#024 【20文字要約】東証の市場再編の目的
東証の市場再編が2022年4月1日に予定されています。対象になるのは、東京証券取引所に上場する全ての企業だということは、多くの方がご存知だと思います。
ところが、新聞やニュースを追っているだけでは、
・なぜ市場再編を行うのか?
・市場がどのように変わるのか?
・社会的なインパクトは何か?
といった背景や詳細を把握することは困難です。
そこで今回は、浅田すぐる氏の著書『すべての知識を「20字」でまとめる 紙1枚!独学法』に沿って事実関係を簡単に整理します。
今回の東証市場再編の目的をヒトコトで言うと「東証1部のぬるま湯を打破して稼ぐ日本企業を作る」になります。
上記のシートに沿って、3つのポイントを説明します。
1.なぜ東証の市場再編を行うのか?
1つ目の理由は、各市場のコンセプトが曖昧だというものです。
現在、東証には5つの市場があります。それぞれの市場の位置づけが曖昧で分かりにくく投資家の興味・関心を損なっているとの指摘があります。
機能の重複も見られます。例えば、マザーズとジャスダックはともに新興市場と位置づけられています。両市場は、2013年の東証・大証(大阪証券取引所)の統合後も整理されないまま存続してきたという経緯があります。
2つ目の理由は、東証1部上場のハードルが低すぎるという点です。
東証1部上場に必要な時価総額はかつて500億円でした。ところが、リーマンショックで新規上場が急減したことから、2012年に250億円に引き下げられた経緯があります。
その結果として東証1部が膨張し、現在では東証上場企業の約6割を占めています。いわゆる降格もほとんど発生していませんから、まさに「ぬるま湯」の状態といえます。
また、東証の他の市場からの「内部昇格」の場合には、優遇措置として時価総額40億円で良いよ、という規定があります。その為、2011年以降の東証1部上場のうち7割を内部昇格が占める事態になっています。
3つ目の理由は、日本企業の収益性が欧米企業に見劣りしていることです。
企業の収益性を表す指標にROE(当期純利益/株主資本)があります。株主から見た収益性を示す指標です。
2018年の日本企業のROEは9.4%でした。一方アメリカ企業は、同期間に18.4%のROEを記録しています。日米で企業の収益性に大きなギャップが存在しているのです。(※下記リンク参照)
2.東証の市場をどのように再編するのか?
1つ目のポイントとして、東証の市場は明確なコンセプトを持つ3つの市場に集約されます。現在5つある市場が3つになるというわけです。
具体的には、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つです。プライムには日本を代表する企業が入ります。他方、グロースは新興企業が入ります。スタンダードはその中間です。
2つ目のポイントとして、いわゆる「内部昇格」は廃止され、プライム市場への上場基準が一本化されます。
具体的には、流通株式時価総額100億円がプライム市場の基準になります。流通株式とは、市場に流通している株式を指します。ですから、親会社が保有するものや経営者、役員が所有するものは除きます。
内部昇格が廃止される為、スタンダードからプライムへ移行を希望する企業は、新規上場基準と同じ基準の審査を受けることが必要になります。
3つ目のポイントとして、企業に求められるコーポレートガバナンスの水準が厳しくなります。
コーポレートガバナンスコードは、2021年の春に「より高いレベル」に改定される予定です。金融庁の市場構造専門グループでは、海外投資家の増加を念頭に、企業に英文開示を求めるべきではないか、との議論もありました。
3.市場再編により世の中はどう変わるのか?
第一に、東証新1部ともいわれるプライム市場の企業数がスリム化することが予想されます。
当面は現在の東証1部上場企業に対し移行措置が採られる予定です。しかし、プライム上場基準の引き上げやコーポレートガバナンス強化の流れを考えると、プライム市場の企業数は減少していくでしょう。
第二に、株式市場の新陳代謝が活発化し、上場企業の数が減少することが想定されます。
プライム市場に上場するには、流通株式時価総額100億円に加えて、流通株式比率35%という基準を満たすことが求められます。つまり、安定株主が多くガバナンスが効いていない企業を減らす狙いがあるわけです。
実際に、金融庁の審議会では池尾委員から以下の発言がありました。
流動性が高いというのが必要で、時価総額だけ見ると非常に巨額なんだけれども、親子上場の子会社なんかで、流動性は非常に低いという企業があるわけですよね。あえて銘柄は言いませんが。そういうのは一部と呼び続けるのか、プレミアムと呼ぶのか、C市場と呼ぶのか知りませんが、そこに入れるべきではないだろうというふうにずっと思っていたわけです。
ー 金融審議会「市場構造専門グループ」(第2回) 議事録
ガバナンス強化により、経営者に対するチェック機能が強く働くようになります。これを受け、MBOや非上場化する企業も出てくるでしょう。実際にアメリカでは、過去20年で上場企業数が半減しています。(下記リンク参照)
第三に、ビジネスパーソンにとってファイナンスの知識が必須になります。
市場再編により、企業に対する市場からのプレッシャーが高まります。企業価値向上に取り組めない企業は淘汰されるでしょう。したがって、企業に勤めるビジネスパーソンにとってもファイナンスは必修科目になるでしょう。
週刊ダイヤモンドの調査によれば、日本を代表する企業の84%が役員に対し投資の評価方法など高度なファイナンス知識を求めています。役職が上がるにつれて、売上や利益だけではなく、ファイナンスの知識が求められるということです。
今回は以上です。
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