliで考えると、彼らがアプリCMS事業ができるのは、アプリ開発のノウハウがそもそもあったからだと思います。

”30個の事例”だとまだまだ少ないように思ったので、また時間があるときに幾つか追加し、より詳細に分析してみたいところです。

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この記事は、2017-07-14 に書いた個人ブログ記事からの転載です



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