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第28回読書会レポート:石原慎太郎『太陽の季節』(感想・レビュー)

(レポートの性質上作品のネタバレを含みます)

今回は常連さん3人という状況で和気あいあいと語り合えました。
常連のおじさんたちと読む問題作。
なかなかシュールなひとときでした。

それにしても、もう少し人を集めたい!
当会にご興味のある方はぜひ
遊びに来てほしいです。
求む!参加者!

選書の理由

今年2月に他界された石原慎太郎氏。その追悼の意を表して『太陽の季節』を取り上げました。
戦後文学の代表格として日本文学史に爪痕を残した本作品は、いつか必ず読書会で取り上げようと決めていた作品です。

一橋大学在学中の1956年(昭和31年)に第34回芥川賞を受賞。太陽族と言われる流行語を生み出し一世を風靡します。
奔放な性描写や反倫理的価値観が全面的に表現された恋愛青春小説は、なぜここまでムーブメントを巻き起こしたのか。
読み進めていくうちに、戦後日本という時代に蔓延する特有の空気感が浮き彫りになってきました。

ご参加の皆さんの感想


・大学生が書いた荒削りな作品
・好きな作品
・人間のエゴイズム
・若者は残酷
・外連味がない
・昭和の匂いがする(レコ=コレ=女、など……)
・物質的に恵まれている
・ブルジョア階級

”美しくない日本”を刮目できるか?

内容が倫理的に問題視されていたため、文學界新人賞や芥川賞選考会では意見が真っ二つに割れたと言われています。
ちなみに武田泰淳は賛成派だったそうで、なるほどなと思いました。
「美しくない」部分を刮目できるからこそ、それを許し日本がますます愛おしくなる。
石原氏の強さの原点はそこにあったのかもしれません。

戦後復興の混乱を経て「神武景気」と言われる大きな波を乗りこなし、「もはや戦後ではない」と経済白書に記されたのは1956年。この年に受賞した作品がまさに『太陽の季節』です。

恋愛あるある


まず興味を惹かれたのは、男性は女性を追いかけ飽きたら冷める、という図式です。いつの時代も同じなのだなと落胆してしまいました。

英子に入れ込む竜哉は、英子が振り向いた途端に他の女に目移りしていきます。
これは誰しも経験したことがあるほろ苦い思い出ではないでしょうか。
もしかしたら未だに引きずっている人もいるかも知れません。

読書会で印象的だった意見として、
英子が執拗に竜哉を追いかけ、それを嘲るように竜哉が無視していることに対して、どうしたらうまくいったのか?と投げかけたところ、
「どうするもこうするも英子は負けたんだから仕方がない」という意見が出てきたことです。

いやいや、仕方がないですまないのが女性の身体なのですよ〜。

一番残酷な復讐


この作品が支持された理由の一つが、ヒロインの死が描かれていることだと思います。

英子の妊娠が発覚した竜哉は、責任をとるか取らないか曖昧にし続け、とうとう4ヶ月を超えたところで英子は帝王切開による人工中絶手術を断行します。その四日後に腹膜炎を起こして英子は世を去るのです。

「かえって、これで一生英子と離れられないような気持ちに襲われた。(新潮文庫P79)」
「これは英子の彼に対する一番残酷な復讐ではなかったか、彼女は死ぬことによって、竜哉の一番好きだった、いくら叩いても壊れぬ玩具を永久に奪ったのだ。(新潮文庫P80)」

死んでしまったからこそ、心の奥底で離れられない存在へ昇華される。
英子の意思は人工中絶による死で完遂されたのでした。
ここでようやく溜飲が下がりました。

英子と男と戦争


英子は竜哉に出会うまでに、相愛の男の事故死を経験したり、恋心を抱いていた従兄弟の兄弟が戦争に殺されたりと、英子が好きになる男はことごとく亡ぼされる経験をしてきました。

「自分を与えんと願う男は皆死んで彼女を裏切ったのだ。依頼英子は与えずして奪うことのみを決心した。(新潮文庫P45)」

英子の男を不幸にしてしまう運命は、彼女の心の内を深く傷つけていました。

同時に英子と男の関係性の中に戦争や復興があることが分かります。

敗戦し、それを認めまいとするかのように凄まじい勢いで復興していく日本。

日本は負けてしまったという無能感に襲われる男たちと、なにもできずにいた罪悪感にかられる女たちで繰り広げられる日常。

戦争を生き抜き生き残った人々の、やり場のない鬱屈した若いエネルギーは、破天荒な行動によってなんとかバランスを保っていたよう思います。

敗戦を経験した若者の心理状態と、人間の性をうまく融合させた本作品は、自己嫌悪が蔓延する日本の空気感をうまく汲み取って、未だに読者を惹き込む色褪せない佳編となったのでしょう。

負けても失敗しても傍にいてほしい、それが恋する女性の願いなのですが、届く日は来るのでしょうか。


ところで、、、あなたはご自分の中にある無自覚の残虐性に気づいたことはありますか?

(2022年5月21日開催)


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