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営業が持つべき「顧客視点」とは

営業支援の仕事をしていると、「成果を出すために組織の営業活動を見直したい」という相談をよくいただきます。しかし、多くの場合が自分たちが売るためのことばかり考えており、買い手である顧客に買ってもらうためではなかったりします。

売ることと買ってもらうことは似て非なるもの。「買ってもらうためにどうすればよいか」という思考をすれば自ずと買い手が思い浮かび、買い手の視点をもって営業活動を設計し直す一歩目になります。商売は売り手と買い手が存在するものです。しかし、多くの営業組織は売上を上げようと思えば思うほど、売り手の視点偏重で営業活動を設計してしまいがちです。これを私は「買い手不在の営業活動」と言っています。

私の過去のnoteでも繰り返しお伝えしているように、売るための営業活動を行うと、皮肉にも成果につながりにくいです。でも営業マネージャーの多くは、成果が出ない原因を営業担当者の能力不足ではないかと考え、様々なテクニックやノウハウを詰め込むためのトレーニングを行い、それをセールスイネーブルメントと呼んでいたりします。

セールスイネーブルメントについては本noteでは細かく触れませんが、営業成果が出ない原因を営業担当者の能力不足だと捉える短絡的な思考では、継続的に組織成果を出すための改善とはなりません。
では、どうすれば組織として「顧客に買ってもらうための営業活動」を実現できるようになるのでしょうか。今回はそのヒントとなる「営業が持っておくべき顧客視点」についてお伝えします。

さぁ、考えましょう

買ってもらうために欠かせないバイヤーイネーブルメント

まずは前提として、バイヤーイネーブルメントという概念について簡単にお伝えします。

バイヤーイネーブルメントとは、「顧客が組織的な購買業務を完了できる状態を実現すること(Gartner, 2018, 筆者による和訳)」です。一例ですが、顧客が判断できない検討事項を解決する手助けをしたり、顧客社内のステークホルダー間の合意形成が進むように各種情報提供等をすることで支援することが具体的な活動となります。

複雑に行きつ戻りつして意思決定は進む(出典:Gartner, 2018)

これは、特に大手企業における購買の難しさを図にしたものです。買い手が何らかの問題を解決する必要が生じた際、どれだけ複雑な購買タスクをたどるのかが記されています。(英語でいろいろ書いてありますが、問題定義から、情報収集、要件定義、意思決定といったプロセスが行きつ戻りつ進められていく様子が表現されています)

買い手は、問題解決の手段として外部から何らかの解決策を購買する必要性がある時に、上図のような入り組んだ意思決定のタスクを進めていきます。この複雑な購買のタスクを前に進めなければいけません。しかし買い手の組織が大きくなればなるほどステークホルダーは増え、ときにはコンサルティングファームや株主等、社外にも存在するケースもあります。

一方で、売り手の営業プロセスはどのように考えられているかというと、リード獲得→リード育成→リード見極め→初回MTG→商談化→提案→受注と一本線で進むものだ、という考えで設計されていることが大半でしょう。買い手の購買活動は、売り手が考えているようなシンプルなプロセスでは進まないと考え、自社の買い手はどのような購買活動を行なっているのか把握すること。エンタープライズと呼ばれる大手企業とビジネスをしたいのであれば、この考え方は持っておいた方が良いと言えます。

バイヤーイネーブルメントの概念については、以下の記事でより詳しく説明しています。あわせてご覧ください。

購買による喜びを提供したいですよね

バイヤーイネーブルメントのカギである「顧客視点」

バイヤーイネーブルメントは「顧客視点を持った営業」と考えると、理解がしやすいと考えています。

営業活動を行うにあたり、まず考えたいのは以下の3点です。
(1)顧客は誰なのか
(2)その顧客に何を価値として享受してもらいたいのか
(3)どのようにその活動を行うのか

マーケティング領域で言われている「Who, What, How」と同じことですが、そもそもマーケティングというのは広告ではなく商売全体を指すので、広義の概念としては営業と非常に近いものだと言えるので当然と言えば当然です。

B2Bにおいて、顧客は複数存在します。そしてそれぞれの顧客ごとに享受する価値は変わります。もっと言うと、売り手が想定している価値と異なる価値を買い手が創造することもあります。その価値を享受するためには顧客は購買をする必要がありますが、「解決したい問題」と「解決策」の間にはとても大きな壁があることを押さえておいてください。それは「問題の原因」という壁です。

例えば、出かけている時に急にとてもお腹が痛くなってまともに動けなくなってしまった場合、あなたはどうしますか?「腹痛ですか。これ効くから飲んでみてください」と初対面の人に差し出された薬を飲むでしょうか。おそらく飲まないと思います。
病院に行き、権威ある資格を有する医者と対話をし、問診や触診、検査をして原因を特定するプロセスを経て、その上で「この原因が確からしいので、この薬(解決策)を処方します」という流れになっていますよね。これと同じです。

