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妊活リセット、奴が来た

 今日、奴が来ました。生理です。あんなに産みたい・産みたくないで悩んだり、女でいるのに嫌気がさしたとセクシュアリティのことで悩んでいたくせに、わたしはうかつにも「もしかしたら?」と心配するような夜を、今月過ごしていたのです。すごく無責任だと思い、ずっと反省してきました。

 奴が来たのは正確には昨日のよる、真夜中。夫がzoomで飲み会をしていたので私は別室で映画を観ていて(ちなみに『インビクタス/負けざる者たち』と『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』を観ました)その後私は映画の感想を、夫は飲み会の感想を(新卒で入ってきた女の子が桁違いにギャグ線がある、とか)真夜中に話している最中に、奴は、来たのです。

 私は、今月の中旬からずっとビクビクしていました。もし、仮に、にんしんしていたら自分の気持ちとどう折り合いをつけようか。こんな人間が誰かのおやになってもいいのだろうか。夫は「そのときになったら考えよう。でも僕はよろこんでしまうかもしれない。そしたらごめん」と言ってくれました。
 もっとも自分がいやだったのは、きっとこのタイミングで子をにんしんしたらわたしは心のそこから喜べない、ということがわかっていたからだと思います。だから奴が来たときには安心しました。

 でも予想と違ったんです。今月の奴はとても控えめで、恥ずかしながらそれは「生理が来た」とは喜べない血量でした。私の生理は重く、痛く、血もたくさん出るのが普通で、だからその少ない血量に怯えました。この悩んだ期間のことはぜったいに忘れません。

 次の日起きても、全然血が出ていなくて、なんでだろう、いつもだったらドバっと出てベッドが汚れて泣いたりしてしまうのに、夜用のナプキンしても不安な夜をたくさん過ごしてきたのにどうして、今日に限ってこんなに少ない血だと逆に不安になっちゃうよとか、とにかく、いつもと違う生理2日目に驚き、怯えました。
 とりあえずヒルナンデスを見ることにしました。わたしが知るかぎり、ヒルナンデスは誰も傷つけず、誰の害にもならない優良な番組です。その優良なあまり、その当たり障りのなさが時にはひとを傷つけることがあります。いつもと同じ昼間のはずなのに、どうして今日は不安を抱えたじぶんがいるのか、と。ナンチャンの何も考えていない笑顔がつらかったです。

 恐るべきことに「妊娠初期 少量 出血」と調べると、Google先生は、「着床出血」という生理ではない出血があると言うんです。受精卵は着床するとき子宮内膜が傷つくことで出血する場合もあると聞いた時、もう私は確信しました。これはもうにんしんしているに違いない、と。いよいよにんしんの現実味が沸いてきて、ふつうにこわくて泣きました。

 自分の体が徐々に不安に食われていくのがわかって、なんと無責任なことをしてしまったんだろうと浅はかなじぶんの行動を憎んでいたときだったと思います。もう一度、着床出血を見ておこうとその場に立ち上がり、ヒルナンデスを見ているテレビの前で自分のズボンとパンツを太ももまでずり下げました。すると、きちんとナプキンが仕事をしてくれていて、そこには真っ赤がありました。次にはっと意識した瞬間、生理痛だとわかる鈍痛が体を駆け抜けていきました。痛みに対して、おかえり。わたしはそこでやっと奴が来たことを心から認識できました。妊活はリセットされました。

 世の中にはグレーゾーンがたくさんあることを知っているのに、なぜかこういうときほどひとは物事を決めつけてしまいます。ひとのカンはなかなか当たらないのに、絶対絶命のときにはそのカンに頼った判断しかできません。

 考えをはっきり持たないとわたしは自分の行動に自信を持てない小心者です。女とは何なのか、どうして女が子を産むのか、子を産むことはなぜ全肯定されるのか。私はなぜここまで子を産むことに抵抗があるのか。まだ自分の謎に向き合う必要がありそうです。「子は授かりものだから」と余裕で言えるところまで自分の心を持っていきたいと思っています。

 妊活はおやすみです。

今度一人暮らしするタイミングがあったら猫を飼いますね!!