あなたの顧客は誰ですか?
皆さん、大変お久しぶりです。これからまたnoteを定期的に書いていこうと思います。久しぶりのnoteは5,000文字を超えてしまいました。少々理解しにくいところもあると思いますので、お時間あるときにゆっくり繰り返し読んでもらえると少しずつ腹に落とせると思います。
先日、社会構想大学院大学を修了しました。修士論文では「トップセールスの暗黙知を形式知化する」という趣旨の論文を書いたのですが、その中で成果につながる営業の考え方を体系的にまとめることができたので、これからnoteで少しずつご紹介していこうと思います。営業職の方が明るい未来を描けるような話をしていきますので、お役に立ててもらえると幸いです。
今回はB2B営業職の方々へ向けて「営業は人と人との商売である」という点についてお伝えしていきます。感情論みたいですが、成果を出す営業が必ず意識している大事な考え方ですし、論理的に理解することが可能ですので、しっかり言語化してご説明していきます。
実際のところ、「そんなこと当たり前でしょ」と思った方も多いと思いますが、B2B営業職の方の中で、この基本的な考えが足りないことで成果が出せてない。そういう方があまりにも多いと捉えています。ぜひご自身の営業を見直す機会にしてもらえればと思います。
あなたの顧客は誰ですか?
まずお尋ねします。
B2B営業の皆さん、あなたの会社の顧客は誰ですか?
10秒で良いので考えてみてください。
この質問、先日ICCの営業ワークショップでしたのですが、その時はなんと約9割以上のワークショップ参加者の方が「年商◯◯円以上の◯◯業」とか「製造業の◯◯部」といった回答をしました。同じように考えた方も多かったのではないでしょうか?
顧客を企業や組織と考えたくなるお気持ちはわかります。確かに、B2Bのビジネスにおいて契約する相手は企業ですから必ずしも間違いではありません。ただ、営業活動において顧客を考える場合はそれでは不十分です。
その企業や組織の内部で議論して契約を決めるのは誰でしょうか?契約後にプロダクトを使うのは誰でしょうか?
「人」ですよね。
そう、つまり契約するのは企業でも、本質的な顧客は「人」である、という考え方です。
同じ企業や組織の社員でも、人それぞれ仕事も役割も違います。つまり追っているゴールは違いますし、個々人で困っていることも違います。もっと言うと、個々人によって何が嬉しくて何が悲しいのかも違います。
そう考えると相手の「人」によって何をどう話すかはまったく変わってくるはずです。書いてみると当たり前ですが、この目線を持てずに、どこでも同じ話をしてしまって「うまく刺さらないなぁ」と苦労されている営業職の方は本当に多いように見えます。
ちなみに、私が論文を書くにあたり、継続して結果を出し続けているトップパフォーマー及びトップセールスマネージャーの方々にこの質問をぶつけてみたら、「ターゲットの1つは、○○の企業で○○の役割を担って○○の業務を管掌している役員の方です」と即答しました。
成果を出している方々は、顧客を人として捉えて仕事をしていることが大事だと考えていることがわかります。私自身も長い営業経験を通じてそう捉えているのですが、研究を通じ優秀な営業の思考として共通項として捉えると良さそうだと言えます。
「人を見ない営業」と「人を見る営業」の違い
では顧客を「人」として見ると営業はどう変わるのか、少し具体的にお話していきます。今回はマーケティングオートメーションツール(MAツール)のセールスを例に比べてみたいと思います。ちょっと極端すぎるように思われるかもしれませんが、イメージとしてお付き合いください。
「人を見ない営業」の典型例
例えば、こんな営業を受けたことはありませんか?誰かがしているのを見たことはありませんか?
