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セールスイネーブルメントと一緒に考えたい「大事なこと」

セールスイネーブルメントと「バイヤーイネーブルメント」

「セールスイネーブルメント」という言葉、本当によく聞くようになりましたね。

セールスイネーブルメントとは、簡単に言うと「営業組織が成果を向上させるために強化する仕組みのこと」を指します。私クライアントでもイネーブルメント組織を立ち上げるところが増えており、こうした動きをとても嬉しく思っています。

しかし、セールスイネーブルメントの実態として、顧客・購入者であるはずの「バイヤー」の存在が蔑ろになっているケースが多い、ということが散見されます。売り手の皆さんは日々頑張って一生懸命真剣に仕事をしている。でも思うように結果が出ない。この問題の原因の1つに挙げられると考えています。

そこで今回は、セールスイネーブルメントと一緒に考えてほしい「バイヤーイネーブルメント」についてお話します。このnoteが、皆さんの営業活動をアップデートするきっかけとなれば嬉しいです。

未来ってどうなるかわからないですよね(普通のことを真顔で言う)

セールスイネーブルメントに感じる問題点

日頃、私がセールスイネーブルメントの取り組みを見ていると、「営業担当のパフォーマンス向上支援」が中心になっていることが散見されます。例えば、営業トレーニングの実施がその筆頭です。

たしかに、これらはれっきとしたセールスイネーブルメント(を構成する1つの大事な要素)です。しかし多くの営業トレーニングには顧客(バイヤー)像が明確に設定されていない上、顧客はなぜ購買するのか、という点についても言語化されていない中で「このプロダクトをどう売るか」にのみ焦点が当たっているのではないでしょうか。

私のnoteでもたびたびお伝えしてきたように、営業は「顧客」がいて成り立つもの、つまり「顧客ありき」で考えるものです。ところが、セールスイネーブルメントの現場では「営業ありき」に偏ってしまっているところがある。

私はこのギャップに大きな問題があると感じています。どういうことかご説明していきます。

プロダクトを並べておけば買われる商売をしてないからこのnote読んでるんですよね(だから何)

バイヤーイネーブルメントの重要性

「セールスイネーブルメント」とセットで考えたい概念に「バイヤーイネーブルメント」というものがあります。

「バイヤーイネーブルメント」とは、分かりやすく言うと顧客が何かサービス・商品を購入する意思決定・検討のタスクを進めやすくするもの、という概念です。例えば、顧客の抱える問題点と原因を整理して課題を特定したり、社内の合意形成がスムーズに進むよう支援をしたりすることなどが挙げられます。

なぜバイヤーイネーブルメントが重要かというと、例えばSaaSのように、買い手から見た時に概念として新しいサービスを営業が売るためには、買い手は今までの購買プロセスでは合理的に社内合意形成を進めて購買する難易度は高くなるからです。

例えば「営業の販売管理システム(SFA)」の導入で考えてみます。「営業が使うシステムなのだから、営業部門内にアプローチし、営業部門の責任者に決裁してもらえれば買ってもらえそう」と思いますよね。

ただ、実際の企業内での検討プロセスでは、例えば以下のようなことが起こり得ます。

  • 営業の評価と連動するために人事部もステークホルダーに加わってきた

  • 営業部門長が使いたいと意思決定をするが、最終的には営業管掌の役員が経営会議において合意形成をすることになり再審議対象となった

  • 会社として新規事業領域にアセットを投下する方向性になり、営業領域への投資が見送られた

  • などなど

つまり、企業内(特に大手企業内)の意思決定プロセスは、部署や立場を横断しながら「行きつ戻りつ」で進められることが多い、ということです。細かく読む必要はありませんが、以下の図のようなイメージです。(要するに、ものすごく複雑だということを感じてください)

特に大手企業の購買意思決定はこんな感じで複雑だよ、というGartner社の絵です

にもかかわらず、営業側では「面談→見積り→商談→決裁→契約→導入」というように直線的なフローで営業プロセスを設計します。管理するためにはシンプルであることは重要ですが、実態としてそんな単純には進まない、ということをまず前提として理解することです。

Gartner社が提唱する購買意思決定を進めるために乗り越えるべきタスク

特に大手企業であれば複雑な意思決定をたどることになるので、買い手の購買意思決定を進めていくための主なポイントとして上記のGartner社のレポートがあります。これに私が日本のビジネスの特徴を踏まえて以下の通り整理したのでご確認ください。

  • 解決すべき問題は何か

  • その問題の原因は整理できているのか(多くはココができてない)

  • どのような解決方法が存在しているのか

  • どの解決策が自社にとって最適なのか

  • その解決策を提供している最適なベンダーはどこなのか

  • その解決策で問題は解決できるのか

  • 社内の合意形成をどう確立するのか

これらの検討タスクを1つずつ消化していくことで、結果としてバイヤーイネーブルメントが実現する、という考え方です。

上記の7つのポイントはこうして言語化すると、当たり前のことだと思う人は多いでしょう。にも関わらずつい仕事をしていると忘れられてしまうのは、顧客の困りごとを解決するのではなく、売ることを目的にしてしまうマインドセットの問題があるのではないかと思います。

この点については、以下の記事で詳しく説明しているので、あわせてご一読ください。

少しは先が晴れてきましたか?

