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BtoB SaaS事業を始めて3年を経た今、改めて振り返る成功のための重要事項

「口コミ獲得支援サービス coco」として現在のcocoを立ち上げてから気づけば3年、とても早くて濃い、充実した時間を過ごしました。またその反対に、悔しいことも、間違えたことも、無駄にしてしまったことも、たくさんたくさんありました。

そんな中、ふとこみ上げてきた反省をツイートしたところ、そこそこ反応を頂きました。

ある程度はニーズがあるのかなと思ったので、3年前の自分に毎朝毎晩しつこく言い聞かせたい、それらの重要事項を改めて整理してみようと思います。

SaaSとは提供者に不利な地獄のドMビジネス。だからこそこれからのメインストリームとなる。

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参照:なぜSaaSビジネスは世界規模で急成長することができるのか?

ツイートの内容に入る前に、「なんでBtoB SaaSって今こんなに注目されているの?」ということに関する、僕なりの理解を書いておこうと思います。

これからはSaaSだ!と多くの人が騒ぐ中で、なぜ「SaaS」がカテゴリとして注目されるのか、以前は不思議で不思議でしょうがなかったのですが、実際に始めてみて、SaaSには一定のフォーマットが有り、成長カテゴリとして注目される十分な理由があることに気づきました。

これは、BtoB SaaSにこれから参入する、または参入したての人全員に必ず知っておいて欲しいことにもなります。

夢の「チャリンチャリン」モデル

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SaaSの多くは月額課金型のビジネスモデルであり、その月額課金型のビジネスモデルのことを、あたかも打ち出の小槌のような「チャリンチャリン」モデルと呼ぶ方がいます。

毎月定期収入が決まって入ってくるビジネスなので「常に既存顧客からの再契約を獲得できるかわからない事業」をしていた人からすれば「チャリンチャリンとお金が常に振り込まれ続ける夢のようなビジネスモデル」のように見えることは確かに理解できます。

しかし、当然のことながらビジネスはそう簡単ではありません。本当にそんな簡単にチャリンチャリンするのだれば、みんなそれをやるし、世界中の全企業が夢のチャリンチャリンモデルにこぞって押し寄せることでしょう。

いつでも解約される商品は儲からない

ではなぜ現実はそうはならないか。単純な話で言ってしまえば、月額課金モデルは儲からないからです。なんでかというと、商品やサービスに不満があったり、もっと良い商品が見つかればいつでもそれに乗り換えることができるからです。

乗り換えられてしまえば、こちらが更に良い商品に進化するまで残念ながらお客様は戻らず、更に新規顧客獲得を獲得しては解約され、ということを繰り返すことになります。実際に事業に触れたことがある人であれば、「リピートされない」ということがどんなに事業上厳しい状況であるかは想像に難くないかと思います。

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Netflixの「いつでも手軽に解約できる」契約形態は消費者側からすればかなり魅力的ですが、提供側からしたらたまったものではありません。

夢の「チャリンチャリンモデル」を描き月額課金モデルのサービスを開始すると、多くの人が「やっぱりできれば10年縛りの契約にしてくれないか」と、サブスクとは大きく離れたモデルへの憧れを強くすることでしょう。

月額課金は顧客の要請により生まれる

では何故今多くの事業者が「全く儲からない月額課金モデル」を選択するか。それは、上述のNetflixの例の通り「顧客からしたらそれが最も都合がよい」からです。

本当に良いかわからない商品に高いお金をかけて一気に買うより、かいつまむような形でまずは小さく試せるほうを顧客は選んでしまう。顧客に選ばれなければ企業は存続できないから、やむを得ず「儲からないけど顧客が喜んでくれる月額課金モデル」を選択する。それが月額課金が今増えている背景です。

