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珈琲 アモール(初デート)

 君の肩越しに見えるガラスの向こうの無数の足に、本当に人多いなーなんてやけに冷静に考えている自分がいる。外は秋晴れで、午前の光がそろって着始めた薄手の上着を照らしている。誰も僕を見ていない。こちらに気づいていない。ここから外を見るのはとても安心する。
 テーブルの上には半分になったトースト。ホットケーキに染みこんだバターが二人の沈黙の中で少しずつ乾いていく。「食べなよ」と言いたいけれど口の中がカラカラで、「オはよウ」とひっくり返った声であいさつした朝の失敗を思って何も言えない。のどをうるおしたいが無理して頼んだブラックコーヒー(ミルク・砂糖なし)は飲めたものではないし、お水は空っぽだ。店員さんを呼ぼうにも声が出ない。
 僕の目は、さっきからこんなふうにテーブルの上か窓の外を泳いでばかりいる。今は何時なんだろう。お店に入ってからどれくらい経ったのだろうか。最後の話題から何分経った?カップにいっぱいのコーヒーがすべて蒸発しそうなくらい長い永遠だ。君は今どんな顔をしてるんだろう。空港みたいな国籍のバリエーションでごった返す浅草駅で、ちょこんと佇む君を遠くから見て、今日はそれからまともに顔が見れていない。いつもと違うあまやかな雰囲気にドギマギして君の目が見れない。
 「すみません」ゆるやかに混んだ土曜日の店内に彼女の声が響く。
 「お水頂けますか?」
 ようやく少ししゃべれるかもしれない。

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