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「誰でも起業/子供もビジネス」時代に

「すぐそこにある」シリーズでは、いよいよユウタくんが児童会長に就任し、『自ら稼ぐ児童会』を標榜しました。
腰を抜かす教頭先生を尻目に、各委員会が競争して広告代理業などビジネスに乗り出すようです。

本作について、夏木凛さんからご心配をいただきました:

実際に小学生が商業活動をするのって法律的にはOKなんでしょうか?
確かアルバイトは15歳以上だったような…。

夏木さまからのコメント

うーむ。確かに、このオハナシを読んだ良いコたち(読まないか?)が、あるいは児童会ぐるみで真似をして、法に触れることがあっては大変です。調べてみましょう。

使用者は、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで、これを使用してはならない。

労働基準法 第56条

映画などの「子役」はOK、など例外もありますが、それはともかく、

労働基準法で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

労働基準法 第9条 労働者の定義

即ち、例えば近頃耳にする成功譚、
・小学生YouTuber
・小学生起業家
なんてのは、誰かに使用され賃金を支払われているわけではないのでOK、というわけです。

じゃ、ユウタくんたち児童会はどうか、といえば、
「廃品回収を手伝って収益を学校に収めるシステム」
と同等、で読み取れば、問題なさそうです。

実際、「子供YouTuber」や「子供起業家」のニュースって、今や《美談》、とまではいかなくても、《賞賛》を持って語られますね。
時代は変わりました。

我田引水になって恐縮ですが、私は今から35年以上前に、ユウタくんのような子供が登場する小説を書いています。

主人公のひとり娘・木村照美さん(小学校3年)は、どの子も塾通いで忙しく、なり手がなかった子供会の会長を引き受ける代わりに、世話役の大人に改革案を認めさせました。
改革案の骨子は、『子供会の催しによって上がった収益金は一切寄付せず、子供たちで分配する』でした。

 照美が就任早々に行ったのは、学区全体での大規模な廃品回収であった。この時参加したのは会員全体の1割程度に過ぎなかったが、照美の指導の下、秀吉の刀狩をも連想させる徹底的な回収によって、通常の3倍、トラック23台分もの古新聞、古雑誌が集まった。

小説「木村家の人びと」より

この「秀吉の刀狩をも連想させる徹底的な回収」というフレーズ、とても気に入っています。

 かねてより松ヶ丘子供会と取引のある学区内の廃品回収業者がおためごかしに買い取ろうとしたが、照美はこれを断り、大手古紙売買業者数社に電話入札させ、最高値を付けた会社に売り渡した。会長である照美は13万円あまりを手にした。参加した約120人の子供たちも、それぞれ、平均5300円余りを手にした。

同上

どこにも『癒着』があります。ローカルになればなるほど。
それを排除しなくてはなりません。たとえ自分の親類やしがらみがある業者であろうとも。
構造的にそれができないのが、『世襲議員』です。

平均、と書いたのは言うまでもなく、照美に任命された各町内のリーダーである子供が、参加者一人一人の実働と成果を厳しく査定した結果に基づいて収益金を分配したからである。だから、1万円近く稼いだ者もいれば、千円に満たない子もいた。リーダーの査定が不公平だという訴えがあれば御大・照美自ら査定に乗り出し、不正が判明すればリーダーは資格停止・分配金没収という厳しい処分を受ける。このため、この査定は、一般企業における昇給やボーナスの査定より、むしろ厳正かつ苛酷に行われた

同上

映画では、木村照美役を岩崎ひろみさん、ライバルのローカル廃品回収業者を竹中直人さんが好演していました。

しかし、この小説はマジメな人たちには顰蹙でしたね。
最たる者が私の父で、彼はこの本を何度読み始めても、老人や児童を使うビジネスに怒り心頭!で、最後まで読むことはなかったそうです。

さて、この小説を書いて3年ほど経った後、米国に3年余り住む機会がありました:

そこで印象的だったのは、
《働く子供が多い!》
ということでした。

よく見かけるのは、夏に道端で冷たいレモネードなどを売る小学生です。親が《ガレージ・セール》で不用品を売っている傍らにはよくいたし、中学や高校のフットボール試合、あるいはガソリンスタンドにも出没していました。
小学校高学年になると、《ガレージ・セール》の店番もするし、《子守り(Baby Sitter)》が大きな収入源になります。
中高生になれば、新聞配達やプールの監視、マックの店員など、なんでもアリ、になってきます。
ガソリンスタンドの手洗い洗車で学園祭の資金稼ぎ(Fund Raising)をする中高生グループもいました。

大学を中退してデジタル世界で起業し、大成功したビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグはよく知られていますが、アメリカ起業家を育てた「根っこ」は、こうした、「子供時代の身近なアナログビジネス体験」にあるんじゃないのかな、と思うのです。
やはり、自分のアタマやカラダを使ってお金を得る喜びを知る、という体験は重要なんじゃないかな?

最近、証券会社や投資会社が子供に投資教育をしている、なんて記事を目にしますが、いやいや、その前に、

《実際に手で触れることができる身の周りの世界で、カラダやアタマを使ってお金を得る》

経験をして欲しいな、と思うのであーる!

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