つまり、月額課金とは顧客の要請により生まれる仕組みであり、そしてそれはそのままSaaSの本質的な存在意義にも繋がります。

SaaSの本質は仕組み化された顧客志向。だからこそこれからの主流となる。

SaaSの本質とは徹底した顧客志向に有り、しかもそれが提供側の意思だけによるものではなく、仕組みとしてそうならざるを得なくなっていることが特徴です。

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zoomとmeetは無料でハイクオリティな機能を活用できるが、苛烈な競争がなければ、本当は彼らもできれば高額な有料ツールとして出したかったはず。

いつでも解約できるからこそ、安易な独占を許さず常に顧客に有利なサービスが提供されるよう「身を削る地獄のサービス向上合戦」が無制限に繰り広げられる。そこから脱しようと長期契約前提のみにすれば、そもそも選択肢に入れてもらえない。

顧客から選ばれ続けるための唯一の道は「顧客に愛される商品・サービスを提供し、それをアップデートし続ける」ことだけ。残念ながら例外は存在しません。

しかしそれを実現できるからこそ、BtoB SaaSは信頼足り得るビジネスモデルとして、その確固たる地位を拡大し続けているのです。

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補足1:優れたSaaSはそもそも月額課金とは限らない

前段の通り、月額課金とは顧客志向のための手段であって、必須条件ではありません。十分に実績と信頼があり、小さく試す必要がないプロダクト(例えばセールスフォース)は、実際最低契約期間が1年だったりします。

単純に毎月契約更新や振込み作業が発生するのは面倒なので、どうせずっと使うものだったら最初から長期契約でもあまり問題は発生しません。

他にも、そもそも1ヶ月では価値を産めない商品もまた、最低契約期間を「最低限価値を実感するための期間」に設定したほうが実は顧客にとっても都合が良い(顧客自身に適切な判断をしてもらうのは難しい場合)とも考えられます。

そういう意味では、もしかしたら、逆に週次とか1日単位の課金体系のサービスで大きくなるものもあるかもしれません。

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補足2:ソフトウェアこそが月額課金モデルを可能なものにする

上述の通り「顧客志向なものが勝つ」というシンプルな話であれば、もっと昔からそのモデルが主流でも良かったはずです。では何故今までそうならなかったというと、あまりに競争が苛烈になりすぎて「今までは提供側が利益を出すことができなかった」からです。

事業の競争に打ち勝ち、利益を上げていくためには、「正当に得た、圧倒的な競合優位性」が必要です。

これだけでも本一冊成り立ちそうな話題なため詳細は省きますが、「使えば使うほど利便性が高まり」「その利便性が他者と最も効率よく共有される」ことにより、事業は強固な優位性を得ることになります。それは、月額課金どころではない「顧客志向の究極系」とも表現できます。

それによりSaaSは他者との競争から脱し、ようやくまともな利益をあげられるようになります。それは、ソフトウェア、インターネット、そしてそこから生まれるデータの有効活用ができなければ成り立ちませんでした。だから、今まで月額課金モデルで大きくなれる事業者がなかなか存在しなかったのです。

SaaSと月額課金がセットで語られることが多いのもこの理由です。多少の例外はあれど、ソフトウェアでなければ、そもそも月額課金は成り立たないのです。

「苛烈な競争の中で、顧客に愛される商品・サービスを提供し、それをアップデートし続ける」ために

やっとツイートの内容に入ります。

SaaSは「苛烈な競争の中で、顧客に愛される商品・サービスを提供し、それをアップデートし続ける」必要があり、そのための重要事項と考えたことが上記の7選になります。文章の構成上ちょっと順番や文言変えたりしてます。

10年使われるプロダクトを作ろう

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セールスフォースは創業20年を突破してなお一貫してセールスフォースのアップデートを継続している。

今までの話ではサクッと「リピートされなかったら利益でないよね」という前提で書かせてもらっていたのですが、SaaSに限った話でさらにこの部分を掘り下げていきたいと思います。

Churnが絶対ダメな5つの理由

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ChurnRateの少しの違いで将来の売上が大きく変わる図

