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【世界遺産とは何だったのか? かわいい子には旅をさせろのリアル④】日々の雑感 day75

群言堂の皆さんをはじめとした石見銀山のこの古い町に暮らす人々が「世界遺産はいらない」と抵抗してきたのは、やはりオーバーツーリズムによるデメリットを直観していたからとも言えそうです。

特に最初から明確に課題意識をしていたというよりも、町として大事にしているスタイルや価値観からぶれなかったということ。そこを軸に、世界遺産登録後もその部分に対してはきちんと言うべきことを言って、現在の状況、状態をつくってきたわけです。その過程がいかに苦難であったかは当事者ではない我々が語る部分ではないのかもしれません。

☆オーバーツーリズムが破壊する地域資産と地域の未来

【世界遺産登録から3カ月は、人が大勢押し寄せて、この町にお金を落としていった。しかし3カ月を過ぎると、徐々に訪れる人は減っていきました。ブームをつくっては荒廃させていく消費型の観光地は日本各地に山ほどあります。黄金成長率を無視し、単に目先の利益だけを追いかけた結果です】

【私の協議会長としての仕事の一つに、世界遺産に向けて町に出店したいと外部から見える商業社に対応することがありました。それぞれの商業者とお会いし、この町に出店する目的や店舗運営の考え方をお聞きしながら、こちらからもこの町にはこの町のルールがあることを説明して、イベント的に出店されて短期間で撤退されては困る、といった話をしました。そういったことをともに理解をしたうえで進めていきましょうと。結局、出店された方の9割以上が撤退されました】

【大きな看板をあちこちに出そうとするので、それは町の景観を壊すからやめてほしいと。そもそもこの町は重伝建地区に選定されたときから、看板を排除してきた歴史があるのです】

まさに世界〇〇という肩書きは「狂騒曲」のようなもので、屋久島ではオーバーツーリズムを危惧した首長が規制をしようとして「全会一致で反対」されたこともありましたね。始まってしまうとこの狂騒曲は誰も止められないのです。

僕と仲間たちはこの黄金率を意識して伊那エリアを「秘密基地感を大事に」と呼んでいます。無理に宣伝喧伝してそこにお金をかけて短期的な人集めをするのではなく、エリアにきちんと投資をして、人を育んで、受け入れられる人々をゆるやかにあげていく。そんな戦略イメージからのワードです。

もちろんうちのエリアも官民一体というわけではありません。行政さんの中にもこうした動きを一緒にやりたいという人がいて提案をあげてくれましたが「そういうのは東京の大きい会社とやるもんだ」とその提案書をシュレッダーした古い考え方の上役がいたりします。彼らは東京の会社に地元のお金を流すのが正義で、地元にはボランティアでやらせとけみたいな考え方を示します。東京から招き、成果、成功を見せる移住者や移ってきた会社であっても、地元にきたら「東京」という肩書きの下に置きます。それもまたこの国の「行政だけの常識」としてリアル。そして地域経済をただ疲弊させていきます。その点は石見もどこも変わらない・というわけです。

☆世界遺産とはライフスタイルの世界シェア。インではなくアウトに使え

【2007年7月、石見銀山は世界遺産に登録されました。この日、東京大学教授(当時)で都市計画を専門に研究されている西村幸夫先生から、私たちあてにメールをいただきました。

石見銀山が世界遺産に登録されて、あなたたちはがっかりしているかもしれない。でもせっかく世界遺産になったのだから、そんじょそこらの世界遺産ではなく、イタリアの小さな村からアンチファーストフードに端を発してスローフードが世界中に広まったように、世界標準になるようなライフスタイルを発信してほしい

西村先生は、私たちのことを「この会社は、単に雑貨業でもなく、アパレル業でもなく、この夫婦の生き方が産業になっている」とご著書の中でご紹介くださっていた方】

松葉登美さんは当時のことを「私たちはこのメールにとても励まされ、そしてひょっとしたら本当にそれが可能かもしれないと思い始めました」と綴られています。

つまりですが、世界遺産という名の「本質」はライフスタイルの発信にこそあって、観光集客の為にあるものではないということです。僕は登美さんの話を聞きながら、自分の地域にいる、自分らしいライフスタイルを創りあげ、日々を暮らす人々の顔が浮かんできました。うん。うちはいい地域、いいエリアだと思います。

そして、国内ローカルでこうした「らしいライフスタイル」を生きている人々こそお宝なのだとまた感じ入るわけです。そういう人々に会いにいける今の自分の状態は、とてもよいものだといえます。

☆責任とは同じ失敗を繰り返さないこと

さて、懸命に良かれと思って、世界遺産になれば地域経済が救われると思って、一生懸命に行政がやればやるほど、やった結果は真逆になっていきました。短期的な私利私欲の為に無理やりな理論を構築した都会のコンサルを盲信し、観光ピークは3か月で終わり、招いた外部企業は旨味がなくなれば9割が約束を反故にして撤退。

個人的には、こうした状況で「責任を負わない」という行政文化こそが行政機能のアップデートを阻害しているように思っています。OECD2030では、

新たな価値を創造する力
対立やジレンマを克服する力
責任ある行動をとる力

を重要な指標としていますが、ここまでの経緯でこの三つの力をどれだけ発揮できていたと言えるでしょうか?

僕は個人的にこうした行政のジレンマを解決するためにも

・失敗への寛容と成果指標の明確化
・現場と世界を知るための機会創出
・心理的安全性を向上させるコミュニケーション力向上

に関してきちんとHR(人事)投資をすべきだと思いますし、こうした人材育成に関するお金の使い方には民人も寛容に見守っていくとよいように思います。ひきこもって失敗しないまま成長もない・というキャリアが王道ではなく、外に飛び出して失敗しまくってただ成長はすごい!というキャリアチェンジをして頂ければと願ってやまないわけです。

もはや文化的に同じ失敗を繰り返す組織が変わるのは、たった一つの考え方を変えて、たった一つの行動を変えていく。その積み重ねしかありません。







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