初回の打ち合わせにて、会社の概要からサービスのデモ、費用感まで説明し、「見込み顧客の管理でお困りではないですか?」などとMAに関するテーマばかりに触れ、買い手の業務や仕事内容などは関心がない
ホワイトペーパーの中身が気になってダウンロードしてくれただけの人に「MAツール何をお使いですか」「弊社のMAはナーチャリング機能が充実してまして」と一方的に聞きたいことをきき、話したいことを話してアポを取ろうとする
これが人を見ない営業の典型例です。過去のnoteでも話した、売り物起点でストーリーをこじつける営業ですね。相手のニーズをすっ飛ばして営業をかけているイメージが伝わるでしょうか。
もしこんな営業を積極的にしていたら、よっぽど顕在化していてソリューションを優先度高く探している相手以外とは商売の話に進みません。相手が求めているのは「自分及び自分たちの問題解決」であって、営業のセールストークを聞くことではないからです。自分が営業される側になってみてください。興味がないものについて延々と紹介されるのはなかなかキツいはずです。
「人を見る営業」はこうなる
一方、顧客を人として見る営業ではどうなるかというと、いきなり資料にそって"一方的なスピーチ"をするようなことはしません。
まずは営業担当である自分が自己開示をしながら、顧客に「どうしてこの会社に入ったんですか?」「会社としては○○を目標に掲げていますが、○○さんにおいてはその中で何が目標になっているのですか?」「その目標に向かう上で何が最近頭の痛い問題ですか?」「逆に仕事でどんなときにグッときますか?」「何がどうなったら○○さんのボーナスが増えます?」といった質問をして、会話の中でその人の仕事内容や責任、興味、苦労や喜びなどを深く知ろうとします。
これは、相手が「組織」ではなく、「人」だからですね。目の前の人が何をしたがっているのか、何に興味があるのか。そこに興味をもち、目の前の人が自分の味方になってくれるために何をしてあげればよいのか、という姿勢が相手との関係構築の一歩目だと思っています。
営業として顧客の問題を一緒に解決するために、相手のことを深く知り、どう自分は役立てるかを考えて話を組み立てること。これが人を見る営業です。
実際、私が話を聞いた成果を出し続けているトップパフォーマーの方々も「今、この人の役に立つ情報は何か?」「どう自分は役立てるか?」だけを考えて買い手の方々とのコミュニケーションをされています。営業プロセスの初期にあたる初回面談の段階では特に、です。
また、多くの営業は用意した資料を「説明」しようとしますが、トップの方々にとって資料は「対話の流れの中で視覚的に補助して理解しやすくするもの」と捉えている傾向が強いです。つまり「説明」よりも「対話」に主軸をおいているということになります。人を見ない営業と比べて、資料と対話の主従関係が逆になります。
過去のnoteでも書きましたが、お客さんは、ゴール達成を阻んでいる問題を解決することを目的とし、その手段として購買します。したがって営業は買い手のゴール達成を阻んでいる問題を解決するために、「手段として売る」必要があるわけです。
自社のプロダクトが買い手の問題解決にならないなら売らない。もし他社のプロダクトが解決策として最も適しているなら素直にそちらを紹介をする。そのくらい問題の解決を優先してくれる営業は信頼されますよね。そうやって関係を構築していく中で「この課題をなんとかしたいのだけど、相談にのってもらえないか」と言ってもらえるようになります。
買い手の問題解決に至らないプロダクトを無理やり売ろうとしても、そもそも話を聞いてもらえず売れません。大きなディスカウントをしないと売れない場合は、顧客はあなたのプロダクトに大して期待をしていない、と言い換えられます。
この場合サービス導入後に全く使われず、解約リスクが生じます。カスタマーサクセスやエクスパンション担当からすると、必死になって解約を阻止するために高いコストをかけて動きます。
顧客から見ても、そもそも当初から大して期待をしていないので様々な売り手側からのフォローを煩わしく感じます。これでは誰もハッピーにならない。
特にエンタープライズと呼ばれる大手企業向けにこういう「負の感情を醸成する営業活動」をしていると、将来の機会損失につながることは想像に難くないのではないでしょうか。
「人と人」の関係性を築くには
顧客を企業や組織としてみるのか、人として見るのか、たったこれだけのことで営業がまったく違うものになるということが伝わったでしょうか?