上記の図は、わかりやすく「Churnが低いほうが儲かるよ」という図なのですが、今回の話はそれだけではなく、「Churnがあるというのはそのまま死を意味するよ」という趣旨になります。

実際にSaaSを運営していると、実はChurnがある程度あっても大丈夫そうな気もしてしまう、という罠があり、僕自身も一時期ハマっていました。しかし、SaaSで大きな事業を作ろうとするならChurnは絶対に発生させてはいけません。

Churnが絶対ダメな理由①.獲得コストが回収できないから

まずわかりやすい話として、月額10万円のサービスの、1顧客獲得コストが30万円だった場合、どう考えても最低3ヶ月使ってもらわなければ利益は出ません。これは誰にでもわかると思いますが、まずは1つの大前提となります。(初期費用で稼ぐ、等の例外もありますが割愛します。)

Churnが絶対ダメな理由②.獲得コストを小さく維持することは不可能だから

では「月額10万円のサービスの1顧客獲得コストが例えば1万円であれば、1ヶ月つかってもらうだけで9万円の利益が出るし、それで良いのでは?」というのはありがちな議論だと思います。

確かにその状態がずっと維持できるのであれば、それで問題なありません。しかし前提として上述の通り、SaaSは常に苛烈な競争環境の中にいます。そして、その状況下で「1万円の獲得コストで10万円の売上がある」サービスは存在が知れ渡るや否やまたたく間に10社以上の競合が生まれることでしょう。

それだけで獲得コストは10倍以上に跳ね上がり(単純計算で顧客に選ばれる確率が 1/10 以下になるからです)、あっという間に利益がなくなります。その状況下で利益をだすには、「長く使われる」以外有りません。

Churnが絶対ダメな理由③.問題ある商品に顧客は戻って来ないから

もう一つの問題として、解約される、ということは、ざっくり言ってしまえば「商品に問題がある」ということに他なりません。

それでも商品を改善していけば、、というのも考えてしまいますが、消費者の心理として、一度ダメだと思った商品にアップデートがあったとしてもなかなか「もう一度試そう」と思えないのが実際のところでしょう。

Churnが絶対ダメな理由④.そう簡単に市場規模は増えないから

そして、もう一つキツイポイントが、特に日本においてはそもそも人口が縮小傾向な以上、あまり市場規模は大きくなりません。(オンプレからクラウドへ、みたいな意味でクラウド市場規模が伸びることはありますが、世の中の課題の総量が変わるわけではありません)

そこで、上記の通り1度でも信用を失ってしまうことは、将来もっとサービスがよくなってからアプローチするときに不利に働きます。

Churnが絶対ダメな理由⑤.もっと安い商品に置き換えられてしまうから

更に別の観点としては、「解約したけどまた戻ってくるかもしれない」パターンです。実際にこれはcocoでも発生していて、戻ってきてくれる事自体は嬉しいですが、しかし状況としては良い状況では有りません。

解約してから戻ってきてくれるパターンは、「課題と思っていたことが、やっぱり課題じゃなくなったから一旦解約。でもやっぱ課題感がつよくなってきたから再契約」とか「予算の問題で一旦やめたけど、やっぱ再開」みたいなパターンです。

これらに共通する問題点は、そもそも「課題感が弱い」ということです。課題感が弱い場合に選ばれるのはもっと安い商品であり、価格競争になってしまえば利益はでません。予算の問題で〜というのもそれっぽいけど、要は「優先順位が低い」ということです。

そこに一生懸命リーチしたところで、もっと安く手軽なソリューションが選ばれ続けるので、そこで戦う事業者も「その商品はリード獲得で使う」と言ったような収益には期待しないサービスが増えてくるでしょう。これはSaaSで勝負している、とは言いません。

数値遊びの罠

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SaaSを運営している人であれば誰でも聞いたことがあるであろう、「LTV/CAC > 3」が成り立っていれば健全、という図ですが、これだけ見てしまうことには大きな罠があります。