つまり、企業においても「解決すべき問題は明らかだが、何がその問題の原因なのかを整理できておらず、その原因に紐づく各課題の解決に向けて検討することができない」という状態になっているよね、という前提に立つことが一歩目。買い手が購買をする時の状態をこのように捉え直すことができるかどうかで、営業活動の具体的な中身が変わっていきます。

特にSaaSの業界に営業として従事しているケースは特に上記の前提を持っておくと良いと考えています。買い手は今まで何十年と行なってきた業務を行なっており、その業務に基づいてプロセスやオペレーション、人材採用や育成が設計されています。一方で外部環境や競争環境の変化等によって解決すべき問題が表出してきます。原因もわかっていないのに出会った営業から「買いませんか。この状態を目指しませんか。一緒にサクセスしませんか。他社はこんな成功してますよ」といったセールストークを振り翳されても、買い手が「この問題を解決するために購買することが本当に手段として適切なのか?」と判断に困ることは容易に想像できるのではないでしょうか。ましてやSaaSというもの自体が概念として新しいものだったりするので、なおさら判断が難しくなるでしょう。

さて、皆さんの営業活動はいかがでしょうか。買い手の方々の購買難易度は高そうですか?低そうですか?買い手は何に困っていますか?その問題の原因は何でしょうか?その原因を解消する手段として皆さんのプロダクトやサービスを購買することが相対的に合理的だと言える理由は何でしょうか?

売るのが難しい=買うのが難しいってことです

どう組織に顧客視点を取り入れていくか

営業組織の共通解釈としてこれらの考え方を取り入れていこう、とする場合に具体的に何から取り掛かれば良いのか、を最後に触れていきます。

「顧客は誰か」を正しく言語化する

まずは「顧客は誰か」です。

この質問をすると「企業」や「部署」といった組織体を挙げる営業が本当に多いのですが、もう一歩です。繰り返しお伝えしているように、顧客は「人」です。

先方担当者の部署や名前、役職はもちろん、例えば以下のような点まで把握をするようにしましょう。

  • なぜこの会社で仕事をしているのか

  • 何がどうなったらこの人は嬉しいのか/嫌なのか

  • この人は会社からどのように評価されるのか

  • どういう時にテンションが上がるのか/下がるのか

  • アフター5では何をして過ごすことが多いのか

  • 趣味は何か、休みの日は何をして過ごすのか

こうした情報は、買い手の問題解決に貢献するために非常に重要なものだと捉えています。人として信用に足る人物ではない相手に対して、自身が持つ問題意識や解決に向けて困っている等の本音の話はしません。
商売の話に至る前に、人と人のコミュニケーションです。これは2022年〜2023年に私が大学院で営業研究をしていた際、数多くのトップパフォーマーにインタビューを繰り返すなかで表出したものでもあります。

顧客を売り先の企業体としてではなく「人」として接すること。そのためには目の前の相手に興味を持ち、困りごとを解決してあげたいという気持ちを強く持つこと。そのためにも相手のパーソナルな情報について知っていくこと。

言うまでもないことですが、営業は「問題の原因を整理してどの課題から解決していくかわからずに困っている買い手が多く存在している」という前提に立つ一方で、買い手から「この営業担当者と会話をし、一緒に解決に向けて考えていきたい」と思ってもらわないといけません。売る気マンマンで下心全開、自社のアピールばかりしてくる営業担当者には買い手は相談をしようとは思わないでしょうね。

「顧客が享受する価値は何か」を正しく言語化する

次に「顧客が享受する価値は何か」です。

  • 顧客が課せられている仕事のミッション(KGIやKPI)

  • 顧客がゴール達成に向けて困っていること・不足していること

  • 顧客がいまやっている対策とそれでは足りていないと考えていること

など、顧客の困りごとそのものを把握することは大前提ですが、それらの原因を探究するようにチーム内で認識をそろえておきましょう。

問題の原因を整理していくと、上述した意思決定タスクの複雑さのほか、上申の難しさ、上司の上司への決裁といった「顧客が問題解決する上での難所」が具体的に見えてくるようになります。

この難所こそが、まさに顧客のニーズ、つまり営業によるバイヤーイネーブルメントが求められるところなのです。ここで言うニーズとは営業からすると販売のためのニーズではありません。買い手が問題を解決するためのニーズなので、混同しないようにしてください。

買い手は個人ではなく、人だと捉えること

顧客視点を持って顧客を支援しよう

バイヤーイネーブルメントの第一歩は買い手(目の前の人)に対して興味や関心を持つことです。

顧客への興味がなければ相手のことを知りたいと思えませんし、聞きたいと思いません。そして営業として売上を上げなければならないので、資料を用いて自社の紹介、プロダクトやサービスの紹介といった「スピーチと売るための形式的なヒアリング」が始まります。
自分に興味を持たず、売るためのコミュニケーションを繰り出してくる営業には、顧客はまた会いたいとは思ってはくれないでしょう。

顧客の立場になればわかることですが、自分に興味を持ってくれて、状況を理解した上で、親身になって支援してくれる営業と会話を続けたくなりますよ。

営業組織における基本的な考え方として、今回のnoteがお役に立てば幸いです。ぜひ、今日からでも取り入れて、実践してみてください。

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