ここからは、人を見る営業になって「人と人」の関係性を築くためにはどうすればいいのか、大事な観点を具体的に2つお伝えしていきます。
「買う人」と「使う人」を区別する
まずはここを区別するのが大前提です。それぞれの意味を簡単にまとめると、以下です。
・買う人…経営者などの意思決定者や、エコノミックバイヤー(※)のこと
・使う人…現場でツールを使う担当者やミドルマネージャーのこと
※通称EB。意思決定者の判断を覆す「拒否権」を持つ人、もしくは役員会議などの会議体のことです。
買う人も使う人も同じ企業の人ですが、それぞれ責任や役割を考えると、目線も課題感もまるで違うだろうことが想像できるかと思います。
例えば、「使う人」であれば、職責も問題意識も目前の作業に閉じていることが大半なので、「ツール買いませんか」と言われても決裁権がなくてどうすることもできないですし、「中長期経営計画を見てのご提案としましては」と言われてもピンとくる人なんてほとんどいないはずです。
反対に、経営など「買う人」に対してツールの実演デモをしても意味がない、ということもよく分かるかと思います。「買う人」が知りたいのは、それでどれだけ利益が出るのか、経営の問題を解決できるのかです。見込み客のデータをどの外部ツールと連携できるのかですとか、何件までデータを残せるのかみたいなところまで話をされても困らせるばかりですよね。
このように買う人と使う人を区別することは大事な大事な大前提なのですが、当たり前すぎて逆に意識ができないのか、区別せずに資料にそって一通り話しきってしまう営業職の方は本当に多いです。
もし「考えたことがなかった」という方は、まずは今自分がアプローチしている顧客は買う人と使う人どちらなのか、を区別するところからはじめてみることをお勧めします。区別するとそれぞれに対してどう対話を進めていけばいいのか、そのためにどういう事前準備が必要なのか見えてきます。
その人の「困りごと」や「喜び」に目を向ける
これも大事なポイントだと思います。ひと言で言うと、顧客に興味や関心を持つ、ということですね。
急にちょっと抽象的な話をしますが、この国において、特に大手企業に勤めている方々は、多くの場合減点評価にさらされながら仕事をしている、という前提に立つことをお勧めします。
例えば「納期が遅れたら怒られる」とか「システムがバグで使えなくなると評価が下がる」とか、誰もが何かしらの失敗できないプレッシャーを抱えて働いている、という環境であることを知っておくことです。このnoteをお読みの皆さんもそうではないでしょうか?減点されて給与や立場に影響が出るのは嫌ですよね?それは顧客も同じなんです。
「人を見る営業」としては、商談に参加してくださる現場の方やマネージャーの方がどういう仕事をしていて、どんな課題で困っているのか。その課題がどうなると減点され、どうなれば減点にならずに済むのか。こういった点から理解をし、それに対してどう自分自身やプロダクトが役立てるのかを一緒に考えていくことが大事になってきます。
買う人と使う人を区別した上で、さらにその人について興味や関心を持ち、「困りごと」や「喜び・嬉しさ」まで目を向けるようにしてみましょう。ここまで意識ができると、だいぶ顧客との接し方や話す内容も変わってくると思います。
おわりに:営業は人と人の商売である
今回は「営業は、人と人の商売である」ということについて書いてきました。
営業は「受注」や「お金の回収」を成果とする仕事ですが、その成果をもたらしてくれる相手は「人」です。企業や組織ではなく、その企業や組織を回している「人」が困りごとを解決するためにプロダクトを買うのですから、どう考えても購買は「手段」でしかないわけです。よって営業としても、売ることは手段だと思うことが重要な姿勢だと思います。
「人」を見ないでプロダクトを売ることで頭をいっぱいにしていませんか?「この人が困っていることを解決するために自分に何ができるのか」と考えて行動できていますか?
繰り返して言いますが、営業は「人と人の商売」です。
なかなか成績が上がらず苦労されている営業職の方は、一度アンラーニングの1つとしてでも、今回ご紹介した「人を見る営業」を考えてみてもらえればと思います。すぐに成果が出るかどうかは行動次第ですが、営業としての引き出しは間違いなく増えるはずです。
皆さんの営業活動の糧になれば幸いです。
今後も営業職の方が明るい未来を描けるような話を色々としていきますので、是非フォローしていただければ嬉しいです。
それでは、また次のnoteでお会いしましょう!