「LTVが低い(Churn Rateが高い)場合、CACを下げればいいんでしょ?」という考えに陥ってしまうことです。しかし、上述の通り、そもそも「CACを下げる」という選択肢はSaaSにはほぼ存在しません。

おそらくCACを下げることができるのは、LTVが極限まで高まった独占状態のプロダクトで完全に競合がいない、くらいの状況までたどり着けた究極のSaaS(実在するのかは不明)だけでしょう。

安易な道からの誘惑

CACを下げれば、一時的に利益はあがるかもしれません。また、一時的にCACを下げることは、たしかに可能です。SEOを強化し、あらゆるグロースハックを行い、セルフサーブで利用できるようにし、広告を最適化し、とたゆまない努力を続ければCACは下がります。

しかし、その間にその労力を「もっとサービスを良くすること」または「もっとサービスを安くすること」に使っていた競合がいる場合、顧客は誰を選ぶでしょうか。

顧客の課題感が大きい場合は「もっと良いサービス」を選び、課題感が小さい場合は「もっと安いサービス」を選びます。そして「グロースハックをしていたサービス」が選ばれることはかなり少数となるでしょう。

BtoB SaaSは仕事のインフラになる以外道はない

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ということで、BtoB SaaSは10年以上に渡る長期に使われるサービスをつくならなければ、SaaS運営企業として大きくなることはありません。

そしてそれは、ITスタートアップであればslackのように、エンジニアであればatrassianのように、営業担当者であればセールスフォースのように、業務にはなくてはならない、「仕事のインフラたる存在」であることが必須要件となります。

仕事のインフラ(≒マストハブなプロダクト)となるための条件

もちろん、ざっくり言ってしまえば「利益への貢献度」が高いほどマストハブなSaaSと言えてしまうのですが、slack、atrassian、セールスフォース等の優れたSaaSが特段インフラと感じられるのには以下の2つの要件が存在します。

1. そのSaaSがユニットエコノミクスの改善に大きく寄与している
2. 個別最適によりさらにその改善の度合が大きくなっている

1は当たり前すぎますが、案外計測が難しいため、そうでもないものでも導入されるようなことが起きています。2は、それがなければ競合にいつか負けるためインフラとは感じられなくなってしまうことを意味しています。

要は、仕事のインフラになる、というのは「そのSaaS無しで現在のユニットエコノミクスが成り立たなくなる」ということだと捉えています。

Churn Rateを下げるためにやるべきこと

ざっくりですが、「よりよいサービスにする」「ターゲットと訴求ポイントを変える」の2つしかありません。それは当たり前なんですが、僕の印象としては多くの人が前者に固執しがちな印象があります。

しかし、サービスを良くすることによるChurnRate減少のインパクトは実は小さいです。なぜなら、課題が小さいところで良いサービスを提供しても、そもそも相手の興味が存在しないからです。

それ以上に「より適切なターゲットに、より適切な訴求をできているか」ということを検証するのが、特により小さいフェーズでは有効な取り組みとなってきます。

Churnが許されるパターン

また、散々Churnは絶対ダメと主張してきたとはいえ、実際のところChurn Rate0%のSaaSはおそらく存在しません。当然いくつかの例外的なパターンでは、Churnはやむを得ないものと判断するしか有りません。

やむを得ないChurnとは、以下の2つのパターンになります。

1. プロダクトのターゲットとしているセグメントではない
2. 導入企業がなんらかの理由でなくなってしまった

1も本来は避けるべきなんですが、それを意識しすぎるとセルフサーブ化ができなくなったり、無理にそのChurnを抑えようとして間違えた努力をしてしまうことになるため、1も許容ラインと考えています。

顧客の定義がめちゃくちゃ重要

これはソフトバンク孫社長の非常に有名な名言ですが、SaaSにおける「登る山」とは「主要な顧客の定義」であると考えています。そしてそれは、業種や企業規模、といった客観的なステータスではなく、具体的な企業名を上げてその会社を「主要な顧客」と定義することを意味しています。