バイヤーイネーブルメントの取り入れ方

では、どうすれば「バイヤーイネーブルメント」を取り入れられるようになるのでしょうか。

結論としては「顧客がどう判断して意思決定しているかを理解する」こと。これに尽きます。この理解を進めるための具体的な行動は、既存顧客に以下のようなインタビューをすることです。大事なポイントは「ソリューションの選択・導入には焦点を当てず、その手前のポイントに論点を絞ること」です。

  • なぜ当時○○の業務領域の改善をしようと考えたのか

  • 他にどのような改善領域があったのか

  • なぜ○○の領域を改善する意思決定をしたのか

  • それによって何を解決したかったのか

  • 解決されないことでどのようなリスクを想定していたのか

  • その判断や社内の合意形成を行うにあたって何に苦労したのか

  • どのようにしてステークホルダーとの合意形成を行ったのか

マーケティングを効率化するマーケティングオートメーション(MA)ツールを提供する営業活動で考えてみましょう。

人材採用や育成、定着に関する人事領域。様々な取引や法改正に対応するための法務領域。社内オフィス環境の整備や基本的なファシリティを担う総務領域。ビジネスの収益を支えるための営業領域。より良い製品やサービスを企画し開発するプロダクト領域。新たな収益の柱となる新規事業領域などなど。

これらの領域には常に目指すゴールがあります。究極的なゴールでいうと「継続的に利益創出すること」です(営利企業の場合)。このゴール達成のために各業務領域に対して組織を作り、因数分解された部門のゴールを課します。

金額にもよりますが、一定金額以上の決裁をするには経営判断が入ることが多々あります。そうなると上記に挙げた通り企業は事業を行うにあたって様々な領域の問題を解決してゴール達成を目指しているため、「この領域に対して、今、投資をして改善をする合理的な理由」が必要になります。

このような中で皆さんのプロダクトを買ってくれた、ということは、「この領域を他よりも優先してお金を使ってでも解決する」と意思決定したことになります。「いまはマーケティングのツールよりも、新しい製品開発に予算を割くべきだ」と判断されていたら、いくら自社のMAツールが競合よりも優秀であろうが、競合の方が優秀だろうが、関係なしにマーケティング領域の改善をする、という判断に進まないです。

「A社やB社でなく自分たちのプロダクトを選んだ理由」を聞ける営業は多いですし、ほとんどの企業はこういった内容を事例にしたがります。しかし、その手前にある「改善対象の業務領域における意思決定の背景」まで意識を巡らせて、顧客が意思決定しやすいように支援する営業は極僅かではないでしょうか。

繰り返しのようですが、「改善対象の業務領域の意思決定の背景」を理解して営業しなければ、いくら競合よりスペック的に優位だろうが安かろうが、そもそも解決策の話に進めないため、商売になりにくい。

自分達の解決策の話をする前に、解決したい問題とその原因を買い手と一緒に探求すること。これは購買難易度の高い領域においてとても大事な考え方です。

つまり、解決方法の合意形成の後にようやく解決策(ソリューション)の話に進む、と捉えてください。MA云々の前に、そもそもマーケティングの業務領域における問題は何か、その解決方法はデジタル化なのか、人材投下なのか、人材育成なのか、アウトソースなのか。そしてデジタル化を選ぶとなって初めてどんな解決策が適切なのか、という議論に進みます。

では、どうすれば「改善対象の業務領域の意思決定の背景」という情報を得られるのでしょうか。

非常に有効なことは「既存顧客に話を聞くこと」です。解決策の採用を意思決定したということは、解決方法の検討をしたはず。ということは解決したい問題の原因についても考えて整理したはずです。それを聞けばよい。

営業組織において、受注した後は「LTVを最大化する」「アップセル/クロスセルを狙う」ことばかりに重きを置きがちですが、新規のビジネスを拡大していくためのストーリー作りのために既存顧客の声を集めることも同じくらい重要です。

頭が痛いとき、原因もわからないのに薬を出されたら怖くないですか?

インタビュー相手がいないときは

とはいえ、インタビューを受けてもらうには、直接のビジネス以外の場でも自分と会うことに時間を割いてくれる関係性や、突っ込んだことも聞けるだけの信頼関係が必要です。インタビューできるような相手がいない場合もあるかと思います。

こうした場合は、まずは顧客と「商売に直接関連しない話題でコミュニケーションが取れる関係性」を築くことからはじめましょう。具体的には、打ち合わせの内容を商談やプロダクトに閉じすぎず、もっと広く、それ以外の話題について積極的に話し合うようにしてください。

例えば、Webマーケティングツールを販売しているのなら、Webだけでなくオフラインを含めた全体的なマーケティングの話題を提供し、話の範囲を広げていくようなイメージです。最初はビジネスの範囲内で話題を広げ、そこからだんだん業務外の話もできるようになっていくと良いと思います。SFAを提供しているのであれば営業プロセス全体や営業組織、戦略といった話題に関して自分なりの意見をもつことです。

ただ、その手前で注意したいのは、こうしたコミュニケーションを自然にできるようになるためには、相手に対する興味を持つこと。興味を持つことで純粋に知りたいことが出てきます。恋愛と一緒です。
この人は何に困っているのだろう?何がどうなると嬉しいんだろう?なぜこの仕事をしているんだろう?何がどうなるとこの人は社内で評価されるんだろう?などなど。

この点については以前のnoteが参考になると思います。

おわりに

今回は、私が「セールスイネーブルメント」の現場を見て感じた課題として、「バイヤーイネーブルメント」の必要性をお伝えしました。

売り手が考えるセールスイネーブルメント、売り手が考える営業プロセスは売り手都合で考えられ、買い手不在になっていることがとても多いように見えます。

商売は売り手と買い手がいて初めて成立しますから、買い手における意思決定や合意形成がどのように行われるのか、その活動に売り手としてどう関わると買い手は助かるのか。そして問題が解決されることで目の前の顧客はなぜ嬉しいのか。

一生懸命仕事に没頭すればするほど、こういった点は忘れてしまいがちになるので、時々見返してもらえると嬉しいです。

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