同業種でも、あらゆる企業が違う課題を抱えている

例えば、同じようなカフェだけを考えてみても、スタバとタリーズではおそらく異なる課題を抱えていることは想像できると思います。つまり、「全国チェーンのカフェ」をざっくり対象にするだけでは、実はよいサービスに磨き込むことは非常に難しいです。

また、仮にそれぞれの共通の課題感を把握し、その解決のためのプロダクトを開発したとしても、実用の場面で必ずオペレーションに違いが生じるため、異なる要望が発生します。

より対象が多い要望を採用すればいいのでは?という考えもありますが、それが共通していれば悩む必要はなく実装すればいいし、しかし実際のところは大体の場合で微妙にずれた様々な要求を受け取ることになります。

そういったときに、常にSaaS運営事業者は「どちらに合わせるか」という選択を迫られることになり、そのときに判断の軸となるのが「主要な顧客」に近い像を持つ会社になります。

課題の質が高い顧客へのフォーカスを

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少し抽象的な話になってしまうのですが、「質の高い課題」を解決するサービスは、「質の低い課題」の解決も可能です。しかし、その逆は有りえません。

顧客の集合を山脈として捉えたときに、より高い山にいる(より質の高い課題を抱えている)顧客に焦点を当てることで、その後の展開をより有利に進めることができるようになります。

では、その課題の質の高低をどのように判断するか。非常に難しいところではあるのですが、「もっともその領域の業務を上手くやっているはずの会社が抱える課題」こそが最も質の高い課題である可能性が高い、と考えています。

例えば、ブランド認知が高いアパレルAと、ブランド認知が低いアパレルBの両者に対して認知度を高めるSaaSを提供する場合は、「ブランド認知が高いアパレルA」の抱える課題に対してフォーカスをしたほうが、今後「ブランド認知が高いアパレルB」に対してもサービス提供できる可能性が高まる、というイメージです。

顧客と共に成長する

また、SaaSは顧客とともに成長する、という感覚も非常に重要であると考えています。顧客からのフィードバックこそがプロダクトに重要なものである、ということは、顧客にサービスを提供して顧客の成長をサポートする中で、SaaSもまた良質なフィードバックを得て成長していく、という流れがあります。

そのときに、より質の高い課題を持っている顧客を選ぶか、質の低い課題を持っている顧客を選ぶかで、フィードバックの質もまた変わってしまいます。そういった観点でも、より高い山にいる(質の高い課題をもった)顧客を主要な顧客として設定することが非常に重要になります。

苛烈な競争の中でのポジショニング

「顧客選び」では、上記のようなプロダクト開発における視点の他に、もう一つ競争の中でのポジショニングの問題もあります。SaaSは常に苛烈な競争に晒されるため、「自社はここでは絶対負けていけない」という明確なポジショニングを設定することが重要になります。

そういった意味でも、主要な顧客像を設定し、そこで負けないための戦略、負けては行けない理由をより深く設定しておくことがよりことを有利に進めることに繋がります。

後で取り返せない山を取りに行く

競争優位の観点でも、「より質の高い課題」を持った顧客へのフォーカスが重要です。なぜなら質の低い課題を持った顧客を先に競合に取られたとしても、後から巻き返すことはいくらでもできるからです。

SaaSにおける「オセロの4隅」とは、最も良質な課題を持った顧客であり、彼らから絶対に解約されないプロダクトを開発している限り、先にほかを取られたとしてもいつか巻き返すチャンスは巡ってきます。

プライシングは気持ち高めに

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プライシングは、SaaSプレイヤー全員の万年の悩みとも言えるかもしれないですが、僕自身まだまだ迷いながらやっているところもあります。しかしその中でもいくつか実体験を通して感じたことがあるので、それらをメモ程度ですが共有しておこうと思います。

サービスに価値を感じる人に届けたほうがいい

非常に単純な話になってしまうのですが、サービスに高い料金を払ってくれる人ほど、サービスに高い価値を感じてくれている可能性は高いです。

そして、それらの人のほうが「仕事のインフラになれる」可能性も「質の高い課題を持っている可能性」も高いため、料金は迷ったら若干高めな方に設定することをおすすめします。

やすかろう悪かろうは続かない

逆に、「安くないと使わない」という顧客は課題の質が低い可能性も高く、それに合わせて質を落としたプロダクトを作ったとしても、それより更に安いサービスが出てきて「リード獲得ツール」へと格落ちしてしまいます。

その領域では、そもそも求められているのはSaaSプロダクトではなく、全く別のなにかになってしまうので、そこで戦うことはやめて極力高い予算を支払ってくれる場所へと移動するのが適切でしょう。

SaaSという名の総合格闘技

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SaaSの本質は徹底した顧客志向であり、つまりビジネスモデル上許されるのであれば、ソフトウェアにこだわること無く人手も含めたあらゆる手段を「サービス」と考えるべきです。そういった意味で、SaaSはビジネス上の総合格闘技とも例えられます。

「ソフトウェアに合わせて人を変える」マーケ&セールスの役割

マーケティングやセールスがビジネス上重要なのは言わずもがなですが、「顧客志向」というキーワードで切り取ると、また別の意味でその重要性が浮き彫りになります。

基本的に、多くの企業では、まだまだ「ITツール」は未知のもので、windows95が発売される以前に創業されたような会社であれば、当然会社の価値観やオペレーションは「ITがない時代」のものに端を発しています。

しかし、だからこそ彼らにSaaSを導入することは大きな価値を生みます。そしてそのために必要なのが、「ソフトウェアに合わせて人を変える」ということを企業に対する働きかけによって推進することです。

それは、いくらプロダクト開発を頑張っても不可能に近い取り組みで、SaaS導入のためにオペレーションを変え、ソフトウェアの価値が最大限高まる体制を構築することで、SaaS導入企業の利益を最大化することの必要性を喚起し、促進することこそがマーケやセールスが果たすべき「顧客志向」の役割になります。

結果を最大化するためのカスタマーサクセス

大体の場合、プロダクトによる課題解決ついでに、その周辺課題を解決することで、プロダクトにより得られる結果をさらに大きくすることができます。それもビジネスモデル上許されるなら積極的にサービスとして提供すべきで、それを「カスタマーサクセス」と考えています。

ある種それはコンサルタントにも近い存在で、ただプロダクトの使い方を教えるカスタマーサポート、ではなく、あらゆる手段を駆使して得られる結果を最大化することに取り組むのがカスタマーサクセスです。

もちろん、プロダクトから得られるデータと関係ないことまではやる必要はありません。なぜならそれであればその会社名義ではなく独立したコンサルタントとして業務をしたほうが、その人の生産性が高まるからです。

「プロダクトから得られるデータも含め、周辺のあらゆる手段を駆使して得られる結果を最大化する」ということも、明確にプロダクトの中に組み込まれていくべきでしょう。

ファイナンスもまた手段の一つ

他にも、徹底した顧客志向のための手段では「ファイナンス」も存在します。競合より先行してより良いサービスを作るために資金調達を行いそれを加速することは、顧客がより早くより良いサービスにアクセスすることを可能にします。

とにかく、SaaSでは、プロダクトだけ、セールスだけ、等々得意領域に縛られるのではなく、ソフトウェアとデータを軸に「あらゆる手段を駆使して徹底した顧客志向を実現する」という姿勢が重要になります。

ソフトウェア開発力が大きな強みとなる

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参照元:「技術的負債: 組織はどう対峙すべきか

SaaSは機能開発により成長する

SaaSは総合格闘技、とはいえ、Software as a Serviceというくらいなのでその中核はやはりソフトウェアになります。本物の格闘技に例えるなら、体そのものがソフトウェア、というイメージでしょうか。セールスはパンチ、マーケはキック、そんな感じです。(ちょっと違うかも)

そして、すごくざっくりとした解釈をしてしまうとSaaSは機能開発により成長します。新たな機能を作ると新たな市場へのアプローチや、より深い顧客の課題が解決可能になるからです。

技術的負債が事業成長の鈍化に直結する

つまり、SaaSの成長速度は開発の生産性とも比例する、と解釈できます(もちろんそんな単純な話ではないですが!)。その場合、技術的負債がたまり開発の生産性が下がることは、事業成長の鈍化をそのまま意味します。

特にSaaS立ち上げ当初は顧客のあらゆる要望に答えようと様々な複雑な機能を雑に作ってしまったり、まずは検証、という言い訳の元後先考えない行動が増えますが、仮説検証スピードを落とさない程度に丁寧な開発を意識することが重要です。

決済はとりあえず最もモダンなツールを選択すべき

また、多くのSaaS事業者の悩みとして、決済の扱いがあります。なぜかというと、まず大体の場合契約プランが何パターンに分かれるのと、顧客によりクレジットカードか銀行振込かの要望が異なるからです。

それに加えて、BtoBの取引だとどうしても営業時に「ちょっと特別サービス」で安くする、なんてことも発生してしまいます。もちろんそれらを避けて「完全に画一的な支払い」にすることも可能ですが、「どちらがより顧客志向か」は注意深く判断する必要があります。

そういった問題に対する銀の弾丸は存在しないのが現状ですが、ただし最もモダンとされる決済ツールのほうが、そういった複雑さへの対応力が高い可能性があります。(stripeがすごい、というだけかもしれませんが)

もし今まで慣れている決済サービスがあるからそちらを使う、と判断しているようでしたら、一旦勇気を出して最もモダンと言われる決済サービスの利用を検討することをおすすめします。

数値を焦らず積み上げ続ける

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もちろんスタートアップであれば急成長は必須なので、基本的には常に右肩上がりである必要はありますが、それを最初から追い求めすぎると安易な打ち手が増えてかえってスピードが鈍化することもあります。

実績を出すのに時間がかかる

時間がかかる原因の一つとして、SaaSを導入した成果が明確に得られるには時間がかかる、ということがあります。セールスフォース等のCRMなども最たる例だと思いますが、まずデータを入力し、運用フローに載せ、データがまともに集まり、そこで初めて改善の打ち手が可能となり、そしてその結果を得る。

おそらく如何にスムーズに進めても最低3ヶ月はかかるし、大きな企業であれば1年以上かかることもざらにあるでしょう。その間はどうしても他社にも「このSaaSを使えばこんな結果が得られる」ということが伝えにくいし、信用を得るのもそれだけ時間がかかってしまいます。

その間は、数値を焦るのではなく顧客の実績を出すことにフォーカスし、愚直にサービスの改善に努めていくのが正解でしょう。

説得には労力がかかる

SaaSの導入には、費用以外にもオペレーションの変更や、場合によっては組織の価値観そのものを変えていく必要があります。相手が個人事業主であれば一人に働きかえればいいですが、相手が大きな組織に慣ればなるほど、「説得」の相手が増えることになります。

もちろんその速度や効率性を高める努力は常に行うべきですが、それが最初に上手くできないからと「自社のプロダクトには価値がない」「将来性がない」と考えるのは早計だと思います。

もしそのプロダクトを使うことがその会社に利益をもたらすことに確信が持てるなら、粘り強く説得のトライを続けていくべきと考えています。

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ここからはツイートにはありませんが、他にも実はめちゃくちゃ重要、と考えている内容になります。

複利的にサービスが良くなる仕組みを

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アインシュタインのこんな名言がありますが、「顧客志向の良いサービス度合い」を複利的にサービス改善を行うことで、競合と大きな差をつけることができます。それは逆に、競合にやられてしまえば大敗を喫することになる、とも考えられます。

顧客志向のためのあらゆる手段における人の限界

SaaSは顧客志向のためにあらゆる手段を尽くします。しかし、人手による改善やサービス提供では、必ず物理的な限界を迎えるし、人にはそこまで大差はないためそれだけ競合と大差をつけることは非常に難しいです。

使われるほどサービスが便利になる仕組み

そこで重要になるのが、「使われれば使われるほどサービスが良くなっていく仕組み」になります。具体的には、

・データが増えることにより、ツールそのものの利便性が高まる(CRMはその典型例)
・事業者間でのデータ共有を促し、グッドケースや良いノウハウが自動的に交換されるよう設計する
・機械学習により、人の手を会すこと無くアルゴリズムをブラッシュアップする

といった取り組みが考えられます。

これらはネットワーク効果とも呼ばれ、あまりに強力であることから様々な記事が見つかります。これらは、あったらより良いもの、ではなく、「ネットワーク効果は、SaaSで利益を出すための唯一絶対の解」として捉えるべきです。

これができるからこそ、SaaSは利益を出すことのできるビジネスモデルとしてその地位を確立しているのです。

最強の競合「受託開発」との対峙

SaaSに向き合うと、必ず「受託開発」との対峙も発生します。顧客の課題感が大きく、莫大な予算がある場合、オリジナルの開発も十分に対応できてしまうからです。

しかし、受託開発とSaaSのどちらが顧客志向かというところで、実はSaaSが軍配を上げつつあるのが現状になります。

正確には「SaaS+受託開発」かもしれませんが、上述の「使われれば使われるほど便利になる仕組み」が搭載されたSaaSのノウハウは、受託開発では決して提供することができません。その価値が「オリジナル開発」より高いと認知されれば、当然選ばれるのはSaaSとなることは目に見えています。

全利益の大半は10年以上後の利益から生まれる

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出典:https://strainer.jp/companies/6030/performance?attributes%5B%5D=revenue

これはSaaSに限らないスタートアップの話でもありますが、例えばセールスフォースの直近年度の売上高は2兆円近くあります。実際の利益はまだ投資の最中なのでそこまで莫大では有りませんが、もし仮に、全力で利益を出しに行ったら5000億円程度の利益はすぐにひねり出すことができるでしょう。

そう考えると、もし仮に2015年以前に全力で利益を出しに行っていたとしても、おそらくそれらの利益の総額は2020年の利益1年で回収できることになってしまいます。そして、それはまだまだ続くので、結局それまでの利益は微々たる存在になってしまいます。

身を削る地獄の顧客志向から始まり、データを活用した利益体質へ

SaaSで圧倒的な競争優位を築き莫大な利益を上げることは至難の技ですが、しかし企業である以上当然それを実現しなければいけません。

そのために重要なのは、最初は身を削る地獄のようなサービス向上合戦から始まり、そこで得たデータを元に、人の力では追いつくことができないほど圧倒的に優位な状況を作ることです。それによって、ようやくSaaS企業は利益を得ることが可能になります。

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以上になります。書きながら自分で引っかかったことを考え直したり、調べ直したりしていたら随分と長くなってしまいました。

しかも結局内容の大半は多くの先人が語っていることばかりです。実際やって見ないでもわかったはずのことはたくさんあったので、これを1ヶ月とかで理解できるようになっていくことが、僕の経営者としての成長なんだなと思いました。

最後までご一読頂きありがとうございます。僕自身まだまだ考え中なところ、よくわかっていないことも当然たくさんあるので、ツッコミやディスカッションなど大歓迎なのでぜひぜひお気軽にコメントください。

これを読んで高橋と話してみたい!なんて思っていただいた方も、twitter等のSNSからお気軽にご連絡ください!ほぼzoomになると思いますが、極力全て対応させていただきます。


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